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映画時評2022&2023

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2022年10月から2023年12月に劇場公開していた映画の感想記、時評をまとめたものです。
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2023年私的ベスト映画ランキング&目録

本ランキングは私個人の主観により選ばれた、2023年でもっとも印象的だった映画のランキングです。 客観的な完成度でランキングしたわけではなく、あくまで初見の、印象に残ってる順。二度見したら評価が変わるかもしれません。映画という存在は常に流動的なので。 ここに載ってない映画は、劇場で観なかった映画になります。本当は年内に『PERFECT DAYS』を観に行きたかったのですが、行けませんでした。来年見たら、このリストにそっと加えておこうと思います。 追記:加えました。(2024

映画時評『PERFECT DAYS』

またもや周回遅れの感想になりますが、ヴィム・ヴェンダース監督の新作『PERFECT DAYS』を観てまいりました。結論からいうと、本作はヴェンダースの最高傑作ではないかと思います。 舞台は東京。押上のアパートに住む平山という男が主人公です。(偶然の一致ですが『東京物語』で笠智衆が演じる役も平山です)平山は渋谷区の公共トイレの清掃員をしていて、家族や恋人はおらず、閑かで慎ましい暮らしを営んでいます。そんな男の日々のルーティーンを描く映画です。 ほかの人の感想を漁ったうえで、

映画時評『ナポレオン』

僕はリドリー・スコットのファンなので、新作公開となればもちろん劇場に駆けつける。それでも観るのが遅くなり、周回遅れになってしまった感がありますが、感想を残したいと思います。 観る前から、賛否両論ある感じが聞こえていたのですが、ファンなのでどんな内容でも全肯定しようという気持ちで座席に座っていました。 本作が今年最後に観る映画になると思います。『PERFECT DAYS』も観たかったですが、年始になりそうです。しかし年の最後を飾るのが『ナポレオン』というのは、ゴージャスでふさわ

鈴木清順 生誕100周年記念 『浪漫三部作』 を観る。

鈴木清順の映画を初めて観た。 ということで、生誕100周年記念『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』の『浪漫三部作』4Kリマスター版を鑑賞してまいりました。 どれも邦画史上、燦然と輝く名作です。 三作すべてを鑑賞した暇人には、もれなく先着でB2サイズのでっかいポスターがもらえるということで、ばっちりゲットしてきました。 『ツィゴイネルワイゼン』のポスターだったので嬉しかったです。三つ観たなかでは一番好きだったから。 鈴木清順とは何者か。 1923年生まれ、2017年没の

映画時評『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』

ちょっと前に見た映画です。 記事にするほどじゃないかなと思ったけど、せっかくなので。 もうそろそろ、今年のベスト映画ランキングを発表したい。 あとは『ナポレオン』と『PERFECT DAYS』の鑑賞を残すのみという感じです。 あらすじ1963年11月22日。第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディが、ダラスでパレードの最中、何者かに狙撃され暗殺されてしまう。 暗殺の実行犯として、リー・ハーヴェイ・オズワルドという24歳、元海兵隊員の男が逮捕されるが、身柄を移送中、乱入し

映画時評『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』

レビュー今作の若きウォンカは、いわばベンチャー企業の駆け出しCEOみたいで、チョコレートで一旗揚げるために、新天地へ上京してきた夢想家という風。ウォンカが部屋で鞄を広げてみせ、なかから小さな工場が現れるシーンが最もお気に入りなのですが、それはノートパソコンのようなポータブルな職場を思わせ、まさにベンチャー感が溢れている。 (あとウォンカの佇まいは、ちょっとチャップリンを思わせる) ウォンカと敵対するチョコレートカルテルの面々は、差し詰め巨大企業、GAFAでしょうか。 この映

映画時評『ほかげ』

私は岡山在住でして、岡山のミニシアターはシネマクレール一択なわけですが、12月3日、そこに塚本晋也監督が舞台挨拶、トークショーに来ていたようです。しかし予定が重なり見にいけず、見事に機会を逃す。今年は『ザ・キラー』も見逃すし、映画運悪めかもしれぬ。 あらすじ終戦まもない日本、半焼けになった居酒屋で売春をして働く「女」のもとに、空襲で家族を亡くし、盗みをしている「戦災孤児」の少年と、かつて国語の教師をしていた「復員兵」の青年が居着く。 三人は仮初の家族を演じるが、「復員兵」の

映画時評『首』

この映画、すごく語りづらくないか? というか語りやすすぎて困る。 簡単にビートたけしの自伝的要素とかが見つかってしまうので、戦国の生き馬の目を抜く世界と、お笑いの世界、血と暴力の凄惨な地獄が、ドス黒いユーモアと哄笑、冗談と紙一重であることなど、すぐさま結びつけて語りたくなってしまう誘惑がある。 でもそれを持ってして、鬼の首を取ったような気分になっていると、すぐさま茂助のように槍で串刺しになってしまう気がしてならない。 あらすじ時は戦国、織田信長配下の荒木村重が謀反を起こした

映画時評『ヒッチコックの映画術』

関東ではもう上映が終わってるころだろうと思いますが、地方では今ごろ『ヒッチコックの映画術』が上映しております。 本作は、そのものずばりヒッチコック映画についての映画ですが、少し特殊なのはヒッチコック自身にヒッチコックを語らせるところです。 当然ヒッチコックは死んでいるので、喋っているのはモノマネ芸人。喋る内容は、監督のマーク・カズンズがヒッチコック関連の資料を渉猟し、分析して作った脚本になります。監督によるヒッチコック批評のような側面も正直ある。 全部で6つのテーマに分けて

映画時評『火の鳥 エデンの花』

本当はデビッド・フィンチャーの『ザ・キラー』が観たかったのに、劇場公開が終わっている……。チクショウ、結構ショックだ。 なのでほぼノーマークだった『火の鳥』を観に行きました。 スタジオ4℃で、あの『ムタフカズ』の監督作品だということも、全く知らずにいきました。そして帰ってあわてて『火の鳥 望郷編』を読み返しました。 あらすじロミとジョージは地球から彼方、辺境の惑星エデンにロケットで降り立った。故郷から逃亡した二人は、生き物の気配さえないこの場所を、誰にも邪魔されない二人だ

映画時評『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

スコセッシの新作。前作『アイリッシュマン』がNetflixの配給で、今作はAppleが配給している模様。なので劇場に行ってもパンフレットが置いてなくて悲しい。 スコセッシといえば、「マーベル映画は映画ではない」という強烈な発言で、論争を巻き起こしたことがありましたが、じゃあお前の新作はどうなんじゃい。というお手並み拝見の気持ちで見に行きました。 別にマーベルに肩入れしているわけじゃないですが、そこまで批判するんならそれ相応の映画を見せてもらおうかという気持ちになるでしょ?

映画時評『ザ・クリエイター 創造者』

不安な予告だった。ドンパチの映像ばっかで、人間vs機械の単純なストーリーしか読み取れない。 ギャレス・エドワーズ監督の映画は、ハリウッド版『ゴジラ』と『ローグ・ワン』の二作を見ていた。映画を見終えたあとで、初めて認知した。 まず『ゴジラ』の話からさせて頂きたい。 こいつは正直、大味な怪獣映画で、あまり印象に残っていない。印象に残っていないが、ある点において個人的100点満点のジャックポットを叩き出している映画でもある。 このOP。 陰謀論めかした記録映像風になっていて、

映画時評『キリエのうた』

僕のなかでは『ラストレター』以来の岩井俊二です。 2017年のこと、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の劇場アニメ版が公開され、なぜか賛同者が少ないような気がしますが、前年に公開された新海誠の『君の名は。』より、はるかに気に入ったのを覚えています。 『君の名は。』の三葉より、男の子より背が高くて、ほんの少し大人な、なずなの方に魅力を感じた。 化物語の戦場ヶ原じゃねーか。みたいに言われてるけど。(シャフト製作だからね) 『君の名は。』旋風が吹き荒れたあとの公開

映画時評『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』

まず最初に僕はミステリにもクリスティにも明るくありません。 今作『ベネチアの亡霊』も原作は未読。なんならアガサ・クリスティは一冊も読んだことがないという体たらく。 それでもこの作品に魅せられ、劇場に足を運びたいと思ってしまうのは、古典ミステリが放つ、オールドファッションでレトロチカな馨りのせいだろう。 監督、製作、主演を務めるケネス・ブラナーは、映画の外観、舞台美術や衣装に至るまでを精細にコントロールし構築している。 本作の舞台であるベネチアも、ポアロと古典ミステリの香気を