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Yell note :Page47 舞台「浅草いちご座物語」感想

僕「宮城県産のいちごって有名なブランドあったっけかな」

とちおとめ…だと…?!キャスティングの妙ってやつですか…??

というわけで10月25日~10月29日にかけて開催された舞台「浅草いちご座物語」を観劇してきましたので感想記事です。私が行ったのは10月27日公演でしたが連日お客さんの入りも賑わっているようで千秋楽も無事に終わっている…はず。キャスト・スタッフの皆さんお疲れさまでした!

1.参加イベント概要

・イベント名
劇団ウルトラマンション公演『浅草いちご座物語』
・参加日時
2023-10-27(金)  19:00~21:00頃
・開催場所
コフレリオ 新宿シアター(東京都)
・出演者(順不同、敬称略)
安藤亮司、井吹カケル、八幡夏美、尾崎真一、髙野彩加、松坂瀬奈、城あすか、君崎友梨夏、和田啓汰、荒井瑠里、仲藤涼花、龍杏美、御堂耕平、椎野コウスケ、桐山トモユキ
・syuの位置
1列目下手側指定席
・備考
終演後物販にめっちゃ役者さん出てきててびびった。界隈が違うと雰囲気も全然違うものですね。

2.本編感想

①あらすじ

きっかけは復興だった。
ここは東北。宮城県にあるいちご農家。
僕はここのいちごを食べて、笑顔になった。
ここは関東。東京浅草にある商店街。
僕はここならもっと笑顔が増やせると思った。
ウルトラマンションがお送りするハートフルコメディ!
乞うご期待!

劇団ウルトラマンション公式HPより

私は詳しく知らないんですがこの舞台は2度中止になっているそうで、調べた限りだと元々は2020年4月開催だったようで。確かにそのタイミングだと内容の時系列的にはよりホットだったかもですが、「今この瞬間に」選ばれたキャストさんの演技を見れたということ、そして作品のテーマ的に中止という困難に負けず公演をやりきったということに大きな意義があるんじゃないかと思います。

②少し自分語り

今回作中では主に宮城県山元町の様子が描かれます。2011年の東日本大震災で被災したいちご農家がどのように立ち直っていくかというお話。
私自身は実家が岩手県沿岸にあり、震災の津波によって実家の一階部分が完全に浸水。住んでいた両親は仕事に出払っていたため無事でしたが、私が生まれ育った家を含め海から数キロ圏内の範囲は全く様変わりしていました。

作中で「震災の後はがれきと塩が染み込んだ土しか残らなかった」という台詞がありましたが、本当に何も残りません。建物も、人の命も、そこで暮らしていた人たちの思い出さえあの一日で全て押し流されてしまいました。

そんなわけで私にとって今回の舞台は感動とともに、昔の故郷の姿を思い出して少しばかり胸に鈍痛が甦るような、そんな内容でした。

③感想あれこれ

全般を通し演出面で印象的だったのが2つ。

まずは演技のメリハリやテンポ感が小気味よく、山元町の人たちは普段とても元気でやかましいのだけどそれでもやはり数年前の震災からようやく立ち戻ってきたばかりで、道代・セリ・雫が海辺にいるバクさんを見つめるシーンなど悲しみが彼らから消え去ったわけではないという事実が重かったです。
また、テンポ感という点ではさくらの登場シーンがとても面白く、特にシバッチとのやり取りで「しばくぞ」という即レスが火の玉ストレートでしたね。さくら姐さん達観しすぎてて異世界転生してません?とずっと疑っていました。私が見た回は龍さんが演じてましたけどダブルキャストの岸岡さんも見てみたかったです。

で、2つ目は舞台端に置かれためくり台。作中では様々な人の回想を追うことになり時系列や場所がころころ変わるので、ああいうメタ的な説明装置があると頭の中が整理されて見る側としては助かりましたね。
一方でどんどん紙の枚数が減っていくと「そろそろ終わっちゃうのかあ」という寂しさもありつつ。

演技面で一番心に残ったのは福岡から原島が1人で戻ってきて、収穫されたいちごを食べるシーンでしょうか。
あの時「おいしい!」とか「うまい!」とか感嘆の台詞は無く、無言のままじわーっと顔が緩んでいくような演技だったんですよね。それを見ていちごの酸味と甘味が口に広がっていく感覚が容易に想像できましたし、絶対おいしいやつ!という確信が見ている方にも伝わってきました。
そんな傑作だったからこそ、食用ではなく化粧品用としての取引を提案された時の大吉の気持ちも推して知るべしというところでしたし、短期的に正しいとわかっていても「いちごを食べてもらってみんなを笑顔にしたい」という信条からはなかなか受け入れられないよなあ、と。

ウルトラマンションさんの作品としては以前「だから立ち上がる」という作品を見たことがありまして、内容としては違っても根底に流れるテーマは共通しているのだと思いました
強さを生まれ持ったから強く生きていけるというのではなく、生きていく場所や人との出会いで如何様にも人間は変わっていく。巷には「死ぬこと以外かすり傷」みたいな言葉があるように、困難や挫折を工夫や気合で乗り越えていく。その道程は決して独りではなく、絶望だらけでもない。浅草に向かって、そして人生の理不尽に向かって啖呵を切るラストシーンはそんな示唆に満ちていました。

あとはツッコミどころというかちょっとした気づき。
序盤から雫が電話するシーンが差し込まれるたびに「何か違和感あるな…」と思って見てたんですけど開始30分くらいで気づきました。作中で既婚者がたくさん出てくるんですけど、誰も結婚指輪付けてない(はず)。
山元町の人はみんな農作業してるからだよねーという設定で納得できたのですが原島夫妻は指輪しててほしかったかな!たくさんの言葉よりも目に見える証の方が雄弁に関係性を表していたりするじゃないですか…!(熱弁)

④栃木県産の乙女(即ちとちおとめ)

「リアルとちおとめ」こと荒井瑠里さんについて。

今作は出張の多い旦那さんを気にかける奥さんという役柄での出演。
私は独身なので結婚5年目の夫婦がどんな雰囲気なのか想像つかないですけど、原島夫妻は夫婦としての信頼もありつつ恋人的な距離感もあって、というある種の理想形みたいな関係でした。
物語的には彼女のアイディアが燦燦園のいちごを活かすきっかけになったり、気落ちした夫を励ますというところでのキーパーソンになっていましたね。

彼女も他の登場人物と同様に明るい朗らかな女性でしたが、海辺で震災当時の話を聞くシーンでは拳をぎゅっと握ったまま瞬きすることを忘れてるんじゃないかというくらい大吉とバクさんが語り合う姿をじっと見つめていました。。
片や結婚してからの日数を数え支え合う夫婦、片や死別してからの日数を数える寡夫。そんなどうしようもないコントラストを噛みしめるような横顔がとても記憶に残ってます。

で、雫のハイライトと言えばやはり社歌でもって夫を叱咤するシーンでしょう。それまであんな激情を放つような振る舞いがなかったので私含め驚いた人は多かったと思います。
私の席は下手の端っこだったので角度的にちょうど荒井さんと向き合うような位置だったのもあり、あの声量で右耳の鼓膜がビリビリ震えるわ自分が怒られてるような気分になるわで確実に心拍数が上がってたと思います。気絶しなくてよかった。

素人考えで、という前置きをしつつあのシーンの荒井さんがすごかったなというのは心技体がそろっていたからこそと思うのです。
例えば私みたいなパンピーが大声を出すとなると声量を担保することに必死になって演技なんて当然できません。というか響き渡るような大声を出すことすらできないでしょう。せいぜい奇声くらいはあげられるかもしれない。
なので「あの場面だからこそのインパクトを与えられる声量を出す身体能力」「大声でつぶれない台詞の聞き取りやすさを両立させる技術」「夫は必ず諦めず立ち上がるという確信を込めた情感」という荒井さんが持ちうる三要素が発揮された名シーンでした。
計7公演であれをやり通すのは本当に大変だったと思いますが、その分お客さんへの説得力もレベチだったと思いますよ。私は雫の台詞を通して「お前は自分の人生本気で生きてるのか?!」と問いかけられたような気がしています。

3.まとめ

もっと他のキャストさんのことも書きたかったのですが果てしなくなってしまうのでざっくり感想とさせていただきました。
恐らく見た人自身の境遇なんかによっても感じ方は違うでしょうし、お目当ての役者さんごとによかったシーンなんかもたくさんあると思います。

きっと共通して言えるのは言葉にはしにくくても明日から、いや今日からがんばろうと思える活力が舞台を通して得られたこと。がんばろうとあがいたりもがいたりするのは決してかっこ悪いことじゃないんだということ。何かとごちゃごちゃ考えがちな自分にとって人生をシンプルに考える気づきになってくれた作品でした。
改めて、良い作品を作り上げてくれた皆さんに感謝と拍手を~。

4.おまけ

浅草苺座の成り立ちについて記事読みました!舞台の内容とどこが違うのか気にしながら読むと面白いです。

観劇前に安藤さんのインタビュー記事も読了。しがないサラリーマンの自分からすると劇団運営の難しさは想像つかないですが、見えないところでの色んな積み重ねがあって幕が上がるのですね…。勉強になりました!

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