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趣味のデータ分析036_子どもを持つということ③_ライフコースの理想と現実

前回は、希望出生率を政府公表とは異なるデータで複数算出してみた。結果として、希望出生率は、特に女性の婚姻希望率として何の数字を採用するかに依存していること、そして算出の仕方によっては、すでに希望出生率は達成されていることが判明した。ついでなのでグラフも再掲。

図1:パターン別希望出生率
(出所:出生動向基本調査)

今回は、そもそも女性がライフプラン全体として子どもを欲しがっているのか――子どもを持つという選択を望む女性が減っているのではないか、ということを、もう少し直接的な形で検証する。

ライフコースの理想と現実、そして期待

ライフコースというと、なかなかに調査が難しいのだが、いつもの出生動向基本調査では、女性自身が理想とするライフコース=理想、理想ではなく、「実際になりそうな」ライフコース=予定、そして男性が女性(配偶者)に送って欲しいライフコース=期待について、ジャンル別に調査している(細かいが、質問票上は「生き方のタイプ」、結果上は「ライフコース」となっている)。
こういう調査は貴重で、(ほぼ)5年おきとはいえ長期で取れるのも素晴らしい。

具体的に挙げられているライフコースは、質問票上は下記(括弧内は結果上)。ここから回答を選択する形になっている。
1. 結婚せず、仕事を続ける(非婚就業
2. 結婚するが子どもは持たず、仕事を続ける(DINKs
3. 結婚し、子どもを持つが、仕事も続ける(両立
4. 結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ(再就職
5. 結婚し子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない(専業主婦
6. その他(その他
(7. 不詳、分からない)

この6(7)種類のライフコースについて、理想/予定(女性側)と期待(男性側)の別に時系列で調査可能となっているので、まずはこの結果から見ていこう(なお分かりにくいが、全て単一選択なので、各選択肢の合計は100%になる)。

図2:理想のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

まずは女性の理想のライフコース。再就職コースがずっと強かったが、両立コースが1997年に急上昇、2021年には再就職を上回りトップに躍り出た。反対に、専業主婦は、理想とする人は一定数いるものの、横ばい~漸減しており、1997年以降は3位安定である。
また興味深いのは、2021年に非婚就業コースが12%まで急上昇していることだ。この点、前回確認した、同調査で「結婚意志なし」が2021年に8%から15%弱に急上昇したこととも符合している。結婚ではなく単身で生きることを、強がりでも妥協でもなく、理想とする層が10%以上いるというのは世相の変化として非常に興味深い。

図3:予定のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

次は予定のライフコース。再就職コースの水準は、理想より若干高いが、同じく1992年以降漸減、2021年には両立、非婚就業に逆転され3位に転落した。また、専業主婦コースは理想より低水準で、理想以上の勢いで逓減している。2021年に至ってはDINKs以下の最下位、3.6%に落ち込んだ。
一方で、両立コースが増加しているのだが、それとパラレルに非婚就業も増加しており、2021年には33%で第1位となった。

図4:男性が女性(パートナー)に期待するライフコース
(出所:出生動向基本調査)

最後は、男性がパートナーの女性に期待するライフコース。まず、他と比べパートナーの女性に非婚就業を期待する男性は当然少ないわけだが、それでも微増していて、足元では6.5%存在している。要するに結婚する気がないということだが、これは事実婚を志向しているということだろうか?
それ以外の全体的な傾向は、女性の予定と同じく再就職コースが横ばい~漸減、専業主婦が急降下、対照的に両立が急上昇している。足元の1位は両立コースで、再就職コースを上回った。

主要ライフコース比較

上記のグラフだとちょっとバラでわかりにくいので、次に、回答割合の多かった、非婚就業、両立、再就職、専業主婦コースの4つについて、理想、予定、期待の3つを並べてみよう。

図5:理想、予定、期待別の、非婚就業、両立、再就職、専業主婦コース選択割合
(出所:出生動向基本調査)

こう見ると、予定の非婚就業が多いこと(足元では理想も増えていること)専業主婦コースを理想とする者の割合がやや多いこと以外は、予定、理想、期待の大まかな傾向と水準は、大体合致しているように感じる。
つまり、
1. 過去は再就職コースが多かったが、漸減傾向にあること、
2. 対照的に両立コースが漸増して、足元では最も多いクラスタになっていること、
3. 専業主婦コースも、1987年には両立コースよりも多いくらいだったが、総じて漸減傾向にあり、足元では完全に両立コース、再就職コースに逆転されていること

この3点である。(非婚就業以外は)単に女性の傾向だけでなく、男性の期待も、傾向から大きく外れていないのは興味深い。ライフコースに関する男女の考え方の差は、個別にはともかく、マクロにはあまり大きくないのではないかと思われる。

まとめ

女性の理想/予定する、そして男性がパートナーに期待するライフコースの時系列変化を確認してみた。
個人的には、当初はDINKs――つまり、結婚すれど子どもはいらない、という選択が増えてくるのかと思ったが、理想、期待、予定のいずれにおいてもずっと低位安定である。つまり、全く結婚をしないか、結婚するなら子どもを持つ、という大きい2択がまずあり、その上で子供を持ってどう振る舞うか、という選択になっていると考えられる(まあこれは、回答の詳細を見るとやや微妙なのだが…それについても、どこかで触れられたら触れたい)。
そしてその選択肢の片方、非婚については、予定としては1990年代から、理想としても足元で、その割合が上昇している。この辺、1988年に作られ、ネットで直近も流行ったクロワッサン症候群という言葉もあるのだが、別に世相に流されたわけでもなく、焦ってるわけでもない人が増えているような気がする。
非婚既婚論争は今後も益体もなく続くのだろうが、「子どもを持つ」ことを主体的に避け、結果として結婚もしないことに対し、少なくとも女性の一定数は、自らの予定として受け入れ、あるいは理想として主体的に掲げている…のかもしれない。そして、世の中的にも、そうした選択に対する理解は、多少は進んでいるんじゃないかと思う。

もう一つ、結婚する=子どもを持つことを予定/理想とする場合にも、女性が働く、というのは、再就職なのか両立なのかの違いはあれど、女性自身の考え方としても男性からの期待としても、遅くとも1997年には、完全に社会的多数派となっていたと考えられる。理想として掲げる女性は一定残るが、実際の予定、そして男性の期待としての専業主婦は、もう1割にも満たない。
トレンドとしては、再就職=一時離職すらせず、両立=子どもを産んでも働き続けるということが、女性の目指す姿としてより高く掲げられるだろう。そしてそれゆえに、仮に「専業主婦なら生きていけるけど両立はできない環境」などについては、社会的なプレッシャーも強くなっていくのではないかと思う。

なんかデータから離れて、よくわからない結びになってしまった。次回は、もう少しこのライフコースについて詳細を見てみたい。

補足・データの作り方等

すべてのデータは、第16回出生動向基本調査から取ってきている。

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