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趣味のデータ分析007_資産所得倍増⑥_家計金融資産の、その中身

前回は、日本全体の家計金融資産の推移がどうなっているか、合計7種類のデータを用いて確認してみた。

結果、マクロ統計では足元2000兆円で、2010年ころから増加傾向にあること、一方でアンケート調査ではせいぜい1000兆円で、推移としてもせいぜい漸増~横ばいくらい。絶対水準でもトレンドも齟齬があり、ちょっと気持ち悪いので、今回は、家計金融資産の種類別の推移まで確認して、マクロ統計かアンケート調査か、どっちが正しそうか、改めて考えてみたい。

そもそも中身はどこまでわかるのか?

まず、分析するデータは、前回使用した7つのうち、時系列調査その他の関係で問題がある金広委と日証協を除いた5つ、すなわち資金循環統計、国民経済計算、家計構造調査、家計調査、国民生活基礎調査だ。
んで早速だが、国民生活基礎調査は資産の種類が取得できないので、残念ながら、今回の目的である金融資産種類別推移のデータは取れない。残るは4つ
次に、各データでどういう種類で金融資産を分けられるか、確認しておこう。

日本銀行「資金循環統計」
マクロ統計の分際で(だからこそ?)むちゃくちゃ細かく取得できる。大きいくくりでも、「現金・預金」「貸出」「債務証券(債券)」「株式・投資信託受益証券」「保険・年金・定型保証」「金融派生商品・雇用者ストックオプション」「その他諸々」を取得できる。
現金・預金も、預金の種類は外貨預金まで含めて細かく取得できるし、債券、株式等、年金とか、およそ一般人が思いつく金融資産はすべて分別して取得できる。まさに最強のデータである

内閣府「国民経済計算」
くくり自体は資金循環統計と同じく「現金・預金」「貸出」「債務証券(債券)」「株式・投資信託受益証券」「保険・年金・定型保証」「金融派生商品・雇用者ストックオプション」「その他諸々」という感じで取得できるが、債務証券の内訳等は取得できないので、若干粒度は荒くなる。
まあ今更だけど、この2つの統計は、少なくとも国民経済計算の期末貸借対照表(年次)が資金循環統計(四半期)を引用するような形でデータを作っていると思うので、項目の種類にせよ絶対水準にせよ、大体同じになるのは必然といえば必然である。

総務省「家計構造調査」
こちらは①、②と若干項目は変わるが、「預貯金」「生命保険など」「有価証券」「その他」で、預貯金と有価証券は細分化が可能。正直①の「金融派生商品・雇用者ストックオプション」とかよく分からん項目よりは生活実感に近い気がする。
ただ「生命保険など」は結構荒い気がして…というか、調査票を見る限り、年金が入っていない。ここはいわゆる「掛け捨てでない(資産性のある)保険」のみを対象としていて、年金は、私的公的の双方が一切入っていないと見える。細かく見ると、注釈的に「年金制度が組み込まれている貯蓄」も記入できるが、よくわからない。個人年金を受け取れるタイプの生命保険のことだろうか。よくわからないので、正確に記載もされてない気がするので、捨象して良いと思う。
あと地味だが、正確には「現金」、つまりキャッシュは、多分この統計上は出てきていないと思われる。少なくとも調査票には対応する項目がない。預金と現金の統計上の仕分けについては深遠な問題があるが、いずれにせよ差異のある項目であるとは言えるだろう。

家計構造調査調査の貯蓄に関する部分

総務省「家計調査」
くだくだしいので結論だけ書くと、項目は家計構造調査とほぼ完全に同じ。調査票も家計構造調査とほぼ同じであり、年金資産についても一切入っていないと見てよいだろう。

というわけで、これらのデータを比較する際には、年金が入っているかが一つポイントになりそうだ。あとはキャッシュかな。

資産種類を可視化した上で時系列比較

さて、あとはこれらを可視化する形で時系列比較をするだけ…なのだが、正直4つのデータを積立棒グラフとかで時系列表示するのは非常にわかりにくい。よって今回は、資金循環統計と家計調査の2つのデータに絞り、資産種類を可視化した上で時系列比較をすることとしたい
理由としては、
・資金循環統計と国民経済計算を比べると、家計金融資産の分析をするなら単純に前者のほうがデータとして粒度、頻度が高い。必要なデータは、資金循環統計で十分賄える
・家計構造調査と家計調査は、前者のほうが(全体としては)粒度が高く、世帯も全世帯というメリットがあるが、5年に一度しか無いデータのため、時系列でトレンドも含め比較したい、という今回の目的にはどうにも貧弱な感じがする。データの粒度自体は、今回の目的のためだけなら両方同じなので、二人以上世帯限定という弱点はあるものの、今回は年一で調査(※)されている家計調査を使うこととしたい。
(※正確には四半期調査もあるが、時系列で一括で取得できなくて面倒なので、今回は年次データを使用する)

さて、いつも通り前置きが長くなった。資産種類を可視化した上での家計金融資産の推移は、以下のとおりである。

家計金融資産の推移(内訳込み)

わかりにくいグラフだが、各年※の左側が資金循環統計、右側が家計調査の数字となっている。右側の棒のほうが半分程度の高さになっていて、要するに家計調査のデータのほうが少ない。
※細かいが、資金循環統計は年度、家計調査は年平均のデータを使用している。ストックベースなんだから、資金循環は四半期にして12月末のデータを取ればいいと思った人、正解です。凡ミスでした。

理由としては、家計調査で欠損している(とみなす)現金(青色のところ)や年金保険(浅葱色っぽいやつ)でも差がついているが、それを除いても、すべての資産項目で家計調査のほうが小さい。家計調査での預金額は、2021年で713兆円だが、資金循環統計では983兆円である。特定の項目で差が出ているんじゃないかとか、年金資産抜いたら差は消滅するのでは、と思ってたが、そんなことはなかった。
多分、いわゆる休眠預金とかが入っているか、資金循環統計の「家計」には、どうしても個人事業主や家族経営の会社が入ってしまうため、そこで齟齬が発生しているのだろう。…これ、比較するまでもなく分かる話だったな…

結論としては、全体感としては資金循環統計を真としたい。年金や保険が家計金融資産であるかどうかは、資金循環統計の資料でも若干疑問視されている(2-12)が、債権であるのは間違いないし、債権である以上資産項目に上げるのが正しいだろう。
そもそもの預貯金等の金額差は気になるところだが、統計上の誤差というか、家計調査がアンケート調査であることの限界、資金循環統計に個人事業主としての資産が含まれることもあるし、しょうがないこととする。

というわけで、家計金融資産の総額としては資金循環統計(及び類似の統計としての国民経済計算)が正しいとして今後分析を進めていく。
が、実際として、資金循環統計では踏み込んだ分析はできない。世帯構造や所得別でどのような資産保有額等がどのように異なるのか、そういう分析は一切できない。こういう踏み込んだ分析は、家計調査のデータでも不十分なので、以降は家計構造調査のデータを用いて分析していく。また家計構造調査は時系列分析に弱いので、原則直近調査年である2019年のデータを用いる。
あー、中身の分析に入るのにすげ~時間かかった。分析は、こういう前さばきがいつも大変。

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