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【前編】ラース・フォン・トリアーの『キングダム』にハマる。季節外れの感想メモ

U-NEXTに独占配信としてラース作品の数々が、ポイント視聴とはいえ、陳列し始めたので、少しずつ見ている。
そのなかの『キングダム』というドラマシリーズを視聴したら、存外に面白かったので感想を共有したいと思いました。

『キングダム』はデンマークで製作されたテレビドラマで、本国では脅威の視聴率50パーセントを記録し、社会現象になったそうです。国民的ドラマ?なの笑
内容は北欧の『ツイン・ピークス』とも例えられ、謎が謎を呼ぶ展開と、全く予想できないストーリーで観る者のド肝を抜き続けます。

監督はデンマーク映画界の鬼才、ラース・フォン・トリアー。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などが代表作。

しかしこのドラマ、各話レンタルができず、5時間一気買いの選択肢しかない。ガッデム。なぜだ。休日まるまるラース監督のドラマを見ることに費やしてしまった。マラソン視聴である。

この感想文は、私が鑑賞中、探偵のように右手でメモ書きした文章を元に再構築されています。思い違いなどもあるかもしれませんので、半信半疑でお願いします。


キングダムⅠ

第1話 さまよえる少女

デンマーク、コペンハーゲンのキングダム病院は、かつて洗濯職人たちが布を洗い清めるための洗濯池があった場所に建てられたいわくつきの病院で、いままさにそこで死者の国の扉が開かれようとしていた……。
という感じのあらすじを冒頭のナレーションで、毎回OP前に挟んで、ドラマ『キングダム』は幕をあける。

OPは謎にポップ感があって、ここだけ見ると、救急救命24時的な医療ドラマと勘違いしそう。
キングダムッ♪ キキキキングダッ〜♪ ツボる。

主人公と言えそうな人物は二人いて、まず一人目は、デンマークのキングダム病院へ左遷されてやってきた、スウェーデン人の主任医師、ヘルマー。かれは支配欲が強めで、部下が許可なく勝手にCTスキャンを使ったことに、キレ散らかしたりする人物です。デンマーク人を野蛮人と見下したり、愛人(も一緒の病院に勤務してます)のリーモアが始めたオカルト話もまるで相手にせず、医師として科学を信奉し、迷信を信じない。メタ的に見ると視聴者視点の主人公でしょうか。

もう一人の主人公は、ドルッセ夫人という癖強のおばさんで、仮病を使って何度もキングダム病院に潜入もとい入院を繰り返して、降霊会を開こうとする人です。霊の声が聞こえるらしく、キングダム病院のエレベーターに少女の霊を発見したことをきっかけに、このキングダム病院の恐るべき陰謀を暴く探偵役となっていきます。そしてドルッセ夫人はオカルトを信奉する人です。この時点で科学vsオカルトという明確な対立軸が見えてくるようで、見かけほど『キングダム』は難解なドラマではないのではないか? と安堵の気持ち。

さて1話目ではヘルマー医師は、『朝の空気運動』と呼ばれる、朝に新鮮な空気を吸おう!という病院内のグループに参加させられます。
しかし『朝の空気運動』という能天気な名称は、目くらましに過ぎず、入会してみればそれは、医師たちによるヤバげな秘密結社でした。
医学への貢献、科学に基づく理性を絶対視し、入会の際には、ナイフを使った危険な儀式を行い、ヘルマーを強制加入させます。

1話の終わりでは、病院の地盤がゆるみ、道路の敷石が捲れ上がり、水道が破裂し、何かの復活が示唆されたところで終わります。
なんという引き。丁寧なドラマだ。

そしてエンディングも気が抜けない。なぜかカーテンコールと言わんばかりに、監督ラース・フォン・トリアー本人が挨拶を始めるのだ。
「皆さん『キングダム』第1話はどうでしたか?」みたいな感じで。なんなんだほんとに。

「善も悪もあることを心得よ」これが決めゼリフ&決めポーズである。

第2話 御国を来らせたまえ

言い忘れてましたが、本編は終始、荒い画質の映像にセピア色のフィルターがかけられていて、監督の作品のなかだと初期の『エレメント・オブ・クライム』のような感じがあります。

まず2話目で爆笑したのが、ヘルマーがある患者をオペするのですが、その患者が麻酔アレルギーで、麻酔で眠らせることができない。
そこでなぜか、催眠術師がオペに同行し、催眠術で麻酔をかけてしまいます。ヘルマーも私も当惑。

そしてクロウスホイというヘルマーと対立する若い医師がいるのですが、かれが病院の地下に隠し部屋を持っていることが明らかになります。隠し部屋にはくすねてきた医療品や、配給、備蓄などが保管されており、クロウスホイは病院内の便利屋として、さまざまな物資を各地の部署に送り届けているようです。
なるほど。やはり病院内が一つの王国になっていて、閉ざされた社会を築いているというやつか……。JGバラードの『ハイ・ライズ』のような感じか? 好きなやつだわ。

そしてヘルマーですが、厄介なことに、モナという少女をオペした際に、脳を傷つけてしまったようで、モナを廃人同然の生ける屍にしてしまったらしく、母親から訴訟を受けているようです。
モナはだらしなく口が開き、よだれを垂らしていて、母親がシチューのようなものを口に入れさせようとするも、垂れ落ちるだけという悲惨な容態です。
このモナという少女ですが、思い出していただきたい。第1話の霊感おばさん、ドルッセ夫人が聞いたという少女霊の声を。
このモナが少女の霊の正体なのか? オペの失敗を恨んでキングダムに取り憑いたのか?

この霊ですが、催眠術オペの際に、患者も霊の姿を幻視していて、少女はヘルマーに対してベルを鳴らし続けていたという。ベルは死を告げる鐘なのだという……。

キングダム病院には、1話の冒頭にも出てくるのですが、幽霊救急車がたびたび出没し、無線でキングダム病院に向かっているという連絡だけ残すのですが、一向に姿は見えません。しかも“担架車”という古い言葉を使います。そしてこの担架車は、少女を搬送しているらしい。ぞくぞくするエピソード。すばらしい。

そして2話のラスト。
少女の霊を探しているドルッセ夫人は、なんと病院内に息子がいて、そいつがクマみたいないかにも北欧のでぶっちょという感じで、かわいいキャラなのですが、その息子と息子の同僚を配下に加え、犬を解き放って霊を探し回ります。
しかし、そのワンちゃんが、無惨にも殺され、霊体と化してしまうところで、終わります。なんじゃそりゃ。

そして相変わらず、ラース監督が幕間に登場し、謎めいた次回予告というか今話のまとめをやって、終幕となります。

第3話 異物

毎回、各話の始まりはヘルマーが出勤してくるところから始まるのが通例らしく、1話=1日が消化されるようです。
こんな病院に毎日勤務するのは、普通に嫌だ。
ヘルマーは失敗したモナのオペの記録をもみ消そうと企みます。彼は愛人のリーモアに、カルテにコーヒーをこぼして読めなくするという、せこい破壊工作を頼み、成功するのですが、なんとそのカルテにはコピーが存在し、そのコピーが医師会の手に渡ると、ヘルマーは破滅することが確定してしまいました。さらに一方、便利屋クロウスホイもヘルマーの怪しい動きをキャッチし、カルテのコピーを手に入れようとします。

ドルッセ夫人も、少女の霊の正体を探り、それが1919年に亡くなったマリーという少女の霊だということを突き止めます。(モナの霊ではなかった)マリーは、結核を患っており、その治療として酸を飲まされるというトンデモ療法によって犠牲になった無垢な魂だったのです。
このマリーの霊を祓うために、ドルッセ夫人はマリーの遺体の在処を調べに、やっぱりカルテが保管されている資料室へ向かいます。

カルテをめぐって三者が集結するという、技巧的な脚本に思わず唸ります。うまい。

さらにその影では『朝の空気運動』の医師である、ボンド教授が大変な計画を実行します。
キングダム病院には、ある肝臓がんの患者が入院していて、病院としてはかれの死後の遺体を検体として是非とも手に入れたかった。
しかし、遺族が同意せず、貴重なサンプルを渡してくれない。

ヘルマーは、肝臓を末期がんの患者と無断で入れ替えちゃえばいいじゃん。という倫理的にアウトな提案をして却下されますが、ボンド教授はこの計画を頭の片隅から払いのけることができませんでした。
でもやっぱり倫理を踏みにじるわけにはいかない。そこでたったひとつの冴えたやりかたを思いつきました。
自分の体にいったん移植すればいいんだ!という狂気の発想です。

そして3話ラスト。ドルッセ夫人が病院内で、ホルマリン漬けにされたマリーの遺体を発見して終わります。

第4話 生ける屍

ドラマと並行して、おそらく病院内のどこかであろう一室で、みためダウン症患者のような二人の男女が、ひたすら皿洗いをしていて、作中に登場する人物の運命を、仄めかすという謎すぎるシーンがたびたび挟まるのですが、説明はとくにありません。なぜか黒幕感があります。

結局、モナのカルテはクロウスホイの手にわたり、クロウスホイはそのカルテを持ってヘルマーを脅します。
力関係が逆転したヘルマーは、起死回生の一手として愛人づてに聞いたハイチのヴードゥー教の秘術に興味を示し、クロスホイをゾンビ化する毒薬を入手するために、同僚のハイチ人と共に飛行機で飛び立ちます。
そしてそれをヘルマーの愛人は浮気と勘違いし、拳銃を取り出し、地下のネズミ相手に射撃訓練を開始し、殺意のボルテージを徐々に高めていく。

クロウスホイといい感じの仲になってきているユディットという女医がいて、彼女は昔付き合っていたオーエという男との間に子供を身籠もっていました。しかしそのユディットが、なぜか透け始めます。生きながらちょっと霊体になりかけます。
そしてその原因は、合流したドルッセ夫人との会話で明らかになる。
エディットが付き合っていたオーエという男が、実は1919年に幽霊少女のマリーを殺した、クルーガー医師その人だったのである。
明らかに時系列が一致しないのですが、おいおい説明されるでしょう(されるよね?)
マリーはクルーガー医師の不倫相手の娘で、不倫の事実を隠すためにマリーは殺されてしまったのだった。
ユディットそうした経緯で、呪わしい何かに関わってしまい、ユディットのお腹のなかの胎児は急速に成長し始め、生まれようとしてきます。

そしてマリーの霊を祓うために、ドルッセ夫人とその息子、クロスホイが結託し、儀式を執り行うことに。しかし、儀式は停電により邪魔され、不発に終わってしまう。

ユディットはついに出産を初めますが、股の間から顔を出したのはおっさんの顔であった。

抜き打ち的に訪れた医師会の視察より、キングダム病院の脳神経外科の実態が、ことごとく暴かれたところでドラマ前半は終了しました。

あとがき

ラース監督の初期作は正直、とっつきづらさが目立って、それほど感心しませんでした。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか『ドッグヴィル』は本当にわかりやすくて面白い映画だったんだなあと、いまさら嘆息する。

『キングダム』も、わかりやすい方です。ラース監督の病的な部分も控えめ。諧謔をまじえたホラードラマになっていて、リアルと不条理のスレスレを飛行する見事な匙加減でした。いやあ大当たりだぜ。

ドラマ前半部分ではまだ謎が多く、地獄の扉もまだ開きかけというところでしょうか。ヘルマー医師もだんだんオカルトに傾き始めているようで、科学vsオカルトという私の見立ても間違っていないはず。
それに加え、やはりラース監督の初期のテーマはヨーロッパという自らの出自を語ることにあって、その迷信深さ(ミッドサマー的な)と、近代的な先進国としての両面を併せ持つ矛盾といったことに関心があるのではないでしょうか。うーん、うまいこといえない。

後半も視聴を続行したいと思います。

再びキングダムの世界に戻る際には、善も悪もあることを心得よ


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