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趣味のデータ分析076_弱男 vs 弱女⑧_弱者と強者の構造推移

前回まで、弱者男女間の量的質的差異について分析し、以下のような結果を得た。
・人口は経時的にも男女間も大きな変化なし。
・構成比は女性のほうが多いが、差は縮小傾向。
・弱者男女内での平均値、中央値も、男女格差があったものの、差は大幅に縮小(データによっては消滅)。
弱者男女間の差異は、平成の時代は、特に質的に一定の差があったが、漸次縮小し、令和に至ってほぼ消滅したといえる。

さて、これまでの分析は、表題通り弱者=「未婚」の「低所得者」を対象としてきた。だが、当然ながら、世の中は弱者だけでは構成されておらず、強者も交えた全体的な構成図を描いてきていなかった。
今回は、そもそも日本において、強者と弱者がどのような分布を描いてきたのかを分析したい。

<概要>
・男女ともに、未婚者の増加を除けば、弱者、強者、その中間層の人口比率等に変化はあまりない。
・所得中央値について、未婚者では男女格差が相対的に小さく、特に低所得層では格差がほぼ消滅に向かっている。他方、その他(既婚等)では男女差がむしろ拡大している。

弱者、強者、その間

さて、これまで弱者男女の諸々を検証してきた。そこでは弱者=未婚かつ、各年の有業で所得のデータがある者全体をユニバースとした場合の中央値以下の所得の者(低所得者)と定義した。この仕訳で考えると、無業者を除いて、日本全体をさらに以下のように分解できる。

  1. 弱者:未婚かつ低所得者

  2. 中間層A:未婚かつ高所得者

  3. 中間層B:既婚かつ低所得者

  4. 強者:未婚でないかつ高所得者

今回は、さらにユニバースを64歳以下に制限したうえで、この4つが、日本全体としてどのように分布しているか、そしてとくにその男女格差がどうなっているかを、時系列で確認していく。

まず念のため掲示しておくと、図1の黒ラインより高いか低いかが、低所得と高所得の基準である。

図1:15歳以上64歳以下所得データあり有業者の所得中央値の推移
(出所:就業構造基本調査)

分析の方法は、前回と完全に同じなので、結果をさっさとお見せしよう。弱者、強者、中間層の構造は、あまり大きくは変わっていないようだ(図2)。あえて挙げれば、下記の点が特徴として考えられる。
・未婚率の上昇に伴い、男女ともに未婚者割合は増加している。
・女性の所得上昇に伴い、女性の低所得/高所得比率は、未婚、その他ともにおおむね経時的に下落している。一方男性はほぼ横ばい。

特に男性の低所得/高所得比率の推移(青線)を見るに、未婚率の増加は、未婚「低所得」=弱者男性の増加を意味していないことが分かる。実際、中間層Aの構成比も、15%以上で安定して存在している。
人口や、カテゴリ内での平均(後述)等は、既婚高所得男性が圧倒的に高いのだが、「全体の中央値以上」という次元で仕切る限り、「低所得者が未婚に押しとどめられている」という形にはなっていないようだ。
一方で、その他女性で特に顕著に低所得/高所得比率が減少していることは、すなわち世帯所得でみた格差が広がっている可能性を示す。
064で示したが、二人以上勤労者世帯の所得や黒字率の伸びには、配偶者所得の上昇が寄与しているが、当然男性その他は(伸びているかは別にして)もともと所得水準が高い。つまり、高所得男性と高所得女性の夫婦が増加している。この意味で、未婚を継続する≒単身世帯であることが、自動的に、世帯所得ベースで低所得層であることを意味する可能性がある(ただし、未婚者の多くが親等と同居していることには留意が必要である)。

図2:15~64歳の所得データあり有業者の配偶関係別所得別構成比
(出所:就業構造基本調査)

各レイヤーの質的変化

次に、レイヤーの質的変化について確認してみよう。弱者男女については前回確認済みなので、それ以外を順にみていく。

中間層Aの質的変化

まずは中間層A(未婚高所得)の人々である。図3が、高所得者の所得の統計量だが、男女ともに、1997年ピーク、2012年底、2022年再度上昇、というU字型は、弱者の場合と変わりない(ちなみに所得分布の上半分なので、弱者の場合と異なり、中央値より平均のほうが高い)。未婚男性の平均所得が、1997年から2007年にかけて大幅に減少しているのは、未婚の定義の変化(1997年は、高所得の離死別者が含まれている)が要因の可能性が高い。

さて一方で、男女差は、中央値ベースで25万円の差が残っている。1997年では50万円弱なので、半分弱にまで減ったとはいえるが、もとの所得水準は400~450万円で、差分は6%程度残っているといえる。
まあ小さいといえば小さいが、弱者男女の格差がせいぜい2.5%で、実質的に消滅したといえなくもないことに比べると、なんか大きく感じてしまう。

図3:基準以上所得の未婚者の所得平均値、中央値、男女差
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

中間層Bの質的変化

ついで、中間層B(低所得その他)を見てみよう。
この層の女性は、いわゆるパート主婦が含まれるためか、男性はいつものU字型だが、女性は緩やかだが一貫して中央値が上昇している。
しかし、男女差はこれまでと異なり、あまり縮小していない…というか、これまたU字型を描いている。つまり、その他女性の賃金の趨勢的な上昇は、男性の賃金の復活より、実額ベースでテンポが遅い、ということになる。
差分も決して小さくなく、中央値ベースで100万円前後、女性所得の80%近くに及ぶ。パート女性は103万円の壁など、自ら賃金抑制を行っていることが要因としては考えられるが、いずれにせよ男女差分が、実額でも割合でもかなり大きいことは指摘できる。

図4:基準以下所得のその他の者の所得平均値、中央値、男女差
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

強者の質的変化

最後は強者(その他高所得)である。毎度軸を変えてしまっているが、こちらのU字構造は男女ともにみられる。そして、差分のU字構造も、強く観察されるという結果となった。さすがに割合ベースでは、基準点が高いこともあり、女性所得の30%程度だが、実額ベースでは中央値で140万円に及ぶ。
強者の間でも、男女で所得で殴りあうと、依然男性のほうが圧倒的強者である。

図5:基準以上所得のその他の者の所得平均値、中央値、男女差
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

まとめ

今回は、弱者だけでなく、非弱者たちの状況についても確認した。
全体の人口構成的には、未婚の増加に伴い、未婚低所得及び未婚高所得の層が増加と、女性高所得層の増加(つまり、女性は既婚低所得のみが減少)がみられるが、著変はない。

質的変化については、未婚とその他で大きな違いがみられる。前回確認したとおり、弱者は2022年に至り男女の所得中央値の差分がほぼ消滅した。未婚高所得は、差分が消滅する傾向は必ずしもないが、所得水準の6%程度の、比較的小さい差分で安定している。
一方その他の者については、低所得でも高所得でも、男女格差が拡大している。低所得層は、就労抑制を行っているパート女性が含まれるため、格差が縮まらないのは分からないでもないが、強者女性における所得が強者男性より伸びがかなり悪いのは、不思議な感じがする。男女の賃金格差が縮小しないことと同じ背景があるのだろうか。

最後に、各レイヤーの賃金の実数値及び前回比変化率のグラフを並べておこう。未婚の場合は、左右でグラフの高さはほぼ同じだが、その他では明らかに左右で差がある。また新たな発見として、未婚とその他で、男性の場合低所得の水準に変わりがない、女性の場合高所得の水準にあまり差がないというのも興味深い。所得水準で仕切っているのである意味当然だが、その分その他高所得男性の高所得っぷり、その他低所得女性の低所得っぷりが際立つ。また男女ともに、高所得の中でも、その他のほうが高所得である、というのも興味深い。これは年齢の問題もあるかもしれないが。

図6:配偶関係別所得水準別所得中央値
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

変化率については、正直あまり差がない。一応、未婚の場合は女性のほうが、その他の場合は男性のほうが伸びが若干高い。これは水準の男女差が未婚で縮まり、その他で拡大しているのと対応する。ただ、要因についてはよくわからない。データの綾な感じもある。

図7:配偶関係別所得水準別所得中央値の変化率
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

補足、データの作り方等

出所は就業構造基本調査から。ずっと同じデータを使ってるから、ここで書くことがない。

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