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趣味のデータ分析022_ゆとりある暮らしのために②_ゆとりと家計の長い関係

021では、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」と総務省の家計調査をネタに、「暮らしにゆとりがある/ない」の割合と、家計の黒字率を比較した。結果として、足元の「ゆとりがなさ」の急増は、家計の黒字率とは連動していないことを確認し、「家計にゆとりがないと感じる人が多い」ということは、「家計にゆとりがない人が多い」わけではないという仮説を提示した。
今回は、その他の「ゆとり」を示す指標と合わせ、「そもそもゆとりを感じる人の割合と家計黒字率は、長期的にどう推移しているのか」というところを確認していく。

ゆとりの指標と長期推移

足元の生活のゆとりを表す指標は、今回3つ確認できた。一つは上に挙げた日銀の「生活意識に関するアンケート調査」で、概ね年1回の調査。二つ目は内閣府の「国民生活に関する世論調査」で、概ね四半期。三つ目は博報堂の「生活定点」で各年データだ。最後は民間調査だが、割としっかりした調査。それぞれ質問の仕方が完全に合致しているわけではないが、「去年と比べて今年の生活はどうよ」というのを聞いているのは同じである。例によって詳細は補足にて。

まずは国民生活に関する世論調査(以下、「国民生活調査」)から見てみよう。これはかなり長期の調査で、古くは1948年にまで遡れる(しかもデータも公表されている!)。今回は手間の関係で1965年から取得している。
で、1972年までは「生活水準が向上している」と感じている人が30%弱いたが、1973年に10%程度まで急落、以降バブル崩壊期の1992年にもう一段階水準を切り下げ、以降ほぼ横ばいとなっている。バブル以降「失われた30年」とかいうが、ゆとりの有無で言えば1973年以降の「失われた50年」といったほうがいいのかもしれない。
対照的に、「生活水準が低下している」という人は、1973年の急増の後バブル期まで緩やかに低下、その後2010年頃まで上下動はあるものの緩やかに増加し続ける。最も高いのは2008年の34.1%である。その後比較的急速に反転急落、2018年には13.8%まで減少する。2020年はコロナの影響で調査なし、2021年はコロナの影響だろう、25.9%まで急増。
こうした動きの間、「向上した」はほぼ動きがなく、「低下している」の増減に反応しているのは、ほぼ「同じようなもの」の割合である。バブル以降は、大体60~80%前後の人が、「去年とほぼ同じ生活水準」で生活しているようだ。

図1:1年前と比較した生活水準変化の推移
(出所:国民生活調査、日銀、生活定点)

さて、残りの調査はもっと時間軸が短いが、生活定点の方は、1992年以降の2年おきの調査である。最後のコロナの時期に「苦しくなった」に動きがないこと以外は、世論調査と全く質が違う調査なのに、驚異的なまでに動きがパラレルである。一応コロナ周りの動きの可能性を挙げると、生活定点の最新値は2022年のもので、質問が「現在の暮らし向きは、去年の今頃と比べていかがです」というものである。つまり質問として、2021年と2022年を比べてどう、という形になってしまっているので、コロナ直後の変化をうまく捉えられていないのかもしれない。
問題は日銀である。「変わらない」「ゆとりがなくなってきた」が概ね拮抗する水準で、ほか2つに比べ、明らかにゆとりがない人が多い。ゆとりのない人に積極的にアンケートを取っているのだろうか。前回も述べたが、リーマン期は普通にゆとりがなくなった人が増えているのに、コロナ期にはゆとりがなくなった人が全く増えていない、というのもよく分からない。日銀データは四半期なので、アンケートタイミングによってうまくコロナの状況を捉えられていない、ということもない。不思議。

家計黒字率と長期推移

さて、ではもう一つの調査である家計調査から、特に家計の黒字率(=(「実収入」ー「実消費」)/「可処分所得」)の推移を見てみよう。これも長期で取ろうとした結果、「二人以上勤労世帯」のデータになっているので、その点の歪みは留意の必要。世帯主の年齢別でデータが取れたので、それで見てみる(図2)。

図2:年齢別家計黒字率(出所:家計調査)

5歳刻みのデータしかなかったので線が大量で見にくくなってしまっているのだが、1985年以降1996年くらいまで黒字率は緩やかに上昇、その後横ばい~微減で、2013年頃から一気に上昇傾向にある。点線にした60歳以上の人たちの動きが明らかに他の年代と異なっていたり、にわかに理解しがたい部分もあるのだが、いわゆる勤労世帯の動きとしては上述のような感じ。
ちなみに年収五分位別の動きも取れたので取った(図3)。

図3:年収五分位別家計黒字率(出所:家計調査)

年収が低い層の方が、1997年以降の黒字率の落ち込みがやや激しいが、大体はさっきの年齢別の動きと同じである。高所得/低所得層だけ黒字率の動きが特異であるというようなことはないようだ。

まとめ

では最後に、「ゆとり」と「黒字率」(平均)の動きを重ねてみよう(図4)。

図4:1年前と比較した生活水準変化の推移と黒字率
(出所:国民生活調査、日銀、生活定点、家計調査)

すごく関係なさそう。あえて言えば、国民意識調査・生活定点の「同じようなもの」との相関が高いか?ちょっとこれだけでは何とも言えない感が強い。

ちょっと長くなってしまったので、今回はここまで。次回はこの相関関係をもう少しちゃんと調べたい。

補足・データの作り方等

①国民生活調査、②生活意識に関するアンケート調査、③生活定点はそれぞれ質問、調査頻度等が異なるので、整理しておこう。まずは問いぶりから。
①の質問は「お宅の生活は、去年の今頃と比べてどうでしょうか。」、回答は「向上している」「同じようなもの」「低下している」「無回答」の4つ。今回のグラフでは、無回答は除いている。
②の質問は「1年前と比べて、あなたの暮らし向きがどう変わったと感じますか。」、回答は「ゆとりが出てきた」「どちらとも言えない」「ゆとりがなくなってきた」の3つ。
③の質問は「あなたの現在の暮らし向きは、去年の今頃と比べていかがですか。」、回答は「楽になった」「同じようなもの」「苦しくなった」の3つ。
それぞれ時期によって細かい言い回しは変わっているが、趣旨は変わっておらず、いずれも「1年前と比較した暮らしぶり」を問うているのは変わりない。横比較するには十分だと思う。

次に調査頻度だが、①は基本的に年一だが、古い時期は年2回やっていた時期もあるし、逆に2000年前後とかで全くやってない年もあった。アンケート実施月も年によってまちまちで、昭和後期~平成初期は5月が多いが、それ以降6月だったり10月だったり、特に統一はされていない。直近は2021年9月。②は1996~1997年は年1回、1998~2003年までは年2回、それ以降は四半期で調査している(2005年だけなぜか年3回)。③は1992年以降隔年で、直近は2022年のデータが有る。
グラフ化にあたっては、時間軸は月次として各調査を月ごとにプロット、欠損している月はエクセルの「データ要素を線で結ぶ」機能でつなげている。

最後に調査数。実はそこまで信頼できなかったりする。①は、層化二段階抽出で、最近は日本全国の成人3,000人から調査しているが、2021年では、有効回答数は1,895人(63.2%)、男女比は9:10、(ちゃんと比較してないけど)40代が少なく、相対的に50代以上が多そうな感じ。
②も層化二段階抽出で、全国20歳以上4,000人が対象で、直近では有効回答者数2,009人、男女比は47:53、(ちゃんと比較してないけど)40代が少なく、相対的に50代以上が多そうな感じ。
③は首都圏、阪神圏の20~69歳男女に訪問留置法で質問しており、回答数は2022年は3,084人。性年齢比は国勢調査(5歳区分)で割り付けている。
というわけで、①と②は、入り口は全国からの層化二段階抽出とはいえ、有効回答数は多くなく、ウェイトバック的なものも全く無い。③は地理的制約があり、層化二段階抽出でもないものの、回答数は最も多く、性年齢比に応じた割付も行われているので、信頼性的には一番高いような気がする。

また、家計調査は年次データを使っている。1999年までは二人以上勤労世帯(農林漁家世帯除く)、2000年以降は二人以上勤労世帯のデータを使った。


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