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Yell note :Page14 舞台「テイクアウトできますか?」感想

I'm singing in the rain
Just singing in the rain
What a glorious feelin'
I'm happy again
「Singin' in the Rain」劇中歌より

というわけで舞台「テイクアウトできますか?」を見てきました。3日間全6公演という比較的短い期間の舞台でしたが関係者の皆さんお疲れさまでした!いや、本当はワイの感想とかどうでもええわ!っていうくらい面白くてお腹いっぱい胸いっぱいという感じなんですが、そういうのもちゃんと言葉にして残しておかなくてはね。
それではネタバレも含みつつ、原作未読勢(初見で楽しみたかったので)による感想いきます!

1.参加イベント概要

・イベント名
舞台「テイクアウトできますか?」
・開催日時
2023-3-11 (土) 19:00~20:40頃(本編約80分、アウタートーク約20分)
・開催場所
絵空箱(東京都)
・出演者(順不同、敬称略)
須藤叶希、山城なつみ、小城祐介、rio.[BGM演奏]、???[ウクレレ演奏]
・syuの位置
1列目下手側指定席(客席は変則L字配置)
・備考
この日は声優の洲崎綾さんも見に来ていたとか。似たような髪型のお客さんいたけど本人だったかは自信ないな~!

2.本編感想

①あらすじ

配達員の佐々木は馴染みのカフェに荷物を届ける。
すると、そこには見慣れない店員がいた。
上野と名乗る彼女は、佐々木にドーナツを差し入れたことをきっかけに、どこかすれ違いながらも仲良くなっていく……。
カンフェティ公式より

ストーリー自体はめちゃめちゃシンプルで元カレやら元カノも出てこないし、もちろん思考を読む能力者とか歴史を変えるためにタイムリープを繰り返してる人も出てきません。フツーです。でもフツーに面白いんです。フツーがいちばん!

②印象的だったシーン

ここからは印象的だったシーンを順を追ってピックアップしてみます。記憶違いがあったら申し訳ない。

・ボーダレス&シームレスに始まる物語
開演時間になるとホウキとちり取りを持った店長(演:小城さん)が床を掃きながらお客さんに「今日はどこから来ました?」とか「今日は客席の近くまで行くので足とか気を付けてくださいね」と話しかける。
舞台開演の挨拶というか前説かな?と思っていたら上野(演:須藤さん)が「店長!」と声をかけてそこから物語がスタート。とはいえ明確に線が引かれていたわけではなく、いわゆる「第四の壁」が意図的に曖昧にされている演出が本当に新鮮で見ている側の心理的距離や臨場感がぐっと近づいたように感じました。

・急に踊るよ~
いや実際急だったからちょっと驚きましたけども。
佐々木(演:山城さん)が仕事終わりに上野と出会ったシーンの直後、オープニングとして二人が踊り始めるんですけど目の前(1mくらい)まで来るからめっちゃ近いな?!という驚きと、楽しそうな曲に合わせて優雅に踊っているから「この物語は二人が"うまくいく"までの過程を描くんだな」という前フリと受け取りました。オチをあれこれ想像するのではなくオチを知った上で俯瞰的に過程を楽しむタイプ、とでも言えば伝わるでしょうか。
とはいえ私はこの時点で二人のどちらが先に相手を意識するのか、とかは全く知らない状態だったのでその辺を注目して見ていました。
そしてピアノ演奏のrio.さんとウクレレを演奏している愉快そうな女性が出てきて……って、誰だアンタ?!

自分の席から撮影した画像。舞台を降りた場所でも演技が繰り広げられるためとても近い。近すぎる。

・Turn on
仲良くなった上野と佐々木がお互いのことを話すシーン。上野は自分が犬好きなことを話してして佐々木はそれほど興味がなさそうにしているのですが、須藤さんが実際に愛犬家であることを知っているとメタ的にちょっと面白い場面でした。
そして上野は犬好きな自分のエピソードに絡めて「雨に濡れた佐々木さんを見た時に犬みたいだと思っちゃったんだよね。だから佐々木さんが好き」(うろ覚え)と言っていました。
このシーンの前に上野は自分が来店客にナンパされた時のことを明かして「自分が"そういう対象"に見られることや"そういうモードに切り替わった瞬間"が苦手」と言っていたので、その言葉が上野自身に返ってきているのだ、ということと二人を眺めている私の認識が少し変わった瞬間でした。仲が良い女性二人がただ世間話をしているだけではないのだと。

・二人の間にカウンターは無くなった
上野と佐々木がお互いの仕事服を交換するシーン。作業着から喫茶店の制服に着替えた佐々木はスカートに慣れてないのと上野から可愛いと連呼されたことでいつもの勢いはどこへやら。
そして一方の上野も佐々木の作業に着替えるわけですが、作業着を大事そうに抱えてみたり制服姿の佐々木をまじまじと見つめてみたりとご満悦な様子。
このあたりは二人が「喫茶店の店員と客」というロールから外れて別の側面を知るという象徴的な場面であると同時に、上野の「感情の重さ」も匂わせていましたね。

・そして再び雨が降る
ある時から急に機嫌が悪くなった(ように見える)上野とその理由が思いつかない佐々木。ベンチで言葉を交わすものの上野は結局何も言わず去ってしまい…というシーン。
私は全編通してここが一番好きな場面です。上野が佐々木に対して何か言おうとして数秒逡巡し結局言葉を濁してしまうという一連の空気感があまりにもリアルすぎて、きっと誰しも一度くらいは(だいたい恋愛絡みで)経験する気持ちのすれ違いや温度差が二人のちょっとした表情や仕草で絶妙に表現されていました。特に上野はどこか掴みどころがない性格だったのでやっと本心が垣間見えたというか。
このあと佐々木は店長に「自分は上野さんに嫌われてしまったからもう店には来ない」と告げるのですが、店長は一言「そっか」とだけ返します。私は「あの子が佐々木さんを嫌うはずなんてないよ」という励ましや「佐々木さんの勘違いなんじゃないの?」といった通り一遍の返答を予想していたので、それまでおちゃらけていた店長が見透かしたような様子だったのがとても意外でしたね。見てないようで二人のことをちゃんと見ていたのかもしれません。

・「テイクアウトできますか?」
二人が自分の気持ちを明かすラストシーンではここまでの会話に散りばめられてちょっとした伏線が一気に回収されます。そして制服からラフなパーカー姿になった上野の破壊力ったらね。いじらしいよ!そりゃもうタイトル回収待ったなしだよ!
というか喫茶店の話だからどこかで「テイクアウト」というフレーズが出てくるんだろうな~とは思っていたんですが思いのほか直球が投げ込まれたので最後の最後まで気が抜けない良い締めでした。

③演出とか色々

その他雑感を簡単に述べておきます。

舞台、というか物語の空間と客席の距離が物理的に近いということは前述の通りですが二人を見ている自分は「喫茶店の壁」あるいは「街路樹」になっている、という感覚でした。なのでできることなら呼吸すらも止めたいというか、距離が近いんだけど役者さんに人間としての視線を認識されたくないというか、そんな不思議な状態でした。
今回は客席の位置によって角度的に演者の表情が見えたり見えなかったりということがあるので、複数回見た人もその度に違った発見があったのではないでしょうか。私も逆側の席でもう一回見てみたかった…!

ついでに付け加えると、本編中は客席から衣擦れの音ひとつしない静寂さが保たれていて物語の世界観を創り上げる一助になっていたと思います。つまり観客のマナーがすこぶる良かったです。そんなわけで終演時は演者だけでなくお客さんたちに向けても拍手させてもらいました。グッジョブ!

rio.さんによる演奏(まさかの即興)も二人の心理的距離をうまく表現していましたし、地味に佐々木の車のロック解除の音(キュキュ!ってやつ)のSEも合って細かいとかまでこだわってるな~と思いました。

3.アフタートーク感想

ウクレレの人!……もとい、やよいちゃん!……でもなく、大沢やよい先生!

ということでオープニングでウクレレをジャカジャカ弾いていた(エアではなくガチで弾いてたらしい)愉快な人は原作漫画の作者さんでした。作者さんの顔を知っていたお客さんも結構いたらしいですけど冒頭からびっくりしたんじゃないでしょうか。

アフタートークでは原作者の作品に込めたこだわりやキャスト陣の苦労話など、ここだから聞けるという話題がたくさんでとても楽しめました。個人的には本編でもちらっと触れられていた上野と佐々木の年齢についても知りたかったですね。でもまあその辺は明確な設定を明かすと興が削がれちゃうかな。
劇中のアドリブについてはかなり自由にやらせてもらっているということなので、各キャストの性格が表れていてそこも楽しめるポイントになっていました。果たして山城さんは小城さんの小話に笑うことなく千秋楽までやり通せたのか…?と思ってたら無理だったようです(本人のtweetより)

そして何より須藤さんと山城さんのわちゃわちゃした距離感が上野と佐々木の後日談を予感させるというか、あの二人もこんな感じに気負わず笑い合っているんだろうなと思わせてくれる時間でしたね。

4.主演二人について

①上野役 須藤叶希さん

昨年10月に某アカペラコンテンツのイベントで拝見して以来ということでどんな演技をされるのか楽しみにしていました。
女優業はずっとされていたと思うんですが舞台出演は意外にも初めてということで、にもかかわらず淀みない演技はさすがの一言でした。どっちかというと須藤さんを間近でガン見していた私の方が緊張していたかもしれません。口調の抑揚や視線の揺れなどに台詞とは異なる感情がたくさん込められていて、一瞬も目が離せなかったです。

上野の印象は一言で表現すると「体温が低そうな女性(クールという意味とはちょっと違う)」で、他人や仕事に必要以上に入れ込んだりしなさそう……と思ってたら話が進むにつれてそのイメージがどんどん覆されていくのが面白かったですね。「モテるよ?」とかさらりと言ってしまってたのに、本当に好きな相手を前にして余裕が無くなっていくさま、というか。
特に佐々木に対してのアピールやラストの掛け合いは思わず「めんどくせー女だな!」と言ってしまいたくなるくらい、いい意味で予想を裏切ってくれました。

②佐々木役 山城なつみさん

山城さんは今回初めて拝見しました。上野とは容姿も性格も共通点が無い女性を演じるということでその対照性が保たれていたのが劇の面白さを引き出していたと思います。
私が注目していたのは山城さんの目の演技で、須藤さんの含みのある視線とは異なり裏表無く真っ直ぐに相手を見据える様子は上野が佐々木に惹かれた必然性に対し十分な説得力を持たせていました。眼力めぢから強すぎてめっちゃ応援したくなりました。

佐々木の察しの悪さは自己評価の低さと裏表の関係になっていて、言葉にしてもらわないとわからないというのは決してバカだからというわけではなく上野と自分は釣り合わないという思いによるものでしょう。まあそれを差し引いても上野のムーブが回りくどすぎるというのはあるでしょうが…。
だからこそ服交換した際は見ている観客側も「佐々木さんは可愛いよ!自信持ちなよ!ナンパされちゃうよ!」と応援したくなったりギャップ萌え(死語)したりしたんじゃないかと思います。少なくとも私は思ってました。


いい作品はついつい語りたくなっちゃうんですが解釈違い警察に殴られたりするのでこの辺に留めておきます。
実は時間が無くてパンフレットや原作漫画に目を通せていないのでじっくり余韻を楽しみたいです。

それでは出演者および関係者の皆さん、素敵な「2.9次元」作品をありがとうございました!


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