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《書評》SF小説

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“テクノロジーが社会と個にどのような作用を及ぼすのか、そして社会はテクノロジーをどのようにかたちづくるのかというダイナミクスのもつ面白さ”
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サイバーパンクについて

サイバーパンク覚え書きSFジャンルに通暁するものならば、必ず目に(耳に)するであろう言葉。 サイバーパンク。 サイバーパンクと言えば、陰鬱な未来都市に絶えず汚染された雨が打ちつけ、 派手なファッションの兄ちゃん姉ちゃんが身体改造を施され、電脳空間に没入する、そんな世界だろ? 『ブレードランナー』 『AKIRA』 『攻殻機動隊』 『マトリックス』 ゲームだと『サイバーパンク2077』なんかで描き続けられた未来。 と思うだろうが、違う そもそもサイバーパンクとは80年代に成

ひとりぼっちの宇宙交流『中継ステーション【新訳版】』クリフォード・D・シマック

『中継ステーション』は『デューン 砂の惑星』(雑誌連載版)とカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』などを押しのけて、1964年のヒューゴ賞長編小説部門に選ばた小説で、錚々たるメンツを下した当時の傑作です。 著者のクリフォード・D・シマックはアメリカのウィスコンシン出身で、緑の裾野が広がる大自然のなかで生まれ育ち、新聞記者をしながらSF小説も執筆していたという人物です。 『中継ステーション』もかれの生まれ故郷であるウィスコンシンが舞台の小説で、SFとは似つかわしくない、牧歌的

これは読むドラッグであrrrrrrr。『ソフトウェア』『ウェットウェア』ルーディ・ラッカー

そもそもラッカーとの出会いは、伊藤計劃先生が影響を受けたサイバーパンクの作家の一人ということで、いつか読みたいと思っていたのが始まり。 それが去年の年末くらいに、岡山の丸善で、ゲリラ的に開かれていた古本市でたまたま、『ソフトウェア』と『ウェットウェア』を見つけ、購入。読んでみたというわけです。そのときの古本市の様子を写真に撮らなかったのは一生の不覚。テンション上がりますよねー古本市。 他にもハヤカワ文庫を探してストルガツキーの『波が風を消す』なんかも発見。ラッカーもストルガ

書評『シティ5からの脱出』バリントン・J・ベイリー

これも去年からちょっとずつ読んでいた本の感想です。 読み途中の本は綺麗さっぱり年末に消化してこそ、気持ちのよい日の出が拝めるというのに……。 今年は2024年。ちょっとSFっぽい響きで興奮する。 せっかく年を新たにしたんだから、アイコンも変更。藤子不二雄先生っぽいミァハに。 「ねえトァン“地球はかいばくだん”って知ってる……」 「知らない、なに……」 「銀河を吹きとばすことができる破壊兵器。大災禍以前は、こうした秘密どうぐが平然とデパートで売られていたの。気がむけばセカイをほ

書評『冷たい方程式』トム・ゴドウィン他

あけましておめでとうございます! 新年初読書というわけではなく、年末あたりから読み進めていた本の感想になります。本年もよろしくお願いいたします。 本作『冷たい方程式』は元々1980年にハヤカワ文庫から「SFマガジン・ベスト1」として出版された50年代欧米SFのアンソロジーで、そのなかの『冷たい方程式』があまりにも有名かつ人気になったため、新たに収録作品を組み直し、復刊したというのが本書です。といっても内容は『冷たい方程式』とアシモフの『信念』しかかぶっていないので、全く別物

書評『J.G.バラード短編全集2』

いきなり2のレビューですが、1が品切れだったためです。 こういうマニアックな本は早く買わんと、すぐなくなるから困るよね…。 本シリーズは、バラードの文字通り全短編を発表順に収録したものです。2巻は1961年〜63年までの18編を収録(初訳の短編あり)、上下二段組の文章になっていて、ボリュームたっぷり、値段相応の価値は十分に感じられると思います。 著者についてJ.G.バラードがSF界に与えた影響は計り知れない。 1960年代に、今からすると信じられないことかもしれませんが、

『No Maps〜ウィリアム・ギブスンとの対話〜』との対話

切り刻まれた都市のモンタージュが、明滅するように画面を流れていく。 次から次へとフリッカー融合頻度の臨界点のなかを、幻視の光景が瞬く。 気づけば私は、走行する車のなかにいた。 後部座席を見ている。誰もいない。 『教えてビル。ポストヒューマンとは……』 『テクノロジーが生み出し、ナノテクノロジーが完成させたこの世のあらゆるテクノロジーの相乗効果から生まれた結果のー』後部座席に長身の男が没入してくる。「集大成とも言えるだろう」 かっちょええ。なんだこのドキュメンタリーは……。

書評『残像』

ジョン・ヴァーリィは僕が最も好きな海外SFの作家で、初めて手に取ったのは2015年に出版された『逆行の夏 ジョン・ヴァーリィ傑作選』という日本オリジナルの短編集だった。 帯には円城塔先生の“まさかヴァーリィをご存じない。何も失くしたことがないならそれでいいけど。”という文句が光っており、読み終わったあとには、たしかにその帯の意味を知ることになる。 ヴァーリィのSFに惹かれるのは、ハードSFらしい大胆なガジェット、テクノロジーの描写もスリリングで楽しいのですが、やっぱり、登場

書評『モナリザ・オーヴァドライブ』

映画を見るのに以前はNetflixを契約していたのですが、今年はもうずっとU-NEXTで見てる。月額料金は上がってしまうのですが、U-NEXTにはその分ポイントがもらえて、ポイントを使えば新作映画とかも見れてしまう。 このポイントほかにも使い道が色々あって、電子書籍なんかもアプリ内で買って読めるんですね。 ポイントは使わなきゃもったいないので、絶版で読めないギブスンの長編でも買うか!と『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライブ』をダウンロードしました。 そういえば、Ama

書評『宇宙の孤児』

ハインラインの『宇宙の孤児』は第一部「大宇宙」と第二部「常識」の二部に分かれていて、「大宇宙」が1941年3月「常識」が同年10月に雑誌で発表され、しばらくたって1963年に単行本として刊行された。戦前のハインライン初期の作品ということになります。 この『宇宙の孤児』は現在絶版で、電子書籍でしか読むことができない。しかもハヤカワからではなくグーテンベルク21という電子専門の出版社から出ているだけというはぐれっぷり。(電子があるだけマシかもしれないが) なぜそんな他にもっと

書評『なめらかな世界と、その敵』

僕が最初に伴名練を知ったのは、例の“一万文字メッセージ”。それは本書のあとがきにも収録されており、著者のことをまず知りたければ、真っ先に読むといい。 一般に90年代はSF冬の時代と言われ、象徴的だと思うのが、本来はSFであるはずの瀬名秀明『パラサイト・イヴ』がホラー小説として宣伝されたことなど。“SF”とついていたら見向きがされない状況だったのだろう。ホラーと銘打つことで売るしかなかったのだ。(パラサイト・イヴはホラーでもあるんだけど…) 著者がそんな90年代に、偶然SF

わたしたちはお互いに怪物どうし 『虎よ!、虎よ!』感想

オールタイムベストによく名が挙がる作品だけど読んだことがなく、ブックオフで100円で手に入れることができたので、この機会に読んでみました。 あらすじジョウントと呼ばれるテレポート能力を人類が手にした未来の世界。乗っていた宇宙船が難破してしまったガリバー・フォイルは宇宙空間を5ヶ月もの間漂流し、助けを待っていた。 長い間救助を待ち続け、ようやく船が通りかかるも、フォイルはなぜか救助されることなく無視され、置き去りにされる。 船には“ヴォーガ”という名称が刻まれていた。 怒り

ノスタルジーと“物”への愛 『カウント・ゼロ』感想

前作の『ニューロマンサー』からガラッと雰囲気を変えた2作目。 こっちの方が読みやすいという声が多く、実際読んでみて自分もそう感じました。『カウント・ゼロ』は絶版ですが電子化はされていて、Kindleなどから没入することができる。 普段は寝る前とかに読書することが多いので、正直ipadの光はキツかった。 紙の本が一番。 ストーリー説明前作『ニューロマンサー』から7年後。合体したふたつのAI、“ニューロマンサー”と“ウィンターミュート”は、バラバラになり、ネットに拡散していた。

ハロー、グッドバイ。グレッグ・ベア『鏖戦/凍月』感想

昨年亡くなったグレッグ・ベアの追悼として出版されたノヴェラ二篇。 私は『ブラッド・ミュージック』も読んでおらず、今回初めてグレッグ・ベア作品を読みました。 鏖戦はるか未来の進化した人類と異星人施禰倶支との100頁の宇宙戦争。 1983年のネビュラ賞に輝いた中編。 翻訳の力が凄まじく、漢字を当てた訳語がとにかくかっこいい。 それはとにかく、視覚的に表現されたサイバーパンクでもある。 漢字が多用されることで、圧縮された情報の氾濫というサイバーパンク的モチーフを見た目で感じら