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【読書感想文】すみれ荘ファミリア

本屋大賞受賞作家、凪良ゆうさんの加筆修正と、「表面張力」という短編が収録された一冊です。

ありのままの自分ってなんだ? 自分が何者なのか、なにを望んでるのか、みんなそんなにはっきり把握してるのか? 少なくとも、俺は自分のことなのにわからないことがたくさんある。自分ですらわからないものを、他人がどう赦して受け入れるんだ。そもそも赦されなくても、受け入れられなくても、生きていくことに変わりはないだろう?」 芥は自分の足下を見て話す。青子にではなく、和久井にでもなく、ただ自分の内を覗きこもうとしているかのようだ。

名前のない毒  青子の告白  より

芥は、どこか本質を見抜いたような物言いをする。「ありのまま」でいい、「ありのまま」でいられる、「ありのまま」で生きたい、確かによく聞くけれど、芥のセリフに、そうだよな…と読みながら考える。



すみれ荘には、重いPMSで毎月半月ほど絶不調で過ごす美寿々、テレビ局で昼夜過酷に働く隼人、花屋に勤める古くからの下宿人 青子、そして管理人の一悟が家族のように暮らしていた。

そこへ、ミステリアスな作家、芥が突然同居することになる。

管理人の一悟くんはとても「人がいい」。
「人がいい」というのは、芥に言わせれば
「もう少し人を疑うべき」とも言える。

そうだよな…。


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私は以前、Instagramのアカウントを閉じて、もう辞めようと思ったことがあった。まだ、SNSを使いこなせず、見よう見まねで投稿したり、イイネやコメントのやりとりを新鮮に楽しんでいた頃だった。

フォロワーも2000とかを超える写真の上手な方をフォローしていて、彼女のコメント欄が開くと、いつも100件を超えるやりとりが繰り広げられていた。

私も、イイネをしているばかりでなく、コメントを寄せるようになった。丁寧なコメントを返してもらえることに嬉しくなって、カメラの使い方やレンズのことを直接メッセージで聞いたりもした。
そう、近づいたのは、私の方からだ。

私の投稿にもいち早くイイネをしてくれるようになり、必ずコメントを残してくれるようになった。千人以上もフォロワーがいる彼女が、だ。私は嬉しくなって、コメントを返し、直接メッセージが来ればマメに返していた。

なんていい人なんだ。
たくさんの人からイイネもされて、やっぱり素敵な人なんだろうな、そう思って疑わなかった。

同じ頃、本の趣味も合い、やりとりしていくうちに仲良くしていた人がいた。彼女は、私が他の人とコメント欄で仲良さそうにしているのを、気にするようになっていたけれど、私は気にもとめず「いい人だよ」と呑気にやりとりを続けていたのだ。

けれどもそのうちに、私の投稿からはイイネが減っていき、何故だかフォロワーは減り、ついにはフォロワー数2000人超えの写真の人からの忠告メッセージがきた。

「あなたの周りをかぎまわってる人がいるみたいです。あなたのフォロワーのところを覗きに行ってはブロックしたり、メッセージを送ったりしているようです。」

と。私は、趣味が合い仲良くなっていたけれど、私のコメント欄でのやりとりを気にするようになった彼女を疑ってしまった。

「あなたのフォロワーの○○っていう人、
   私のところへも来て、勝手にブロックされ       ました。私は何もしていないのに。」

とも忠告された。怖くなった。
優しい物語の本を好み、陽だまりのような写真を撮る彼女が、そんなことをしているだなんて。そして、2000を超えるフォロワー数の写真の人の説得力を信じてしまった。

写真の人は、私はたくさんフォロワーもいてたくさんのコメントをもらうけれど、あなたみたいな言葉を使う人はいない、と褒めてくれた。私は、それを鵜呑みにしたのだ。

フォロワーが離れていき、執着のあるストーカーみたいな人が嗅ぎ回るようなアカウントは閉じてしまえばいい、新しくアカウントを作って、そこには信頼できる人しか招かなきゃいい。そう言われるまま、あの優しい物語を好む、陽だまりのような写真を撮るフォロワーさんを切り捨てるように、アカウントを変えてしまった。


新しいアカウントは、あのフォロワー数2000超えの人が常に監視していた。フォロワーが増えれば「この人はやめたほうがいい」、誰かにコメントをすれば、そこに彼女のイイネがつき、フォローし、コメントを寄るようになった。投稿をすれば、秒でイイネがついた。その素早さに、常に見られている圧を感じるようになっていった。

そして、初めて疑いを持つようになった。

あの忠告メッセージ。周りを嗅ぎまわっていたのは、どうやら、この人だと。

よくよく見てみれば、彼女のフォロワーは得体の知れない外国人や、有名人のなりすましや、稼働していないアカウントが蓄積されていた。コメント欄を賑わせていたのは、それ以前に、彼女がこまめに毎日コメントを寄せていた人たちからだけだった。

「いい人」でも何でもなく、ただSNSに依存し、優しく親切な顔して知らぬ間に取り込む、ストーカーのような人だった。

後に、彼女が偽アカウントから、陽だまりのような写真をとる気の合うフォロワーさんになりすまし、私のまわりにいるフォロワーさんへメッセージをしたり、わざとフォローしたあとブロックしたりを繰り返して、嫌がらせしていたことがわかった。
 
直接出会えたフォロワーさんと答え合わせをして、わかったことだった。

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青子を疑うなど、思ったことなかったろう。
けれど、あるのだ。思うがゆえに、そういうとが。

いい人ばかりではない、とはわかっていても、人を疑い出せばキリがない。
とはいえ、やはり、芥のように本質を冷静にみる目も養っておかねばならない。

愛情という大きなものは、適切な力でもって扱わなければ、簡単に歪んでしまうものなのかもしれない。




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