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趣味のデータ分析069_弱男 vs 弱女①_弱さへの逃走(闘争)

先日まとめサイトで、なかなかに痺れる記事を見た。
子どもを産まない女性=劣化版男性、としたツイートに対して、
→「子どもを産まないという選択をしただけ」
→「子どもを産まない覚悟はしたが男性と同様に働く覚悟はできてない」
→「なんでそんなこと言えるんだよ」
→「ソースは今まさに産まない選択をした独身高齢女性たち。労働意欲も低く、貧困率も高い」
という、Xでは珍しく、幼稚な煽りもなく淡々と展開された、その分ナイフが鋭さが際立つやり取りであった。

さて、本論法は結局、「独身高齢女性たちが、労働意欲も低く貧困率も高い」という事実があるかどうかにかかっている。
似たような分析は過去実施しているが、こういう目線ではなかったので、今回はバッチリ、真正面から、女の闘いの渦中に殴り込んでいきたい。

弱女の定義

最初から自分に都合のいいように展開させるが、本稿では、「子どもを産まない女性」を、「弱者女性」と呼称する。理由は後述するが、弱者女性という言葉が一般に膾炙しているかどうか、微妙なところである。
一方で、男性の場合=弱男(弱者男性)は、wikipediaのページがすでに存在する。定義的なところの引用元は、2021年の現代メディアの記事で、「弱者男性(じゃくしゃだんせい)とは、独身・貧困・障害など弱者になる要素を備えた男性のことである」とされている。

まあその定義はそれでいいだろう。が、多くのネットミームと同様に、「弱者男性」も、その用法、用量は濫用されている。障害者でもなく貧困でもない、ただの独身男性で、容姿が劣るだけ/子供部屋おじさんであるだけで、弱者男性と呼ばれる、または自虐的に自称している(と思われる)事例も多い(なお、061で示したとおり、子供部屋おじさん・おばさんは、未婚であれば圧倒的多数派である。とくにおばさん)。というか、反フェミニズムやミソジニー、インセル的振る舞いを見せるだけで、弱者男性と断じるケースもあると考えられる。なんせ、ネットでミソジニーを(露悪的に)表象する人は腐るほどいても、年収まで確認できることはない。なんなら独身かどうかすらも分からない。でも弱者男性というふうにレッテルを貼る。
「弱者男性」は、色んな意味で便利な罵倒語なのだ。

とはいえ実際問題として、その人の思想的側面まで含めて弱者男性を定義するのは、統計的に不可能だし、障害の有無とかも調査しきれない。ここでは、弱者男性を、「所得が低く」「未婚」の男性と(のみ)定義する(要するに、本稿でも弱者男性は多分にレッテル的に使用するし、それは弱者女性という呼称についても同様である)。これなら賃金構造基本統計調査とか、ソースは色々取れる。そして同様に、弱者女性を、「所得が低く」「未婚」の女性とする。元々のXの議論では、「子どもを産まない女性」とされていたが、その後そうした人は「労働意欲も低く、貧困率も高い」とされ、所得の問題を含んだニュアンスで提起されたことが明らかである。こうした人々に対し、男性においては「弱者男性」という呼称がすでにあると思われるので、今回は女性についてもパラレルに「弱者女性」という呼称を用いることとする。また、未婚と「子供を産まない」ことは、直接的な関係はないが、日本では私生児は2%程度しか存在しないこと(045)、また親権や出産経験の有無と所得のクロスデータが取得できないことから、今回は「未婚」という整理を用いる。

さらに、元のネタが主張している命題は、(統計処理出来る範囲では)実際以下の3つが考えられる。これは、「労働意欲も低く、貧困率も高い」というのが、「何と比較して」なのか明示されていないことに起因するものだ。

命題1:弱者女性の数>弱者男性の数である。
命題2:男性/女性のユニバースの中で、「弱者女性の割合>弱者男性の割合」である。
命題3:弱者女性は、弱者男性よりその「弱者性」がより強い。

なお、命題3の「弱者性」については、要するにより所得が低いということである。「男性と同様に働く覚悟ができてない」という指摘を踏まえたものである。

本当は、より思想的な内容に突っ込んで見れればもっと楽しい命題を立てることもやぶさかではないのだが、瞥見の範囲で、所得と婚姻関係と、物の考え方等をクロスで集計できるデータが見つからない。出生動向基本調査は、年収とかも調査しているんだから、そのクロス集計表をマジで公表してほしい。

ともあれ、命題を統計上処理しやすい形に成形しよう。命題2は、分析上もうちょっと詳細に出来る。さらに、これらの分布は(サンプル数次第だが)年齢別に示すことも可能である。
命題1:弱者女性の数>弱者男性の数
命題2-1:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」
命題2-2:「未婚女性全体に占める弱者(低所得女性)の割合」>「未婚男性全体に占める弱者(低所得)男性の割合」
命題2-3:「低所得女性全体に占める弱者(未婚)女性の割合」>「低所得男性全体に占める弱者(未婚)男性の割合」
命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)

以上で命題の整理ができた。

弱者女性というネーミングについて

さて、ここから諸々分析をしていこうかと思ったが、長くなりそうなのでいったんここで切る。次回以降、所得の話から分析を始めていく。

とはいえ、ここまで何のグラフも使っていない。ただの命題設定である。というわけで、「弱者男性(女性)」という言葉がどれくらい流行った(ている)のか、ちょっとデータを確認する、ということでごまかし。
図1では、弱者男性と弱者女性、ほか貧困に関する言葉を並べて、その検索頻度を基準化、3か月平均したものである(補足に述べるが、基準化はgoogle側でやってるもの)。これを見ると、弱者男性/女性は2021年以降、特に2022年半ば以降から検索されているようだ。

図1:Google Trensの2010~2023年の調査結果(単言語・3か月移動平均)
(出所:Google Trends)

特に、以上の結果は「単語ごと」の調査で、各語の比較ではない。各語の検索頻度を比較すると図2のようになっている。弱者男性の頻度は生活困窮者など、より一般的(かつフォーマル)な貧困に係る言葉より、検索頻度はかなり低いようだ。弱者女性は更に頻度が低く、指数上は3未満である。所詮はX等の上だけのバズワードの類なのかもしれない。
そう考えると、弱者女性という呼称は妥当ではないのだろうが、「子供部屋未使用おばさん」とかは長いし使用頻度はさらに低い。

図2:Google Trensの2010~2023年の調査結果(各語比較・3か月移動平均)
(出所:Google Trends)

ちなみに「貧困女子」という言葉は、弱者男性/女性とはニュアンスが異なると思って採用しなかったのだが、そもそも個人的にはそこまで流行ってない言葉かと思っていた。中村淳彦氏の著作で読みはしているが、流行るにしても瞬間的なものだろうというのが、当初の感触であった。
実際には、2016年下旬に予想以上にバズっており、しかも書籍化のタイミング(2019年)とバズったタイミングが異なるし、バズの水準も瞬間的にせよ「生活困窮者」を超える高水準で、ワーキングプア等を超える水準で検索されている期間も長い。まあ、本稿著者のバズワードに関する感度はそんなもん、と思ってほしい。
上記の「ニュアンスが異なる」というのは、「貧困女子」ってそもそも「女子」じゃねえだろ(少なくともそうじゃないやつのボリュームが大きいだろ)というのと、弱者男性/女性に含まれる侮蔑的な要素があまりないからである。まあ、そもそも女性に対する侮蔑的な用語って、そこまでない(バズらない)ような気もするけど。

最後に、弱者男性と似たような意味を持ち、更にバズワードっぽい「チー牛」についても見てみたが、圧倒的にチー牛の勝ちである。ここまで見て思ったが、「弱者男性」は、「読めば分かる」言葉である一方で、チー牛は経緯も含めて意味不明である。だから検索されることも多いんじゃないかと思う。

図3:Google Trensの2010~2023年の調査結果(各語比較・3か月移動平均・チー牛比較)
(出所:Google Trends)

まとめ

今回はX上での議論をもとに、未婚貧困女性がどれくらいいるのかというのを、未婚貧困男性≒弱者男性との比較で見ていこうということで、とりあえず命題設定のみを行った。後段のGoogle Trendでの調査はオマケである。
次回以降、真面目に調査を行っていく所存。

補足、データの作り方など

Google Trendは、以下から誰でも利用できる。国際比較や地域の詳細比較もできて、無料で出来る割に性能は決して低くない。というか、他の手段でこういったトレンド調査をするのがほとんど不可能である。
XでAPI噛ますというのもあるようだが、インターフェースは自作する必要がある上、データセットもある程度長期になると有料らしく、必要なマシンパワー等も不明なので諦めた。この程度のトレンド調査、簡単にできるようにしてほしい。ていうか、誰か準備してくれ。

さて、Google Trendのデータの読み方だが、調べたい言葉が、「その時期、場所で、他の検索語全体と比較してどれくらいの頻度で検索されたか」と、「調査期間中の最大値を100に基準化して表示」している。
つまり、実際の検索数等は分からないし、時間軸等がずれると基準化もずれるので、水準感も変わる。このようにやや癖のあるデータではあるが、考え方は明確だし、検索数そのものより基準化してもらったほうが、トレンド調査には十分だし分かり易いまであるので、個人的には気に入っている。時間軸も最大2004年まで遡れるのは大変ありがたい。あえて難癖をつけると、「Google検索された言葉」であって、使用された言葉ではない、ということだ。調べていないので分からないが、X(Twitter)等で使用されている言葉とGoogleで検索されている言葉は、利用層が異なるという理由だけではなくそもそも検索と、つぶやき/称賛/罵倒という、発話空間が異なるという意味で異なる(というか、前者は広義の発話ですらない)。
ともあれ参考指標としては十分な粒度と強度を誇るツールである。Xとかインスタグラムでも頑張ってほしい。

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