見出し画像

趣味のデータ分析063_ゆとりある暮らしのために⑧_物価高でも、ゆとりあり

062で、日本の黒字率が、二人以上でも単身でも、年収別でも年齢別でも、趨勢的に上昇傾向にあること、特に2015~2017年前後で切り上がっていること、勤労世帯の全体平均で見た水準は概ね30%前後であることなどを確認した。
ただこれらのデータは、年ベースの長期的な傾向であり、特に2022年以降の急激なインフレ率の上昇の状況はほとんど反映できていない。というわけで今回は、2017年以降の月次データを用いて、直近の動向について確認していきたい。なお、直近データは2023年10月である。そのうえで論点先取になるが、エンゲル係数も合わせて確認する。

(構成/概要)
■足元の物価高と黒字
・月次で見ると、二人以上世帯でも、黒字率は概ね上昇傾向。コロナ禍で高止まりしているような形。
・無職世帯、単身世帯はコロナ禍で一度伸びてから少し減少しているが、2017~2019年水準よりは高い。
■エンゲル係数の謎
・エンゲル係数は、二人以上世帯で概ね上昇、単身世帯で概ね下落している。

足元の物価高と黒字

月次のデータについてだが、021でも少し見たが、図1のとおり、月次で見るとかなりギザギザでわかりにくい。これは、ボーナスの変動と、年金が偶数月のみ振り込まれることによる影響である。

図1:二人以上勤労者世帯の平均黒字率等の推移
(出所:家計調査)

というわけで、図2のように、6ヶ月移動平均のデータで分析していく。このスパンであれば、ボーナスも年金振込の影響も均されているはずである。
さて、ではどうなっているかというと、緩やかだが2017年以降、足元乗っ物価高にも負けず、黒字率は上昇傾向にあるようだ。一応直近は、2020年の高水準に比すると若干下がっているようにも見えるが、2017~2019年ころの水準よりは高いように見える。
また合わせて、エンゲル係数も取得してみた。これは、黒字率に比べると横ばいだが、こちらも2020年以降、若干だが上昇しているようにも見える。

図2:二人以上勤労者世帯の平均黒字率等の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

では、ブレイクダウンしたものを順次見ていこう。まずは無職世帯だが、2017~2019年の時点で、すでに明瞭な黒字率の上昇傾向が見て取れる。給付金の関係でコロナの時期に黒字率は一時的に黒転、その後またマイナス圏に落ち込んで、以降マイナスを深掘りしているように見えるが、それでも2019年頃の水準で、2017年ころのほうが十分低い水準である。

図3:二人以上無職世帯の平均黒字率等の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

以降は煩雑なため、黒字と消費支出の実額は省略し、黒字率のみに注目する。前回見たとおり、若年層のほうが黒字率は高く、高齢者は低い形になっている。高齢者は、高齢者の労働参加の増加等もあり、大幅に黒字率が増加している。若年層の黒字率も、高齢者に比べると上昇幅は見劣りするが、2017~2019年と比べて、2023年で黒字率が減少しているということはなさそうである。

図4:二人以上勤労者世帯の世帯主年齢別平均黒字率等の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

次に年収別だが、特に低所得世帯を中心に、黒字率は上昇しているように見える(低所得層≒無職なので、図3で見た2017~2019年の黒字率の上昇が大きく寄与している可能性が高い)。とはいえ、中高所得層でも、図4の若年層と同様、黒字率は、2017~2019年と比べて、2023年で減少しているということはなさそうである。

図5:二人以上勤労者世帯の年収別平均黒字率等の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

最後に、単身者世帯の状況を確認しよう。単身者は月次データが存在せず、四半期データのみ。直近は2023年7~9月期である。四半期でもギザギザにはなるので、二人以上世帯と同じく、6ヶ月(2四半期)で平均を取っている。
コロナ期の若年女性の黒字率が急上昇しているのが目立つが、それ以外でも、緩やかだが2017年以降黒字率が上昇傾向にあることが分かる。
ただ、直近では、せいぜい2017~2019年と同じ水準になっているようにも見える。単身世帯は、二人以上世帯より、黒字率の上昇の程度は弱いとも言えるだろう。

図6:単身勤労者世帯の黒字率の推移(2四半期移動平均)
(出所:家計調査)

エンゲル係数の謎

さて、図2、図3では掲げたが、今回はエンゲル係数についてもなんとなく取得してみた。エンゲル係数=食費/消費支出で、要するに消費に占める食費の割合である。一般的に、所得が高い≒生活が豊かであるほど、エンゲル係数は低くなるとされる。足元の黒字率が上昇している状況≒生活にゆとりが出ている状況では、エンゲル係数も低下しているのかな、となんとなく思っていた。だが、実態は少々違うようだ。順番に見ていこう。
二人以上世帯では、総じて緩やかにエンゲル係数は上昇傾向にあるようだ。差分は小さいが、20%台前半から、20%代後半へ、大体+5%くらいの変化とみえる。コロナ禍の2020年が最も高かったが、これはどちらかというと「食費以外に支出の機会がなかった」と見るほうが良いかもしれない。そして直近の2023年3月以降は、そのコロナ禍の水準以上に、エンゲル係数が高くなっているセグメントもある。これは、足元の物価上昇の影響が少なからずあると見てよいだろう。

図7:二人以上勤労者世帯のエンゲル係数の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)
図8:二人以上無職世帯のエンゲル係数の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)
図9:二人以上勤労者世帯の世帯主年齢別エンゲル係数の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)
図10:二人以上勤労者世帯の年収別エンゲル係数の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

一方で、単身世帯のエンゲル係数は様相が異なる。35~59歳の女性は微増傾向だが、それ以外は緩やかに低下しているようだ。コロナ禍でも直近でも、エンゲル係数の上昇は見られない。そもそも単身世帯は男性の方が所得が高いが、にも関わらず、エンゲル係数は男性の方が高い。おそらく男性の方が外食が多いことに起因するのだろう。

図11:単身勤労者世帯のエンゲル係数の推移(2四半期移動平均)
(出所:家計調査)

まとめ

今回は、月次の黒字率等を整理してみた。結果、月次で直近まで見ても、年次で見たのと同様、概ね黒字率は上昇しているようだ。足元の物価上昇の影響についても、二人以上無職世帯で黒字率の現象が見られるが、それ以外の区分では、傾向として減少しているようには見えないし、二人以上世帯では、水準的には2017~2019年よりも明らかに高い。単身でも、せいぜい2017~2019年と同じくらいの水準だ。足元の物価上昇は、黒字率にはクリティカルな影響はないと言えるだろう。
実質賃金は減少しているにも関わらず黒字率が増加しているのは、つまりは実質消費も減少していることを示す。典型的なスタグフレーション不況に入っているのではないかと見ることもできる。家計調査で、そんなマクロ環境まで指摘はできないけど。

一方で今回もう一つ調査したエンゲル係数は、差分は大きくないものの、二人以上世帯では概ね上昇傾向、単身世帯では下落傾向と、様相が異なる結果となった。単身世帯、特に男性については、おそらくコロナ禍で外食が難しくなり、その後もテレワーク環境が整備されたことから、自炊をする人が増えて、結果エンゲル係数が下がったのではないかと考えられる。
一方で、二人以上世帯での上昇ははっきりしない。コロナ禍で、食事以外の支出が減少し、相対的にエンゲル係数が上昇したのではないかと思ったが、確定的に述べるには、まだまだ検証は必要だろう。
いずれにせよ、エンゲル係数は一般的に、所得が高いほど低下するもので、実際図10のとおり、所得が高いほうがエンゲル係数の水準は低い。同様に、黒字率の上昇はエンゲル係数の低下につながるものと思ったが、少なくとも二人以上世帯ではそのような傾向にはないようだ。

とりあえず月次の分析はできた。引き続き、黒字率の詳細分析は必要だが、一方でエンゲル係数に関する謎は増えた。次回は、黒字率の変化率等に着目して、どういった要因で黒字率が変化しているのか、詳細を分析したい。

補足、データの作り方など

今回のデータも、家計調査のみから作成した。
月次データ(単身は四半期データ)の定義等は、基本的に年次データとあまり違いはないのだが、今回6ヶ月平均を作るときには少し手を入れた。今回は、エンゲル係数は、エンゲル係数それ自体を6ヶ月移動平均を算出したが、黒字率については、黒字率そのものではなく、「黒字の6ヶ月平均」を「可処分所得の6ヶ月平均」で割って算出している。なぜかというと、二人以上無職世帯で問題になるからだ。
二人以上無職世帯の黒字率の6ヶ月移動平均をそのまま取ると、グラフは下記のとおりである。2022年6月頃に、黒字率がマイナスにぶち抜けているし、2018年、2019年にも妙な凸凹がある。
というのも、黒字率は分子を可処分所得にしているが、年金の受け取り等の関係で、奇数月は可処分所得はかなり少ない。特に2022年5月は可処分所得が520円、黒字率が▲45,500%になっている関係で、6ヶ月移動平均でも均せない規模に黒字率が吹っ飛んでいる。

図12:二人以上無職世帯の平均黒字率等の推移(6ヶ月移動平均)
(出所:家計調査)

というわけで、ややズルだが、可処分所得が滑らかになる6ヶ月移動平均の方を分母にして、黒字率を再計算した。傾向を捉える上で問題にはならないだろうと思う。

ちなみに、6ヶ月移動平均にしても、黒字率には季節性があるように見える。先述したとおり、6ヶ月移動平均はボーナスの影響を均すためで、ボーナス(と思われる影響)は、6月と12月が最も多いのだが、その2つでも12月のほうが多い。つまり、12月を含む月は黒字率が相対的に高く、平均の計算上12月が外れる6月~11月は、黒字率が低いのだ…ということまではわかったが、それ以上ははっきりわからない。ボーナスを抜きにしても、そもそも年前半の月は黒字率が低く、後半の月は黒字率が高い傾向があるのだが、これはなぜだろうか?
すべての会社でボーナスが6、12月というわけでもないだろうが、年後半のほうがボーナス支給の会社が多いとか?まあ仮説は色々考えられるが、その辺も含め、今後検証していこう。

最後に、年ベースでの長期のエンゲル係数にも少し触れておくと、1985年以降、ほぼ一本調子で2005年ころまで減少し、2005年前後でエンゲル係数は底打ち、2013年を過ぎたあたりで、再びエンゲル係数が上昇する…という傾向のようだ。黒字率の上昇は2015年以降くらいなので、このタイミングは、黒字率に少し先駆けるくらいのタイミングになる。

図13:二人以上勤労者世帯の年収別エンゲル係数の推移
(出所:家計調査)

年齢別等も似たような傾向なので、グラフは割愛するが、この動きはそれはそれで興味深い。長期系列の動きの背景と、短期月次の動きの背景には、違いがあるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?