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小説化、漫画化、ドラマ化、アニメ化…ありとあらゆるオファーがきたけど何一つ実現できなかった6年をサントラ発売と同時に振り返る

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インディーゲームデベロッパー・SYUPRO-DXの3人が経験した6年。
※過去作のネタバレを含みます。


長かった…やっとサントラ出せました

横田純(企画/シナリオ):『彼女は最後にそう言った』のリリースから6年経って、このたび、やっとサントラが出ます。ゲームに出てくる、うたかた祭の… 8月14日に合わせて。

入間川幸成(サウンド):そうだね。

横田:今までも「サントラを出そう」とか「出したいね」って話をしてたけど、結局2021年になっちゃったわけじゃないですか。

入間川:はい。

横田:とりあえず、「出せてうれしいよね!」って話だよね!(笑)

入間川:はい!(笑)

浜中剛(代表):だね。(笑)


『彼女は最後にそう言った』=2015年5月10日にリリースされた無料スマホゲーム。「祭の夜にはお面をつけて死者がこの世に戻ってくる」という言い伝えがある山奥の村で、4年前に死んだ同級生から手紙が届く。彼女はなぜ死んだのか? くり返す祭の夜に真実を探る時間ループADV。


オファーに「対応」し続けた6年 —— 国内だけで100万以上ダウンロードされたアプリの続報が何もなかった理由

横田:それにしても、サントラ発売まで6年ですよ。「なんで今?」ってなるよね。

入間川:そうだね。俺は「待ってました!」って声の方が多いと信じたい。

横田:本当にね。そうだったらいいなあ。

入間川:いや、でも、わかるよ。「(リリースの)直後に出せよ」って話だもんね。

横田:出したかった。でもね、いろいろ理由があったんですよ。『彼女は最後にそう言った』をたくさんの人が遊んでくれたおかげで、いろんなオファーをいただいたんだよね。小説にしませんか、マンガにしませんか、映像化、ドラマ化、アニメ化しませんかとか、本当にいろいろなオファーが来て… うわぁどうしよう、どうしようかなって。

入間川:うん。

横田:メディアミックスなんか初めてだから、どう進めていくのかもわからない。だから相談しながら進めてたんだけど… マンガが出るならマンガが出る時、映像が出るなら映像が出る時に、(サントラ発売も)合わせた方がいいのかなぁとか考えながら話を進めた結果、いただいたオファーのどれも実現できずに、サントラを出すタイミングも失った… っていう認識なんだけど、合ってる?

入間川:だいたい… そうだね。

横田:そうだよね。

入間川:この話をね。一回ちょっと思い出してみたんだけど。自分の中で自己分析をしてね、半々、俺の中であって。半分はメディアミックスにいろんな人が関わってくる可能性があった。盛り上がるんじゃないかっていう、その波に乗って、一番いい時をサントラの発売タイミングにしたいっていう「欲目」。それが俺の中の半分で。

横田:うん。

入間川:次に、メディアミックスしてくれるってオファーをくれた側が、こちらに一番最大限の効果を渡したいっていう… お伺いじゃないんだけど、多分そういうことを期待されてるんだろうなって思って。顔を立てる的な部分と、自分の欲目があったんじゃないかなって思って。

横田:うん、うん。

入間川:遊んでくれた人たちからの「サントラまだスか?」みたいな要望も、「ちょっと待ってね! すごくなるからちょっと待っててね!」って。

横田:そういう気持ちは確かにあった。

入間川:でも… すごくならなかったんだよね。

横田:俺はホントに、なんて言っていいかわからないんだけど… 俺も残念だったし、みんな残念だったと思うんだけど…

入間川:最初にゲームがヒットした時に「『彼女は最後にそう言った』いいよね」っていう声がたくさんTwitterに出てたタイミングで「もう出しちゃおうよ」って言ってたんですよね。

横田:サントラをね。

入間川:パッと出して聴いてもらおうって。その時にね、関わってくれた外部の人の「ちょっと待ってくれ、今じゃない。今じゃない方がいい」っていう声が勝ったと思うんですよ。

横田:そうだね。

入間川:「もっと盛り上がる時があるから」って。そこのストップに、強くNOと言えなかった弱さもあるんですよ。私。

横田:そうだねえーーー。それは本当にね、ある。

入間川:「みんなの聴きたい時が一番いいじゃん」って、今でも多分その論理は通じると思う。

横田:うん。

入間川:「俺が出したい時以外にベストなタイミングある?」って。…それはあるか。

横田:いや、わかんないわかんない。別に出しちゃってもよかったと思うの。その時。

入間川:それらの、外側の人たちの「手伝ってあげるよ」「いろいろ盛り上げようぜ」って言ってくれてた人たちをいったん無視して、「いや、俺は今みんなに聴いてほしいから今出します」っていうのも、選択肢としてはアリだったはずなのよね。

横田:うん。

入間川:それをせずに。欲をかいた結果です。

横田:わかるよ。俺も… 覚えてるのは、オファーがいっぱい来たこともそうだし、あの時同時に日本一ソフトウェアさんと初めて家庭用ゲームつくるぞって話も同時に進行してて。『彼女は』のラインと、家庭用ゲームのラインを同時に進めなきゃいけないっていうのがまずひとつ。

入間川:うん。

横田:で、次の問題は、『彼女は』のサントラを、なんで外部の人が「今出さない方がいいよ」って言ったかっていうと、『彼女は最後にそう言った』は無料のアプリで、マネタイズが広告しかなかったんだよね。みんなにお金を払ってもらえるシステムがまったくできてない中で、サントラはその時あった唯一お金を払ってもらえるものだったから、それで収益をあげる必要があった。あげたいと思っていた。

入間川:うんうん。

横田:だけど、うちのアプリに対して、「課金のハードル」っていうのかな… 無料のアプリで面白いからといってその後お金を払うかどうかは別っていう、そういうのが多分あったから、それを払拭しないといけないし… そういう問題とか、ご提案とかご要望が一気に来ちゃって、いろんなことを言ってくれる人がいるけど、誰を信じたらいいのかわからない。俺たちも急にドーンっていっちゃったもんだから、「どうしようか」っていうのが…

入間川:思い返すと、あの時めっちゃ外出してた。

横田:した。いろんなところに行ったし、いろんな人と会った。毎回毎回ミーティングして、その場では何も決まらずに「じゃあ持ち帰りますね」って、すっごいいろんなものを持ち帰った。持ち帰ってばっかりだった。

入間川:そうだね。(笑)

横田:で、持ち帰って検討してみるんだけど、その時点では結局判断ができないの。なんでかっていうと、オファーは「まず小説化して、次マンガ化して、これがアニメになって…」とか、そういう順番で来るわけじゃないじゃん。まず、「ドラマ化しません?」って言われて、「えっドラマ化? ドラマ化かぁ… あれを実写でやるの?」って。そのへんの想像がついてないのに、話し合いのテーブルにドーンってのせられて。いい話だとは思うけど、ただドラマになればいいってものじゃない。納得いくクオリティでできるかが大事なんだけど、向こうの手腕を判断する情報は少ないし、出来上がるものがどういうものになるのか想像つかないまま、「じゃあコレを次の企画会議で社内に通していいですか」みたいなことを言われてしまうから、それは判断できないよなぁ… っていうのをずっと考えていたりとか。

入間川:うん。

横田:その後、アニメ化しませんかって話をもらった時に、「実は今ドラマ化の話も来てるんですよ」っていうのをアニメ関係者の方に相談したら、「いや、これは先にドラマ化しない方がいいんじゃないですか。実写の印象がついてしまうから」って。実写版を先にやることによって、次に出てくるものがアニメだとしたら、その二つがまったく別軸で作られてたとしても、アニメの印象も実写の印象で決まってしまうかもしれないよねって言われて、「そうかー、たしかに」って。その時何にもわかってないから、言われたことは全部「そういうものなんだ」っていう反応しかできなかったのよ。

入間川:うんうん。

横田:さらに、小説でも映画でも「横田さんに書いてもらえません?」って、だいたいの方に言われたんだよね。

入間川:そうだったね。

横田:大変ありがたいことだよ。でも… でもね、無理なんだよそれ。冷静に考えたら。

入間川:そうか…

横田:たしかに、ゲームのシナリオは俺が書いた。けど、小説には小説の文法がある。実写のドラマには実写の、アニメならアニメの脚本の書き方がある。やり方が全部別なの。マンガの原作もそうだし。だから、俺にできそうであって、実はできないこと。俺はその時「がんばったらできるかな」と思っていたけど、冷静に考えたら無茶なことも結構頼まれてたんだよ。それが4、5個同時にきて… 家庭用ゲームの企画書とシナリオにも全力を尽くし… たぶん俺はあの時、ナチュラルハイになっていた。

浜中:……うん。(笑)

横田:いろんな人が、3人で作ったゲームの評判を聞きつけて、いろんなオファーを持ってきてくれる。多少天狗になっていた部分も絶対にあるの、俺はね。やるべきことを片づけたいのに、減らずにいくつもあり続けて、常にフワフワした状態で… 目の前のことに、「対応」してたのよ。

入間川:対応。

横田:うん。だから、主導権がこっちにないの。対応に追われて追われて… 結局「このオファーは断るか」とか、「向こうの人がこう言ってたから」ってプロットを何度も直したりして、何も表に出せるものができないまま時間だけが過ぎていった。映画とかの脚本って、通らないとギャラが発生しないんだよね。小説にしたって、書き下ろしでいきなり本になるものは、本が出ないとお金がもらえない。お金がもらえない仕事をずーっとやることによって、どんどんどんどん麻痺していって… 俺は心では「やれる」と思っているけど、実際に完成したものはひとつもないし、やれてない。さらにお金はどんどんなくなっていくっていう、変な循環に入ってたのよ。で、「アレ? なんでこんなキツイ思いしてがんばってんだ?」って状況になって。一番がんばって実現させようとしたのはアニメ化だし、アニメ化のために何度も都内まで3人で出てミーティング行って、そのたびに持ち帰ってプロット書き直してっていうことを、たぶん2、3年くり返してるんだよ。

入間川:長かったね。

横田:一回組んだ座組がいろんな事情で解散になって、別の座組になったりして。いろいろやったけど、結局なんだか… 自然消滅しているみたいな? 感じに、なったんですよ。

入間川:そうです。

横田:これに関しては後悔が残るし、どうしたらよかったのかわからないんだけど。最初にオファーをもらった時に強い意志を持ってたら、たぶんこうはなってなかった。

入間川:実現しなかった要因はたくさんあるけど、そのひとつとして、オファーをもらった時のうまいやり方みたいなのがあったとして、我々にその能力がなかったという説が…

横田:その通りだね。

入間川:うん。まず「オファーをもらった時点で決定ではない」っていう大前提を、我々はちょっと忘れてたところがあって。話をくれた人たちが、会社の中でどれぐらいの優先度でやるのかっていうのを、話を受けた我々は知らないから。

横田:そうだね。わからない。

入間川:でも、どんなオファーに対しても… たとえばアニメ化の企画を動かすとしたら、我々は3人しかいないから。アニメ化に対してフルコミットするしかない。

横田:うん。

入間川:だから最初に契約書とかも決めて、「それが通らないならやりません!」ぐらいの感じだったら、避けられたこともあるんじゃないかなって今振り返ってみて思うんだけど… そういう発想もなくて。

横田:なかったね。

入間川:「ぜひやりたいんで詰めていきましょう」っつって。熱量だけで。

横田:…だから本当、2人に対しては申し訳ないよ。

入間川:まあ、そういうもんだったんですよ。

横田:申し訳ない。本当に。

入間川:で、それらがひと段落してアプリを作り、軸足が戻ってきた感じ?

横田:そう。もう一回足元を見つめ直したいなっていうのはあったから… 2020年頭からSYUPRO-DXのスマホゲームだけにフルコミットして。

入間川:で、リリースして1年ぐらい経って… ちょうど今。それが『彼女は』リリースからの6年ですよ。

横田:俺さ、『彼女は』を作り始める時、「90分ぐらいで終わるサイズで作って、これ原作で映画とかになんないかなぁ」って最初に言ってたんだよ。でも、いざオファーをもらった時に、俺は原作以上のことに手をのばそうとしたから、もう何もかもうまくいかなかったんだよね。

入間川:ああ。

横田:ゲームは完成していたわけだから、アニメはこれをベースに脚本家さん、監督さんと話していただいて… 「つくっていただけますか」って言えたはずなんだよ。でも、いざ「横田さん書いてくれません?」って言われた時、俺はうれしくなっちゃって。アニメの作法を何も知らないのに「チャレンジだ! いける!」ってなっちゃって… しくじったっていうのがあるのよ。だから、原作でいい。脚本書いてお任せではなくて、書いたものが意図した形で届くように自分で細部まで整えて、「おもしろい」って言ってもらえるゲームをつくりたい。俺はそういうことがしたかったんだよなって。だからもし今後オファーがもらえた時は、まず「他の方に書いてもらえませんか」っていうのを一回言ってみようと思う。

入間川:うん。

※アニメ化だけに限った話で言うと、今回の我々のケースでは「原作」は儲からない可能性が高いです。原作というクレジットでは作品の規模に対して僅かな使用料しかもらえない上に、アニメがいくらハネてもギャラは変わらないこともあるそうで… ただ、「脚本」というクレジットならギャラももう少しだけ増えて、「執筆料+ブルーレイの印税」のような契約にもなったりするそうです。ただ、アニメを作る時に自己資金を出せなければ、劇場に何人動員しようが円盤が売れようが、入ってくるお金は微々たるもの。これが漫画なら「アニメ化によって単行本が売れれば印税が手に入る」という形で収益が出せますが、『彼女は最後にそう言った』は無料のアプリ。アニメ効果で仮にダウンロード数が伸びたとしても、アプリに課金の仕組みを入れていないので収益が出ない。よって横田が「脚本としてチームに入って収益を伸ばすか」等、そういうことも考えざるを得なかったのです。


小規模な開発チームは漫画家に似ている?

横田:で、これは個人的な体感なんだけど、個人開発に近い小規模な開発チームって「漫画家とすごくよく似てるな」っていうのをちょっと思ってて。

入間川:おお。

横田:漫画家って、その先生その先生のやり方があって。原稿の書き方から仕事場の様子、全員やり方が違う。ただ、できたもので勝負していく。で、漫画家の先生って「アニメ化しませんか」「小説にしませんか」って言われた時も、先生が書かないじゃん。たまに脚本とかにクレジットされる人もいるけど、基本的には「私は漫画を描きますから」っていう立場。そういう立場をゲームでやりたいと思ったの。

入間川:うん。

横田:だから、俺がアニメの脚本とか書き出しちゃうと、変なことになっちゃうから。それは今後やめにしようと思いました。

入間川:(笑)

横田:本当に書きたかったんだよ。アニメ化してもらえるのはうれしいし、大変ありがたいし、なんだったら今も諦めてないけれども、今は「僕は書きませんよ」と。僕がつくるのはゲーム。そういうスタンスでいきたいね。

入間川:自分の立ち位置を見つめ直して、本当にやりたいことが見えたっていう。いい6年だったね。

横田:うん。だから去年… やっとかな。2015年から2019年いっぱいは、ずっと森の中っていうか。がんばってるのに結果が出ない。それだけならまだ普通だけど、みんなに見せる前に、俺のいっこ先でジャッジする外部の人にはじかれてるから、書いてるものが面白いのか面白くないのかわからなくなってくるんだよ。

入間川:うーん。

横田:舞台でやるか、ネットにボーンって上げれば「面白い!」とか「これはイマイチ!」とか、みんなの生の反応っていうのがわかるんだけど。そういうものがまったく届かない中で「これはこうしてくださいね」って言われ続けたものだから、ブレたんだよね。

入間川:ああー…

横田:これでお金がもらえてたらまだよかったんだけど… 結局ギャラはもらえなかったし、スッと通ったものは何もなかった。自分の実力がなかったのは間違いないけど、それだけとも言い切れない。だから… 修行だよね。

入間川:修行。(笑)

横田:修行を4年ぐらいやってたから。その間アプリを作っていたらどれだけ潤ったか。収益が出るかどうかはわからないけど、アプリに関してはSYUPRO-DXで100%権利が持てるし。それはだいぶ違うよね。だから「2人には申し訳ないことをした」ってずっと言ってるんだよ。

入間川:でも、やりとりの中には楽しいものもあったし。振り返ればつらいものもあったけど、結果よかったんじゃないかな。

横田:そう… だったらいいんだけどね。

入間川:ちなみに俺は、スキあらば俺の曲をねじ込みたいと思っていたよ。

横田:いやー! それは俺もそう! 思っていたんだよなあ…

入間川:たとえば、今後アニメとかドラマとかの話もらったとしても、Jさん(横田)は「書かない」と。ただ俺は「俺が書きますよ」と。「俺の曲を使ってください」と。

横田:そこはね、推していった方がいいね。

入間川:俺はそれをしたいけど… ダメって言われたらしょうがないよね。

横田:それは、しょうがないけど… 「しょうがないのか?」って気持ちはあるのよ。「ゲームはこの曲だし!」って。

入間川:そうだね。アニメの作法に合うようにリライトが必要なら、やってみたいし。そうするとまた軸がブレるのかな?

横田:いやあ、そんなことないよ。というのも、浜ちゃんはちょくちょく「いけんのか?」みたいなことは聞いてくれてたんだよ。当時何度も。いろんなオファーが来るたびに、「いけんの?」って。

入間川:(笑)

横田:「いけんの?」っていうのは、「これをお前は本当にやりたいのかい?」っていうニュアンスで聞いてくれるのよ。「やりたいんだったら俺は止めやしないけど」が「いけんの?」に集約されてる。

入間川:やさしいじゃん。思いやりでしょ。思いやりクエスチョンでしょ。

横田:それは会社の収益面を気にしたりっていうのもある。そりゃあるよ、代表なんだから。あると思うけど、そういうのいったん度外視して聞いてくれてた。で、俺は「やれません」とは言いたくないのよ。

入間川:うんうんうん。

横田:期待されてるんだったら、期待に応えたいなと思っちゃう。この思想ってかなり命取りになることが多いんだけど。そういう、危険な思想を持っていたから…

浜中:(笑)

横田:これはね、身を滅ぼす思想だから! 期待されたら応えなくちゃいけないっていう思想を持っている人は今すぐやめてほしいと思うんだけど。皆さんに言いたい。それは。

浜中:急にお客さんが出てきた。(笑)

横田:期待は、応えなくていい。

入間川:わかるわ。期待されるとがんばりたくなる気持ちはわかる。

横田:それがうまく働いてるときはいいんだけど… 「期待しないでください」っていうのもちょっと違うんだよね。

入間川:向けられた好意をむげにすることへの抵抗感が、すごいある。

横田:それは俺もある。断るのとかすごい苦手だから。頼まれたら基本断れないのよ。それはすごくダメなところで… だから何かオファーがあった時、相手の要望をとにかく全部汲み取ろうとして、全部入れて直したら変なことになるっていうのがくり返されていたから。

入間川:疲れそうだったもんね。やり取り。

横田:フィードバック自体が矛盾してることもあるし、「それは聞かされてないよ」とか「そういうことじゃないんですよねぇ…」っていうのがいくつもあったから。そのために、自分が一番面白いと思ってた部分を削らざるを得なくなったりして、どんどん迷宮に入っていった。だから、相手に何を言われても「これはこれで行くんで」って言ってしまえば、それで済んだことも多かったと思う。

入間川:うん。

横田:そのへんの意志の強さがなかったし、自分のつくったものに対するジャッジが自分でできてない。何かのオファーに対しては、すべてにおいて「僕は書くけど、その良し悪しはそっちで決めてください」っていうやり方をずっとしていたから。ゲームを作ってる時はそうじゃなかったのにね。

入間川:うんうん。

横田:だから、自分のフィールドを超えて何かやろうとした時に、俺の性格とかそういうのもあって、あんまりうまくいかなかったなっていうのが反省点ですね。

入間川:なるほどね。

横田:じゃあ「100%こっちが悪かったのか」とか、責任の所在がどこにあるのかとか、そういうのは誰にもわからない。自分のことに関しては、「こういうやり方をすればよかったな」とか、今になってわかるけど。「本当は相手の方がおかしいよ!」とかはその場ではわかんないから。

入間川:そうだね。…でも、結果だけ見ると、一番最初のルートでSYUPRO-DXが「いや、ゲームつくりたいので勘弁してもらえます?」っていう選択をとっていたら、この未来にはなってないか。

浜中:この未来って?

入間川:紆余曲折を経て疲れ切ったJさんが、悟りを開く状態?

横田:(笑)

入間川:「俺が本当にやりたいのは、ゲームをつくって、余計なことはやらずにこれに集中するんだ」っていう、悟りを開く状態まではいかなかったかもしれないけど、結果だけ見ると、『彼女は』に関しては、何もメディアミックスをされてないで今に至るわけじゃない。

横田:そうです。うん。

入間川:サントラも出てない。アプリが出て6年経ったっていう事実だけを見ると、当時いろんな話があった時に「いや、次につくりたいゲームがあるんで」って全部断った未来と、結果としては変わらないんだよね。できてるものだけを見れば。

横田:…あー。うん。うん。うん。

入間川:だから、当時強い心を持っていて、「マジでゲームつくりたいから時間のムダだわ」って急進派がいたとして。

横田:「メディアミックスは勝手にしてくれ」みたいな?

入間川:っていう。そういう考えがあったら結果は違ったかもしれないね。

横田:まあねえ… どうだろうねえー!?

入間川:しいて言うなら、「原因は己にあり」ですよ。

横田:本当にね。サントラを待ってくれていた人にも申し訳ない。

入間川:俺もあの時「うるせえ出す!」「行くぞ!」って言えてればよかったけどね。

横田:こういうことがあって、やっと出せます!!


「庭がジャングル」「玄関にいつも虫の死骸が落ちてる」。事務所という名のワンルームで開発する2人とメールでつながる外部の1人。そしてサントラの話へ…

横田:『彼女は最後にそう言った』は「曲いいよね」って言ってくれる人がいっぱいいてうれしかったんだけど、あのゲームで使われてる曲って、実はすごく少ないじゃない?

入間川:5曲。

横田:5曲だよね!? その前は『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』と『奴は四天王の中で最も金持ち』があったけど…

※『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』=2013年5月16日にリリースされた無料スマホゲーム。人付き合いが苦手な勇者が「すきだ」「いっしょにきてくれ」等の呪文を駆使して酒場で仲間を勧誘する言葉で戦うRPG。人見知りにとっては対話こそが戦闘で、バリエーション豊かな誘い文句が呪文。相手の欲しい言葉を察し、適した呪文を選ぶと大ダメージを与えられる。1フロアにいる冒険者を全員勧誘すると酒場が増築されてしまい、上にはまた冒険者が待っているので、酒場から全然出られない。大人の階段を登って成長していく戦闘だけのRPG。


※『奴は四天王の中で最も金持ち』=2014年10月30日にリリースされた無料スマホゲーム。悪の課金四天王を倒すため、自分だけのワザが作れるワザガチャを駆使して世界を救う現代RPG。DQ、FF、ポケモン、MOTHERなど、90年代RPGへの多大なるリスペクトを胸に開発した結果、フィールド探索、ダンジョン攻略、コマンドバトル等、スマホに最適化された操作で家庭用本格派RPGの遊び心地を実現。2019年1月にはゲームセンターを出禁になった「出禁四天王編」と、課金によってスラムに落ちた「ハイ課金四天王編」が追加アップデートされた。


横田:『ドブネズミ』は何曲?

浜中:10くらいかな。

横田:そんなあったっけ?

入間川:(手元で調べて)あったねえ。…あったねえ!! 結構あるね。

横田:『四天王』に至ってはもう… 「何曲だよ!?」って話じゃない。

入間川:そうだね。

横田:(曲数を数えて)『四天王』のサントラ… 55曲!

入間川:ふむ。

横田:『ドブネズミ』で10、『四天王』で55ときて、次が5曲なわけよ。

入間川:そうだね。

横田:なんでかって言ったら、その時の戦略とかいろいろあったじゃない。

浜中:…………

横田:…浜ちゃん? 浜ちゃん、いるよね?

浜中:(苦笑い)

横田:その時の戦略とかもいろいろあって、今回はもう少なく少なく、5曲でいこうってなったわけだよ。この5曲に集約された… こだわりであるとか、思いみたいなものを話せたら…

入間川:曲数の問題でいうと… 今、昔のメールを見てるけど、「BGM作ってくれ」っていう依頼をね、頼み事を浜中くんにしてもらったわけですよ。

横田:うん。

入間川:今はガッツリ3人でやってるけど… 当時はまだ私、外部の人として、2人で作ってるところから発注が来るみたいな。

横田:「個の3人」みたいな感じだったね、『彼女は』を作ってた時は。しかも俺、まだマガワさんと会ったことがなかった!

入間川:そうだったよね。

横田:初めて会ったのいつだっけ? 『四天王』ができた時?

入間川:『彼女は』のテストプレイだっけ?

浜中:いや。『四天王』の完成で、上善如水をお土産で持ってきてくれた。

入間川:…あっ! そうだ、事務所に行ったんだ! その時、彼(横田)は寝てたのかな?

浜中:そう。彼は寝てた。

横田:あ! うん… 来るってことは知ってたんだけど… 寝てた。

入間川:寝袋で。

横田:ビビッちゃって。(笑)

浜中:ビビってたね。(笑)

入間川:タヌキ寝入りだったの?

横田:眠かったは眠かったんだけど、(入間川が来るなら)別に全然合わせられるじゃん。

入間川:そうだね。

横田:「今までずっと曲を作ってくれてた入間川という男がいる」ってことは知ってたのよ。2013年に『ドブネズミ』作って、2014年に『四天王』作って、あれだけ曲も作ってくれてさ。曲にいろいろ注文もつけたのに会ったことがない。そういう男が初めて来る時におれはビビっちゃって寝ていたと。それは本当申し訳ない…

浜中:(笑)

横田:だから、動いている入間川幸成を見たのは、もっと後。

入間川:寝てたワケを… 内訳を聞いたのは今日初めてだわ。(笑)

横田:怖い。怖かった。

※高校時代に横田もバンドを組んでおり、別の高校だった入間川と学外の合同ライブで偶然対バンしていたことがのちに判明したが、友達の友達の友達ぐらいの距離感だったので会話もなかった。当時横田が感じていた入間川の印象は「すごいバンドやってるヘビメタ好きな男。よく知らないし怖い」。


浜中:あの頃は、今とは違う事務所でね。

横田:ワンルームの…

入間川:駅近のワンルームですよ。線路沿い。

横田:そう言うと聞こえはいいけど… 1階の角部屋でね。庭がジャングルみたいな。

浜中:(笑)

横田:庭みたいなのがあるんだけど、見たこともないような草がワーっと生えてて。窓に変なツタが絡みついて、開かなくなるんだよ。

浜中:角部屋だったから、虫が風の通り道として、ちょうど扉に当たって。そのまま中に侵入してくる。

横田:(笑)

浜中:玄関がいつも虫の死骸だらけ。

横田:本当そうなのよ。なにも物を置いてないのに、虫の死骸だけいっぱい落ちてる。

モザイク2

※2014年-2015年当時の事務所玄関。まわりには木々が茂っていて、夏場は虫がいっぱいいた。(プライバシー保護のためモザイク処理をしています)

入間川:なんか、いつも暗かったよねあそこ。

浜中:ジャングルだからね。(笑)

横田:内装はリフォームされていたから、それなりに綺麗だったんだけど。なんか、でも… 我々、自分で窓にダンボールとか貼ってた?

浜中:…あー。

入間川:プチプチが貼ってあったね。

浜中:断熱材として。なんだっけあれ? 寒かったんだっけ?

横田:寒いんだよ! 隙間風がすごくて!

入間川:だから窓に緩衝材が貼ってあったんだね。

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※2014年-2015年当時の事務所内。浜中と横田の作業スペース。窓にプチプチ。そして暗い。

入間川:で、台所の隙間には、ガムテープが貼ってある。

横田:そうそうそう。なんか変なニオイがずっとするし…

入間川:隙間を埋めてたね。何か入ってくるのかな?

浜中:なんだっけ、台所の下のところの…

横田:日によって堆肥のような臭いがするんだよね。めちゃくちゃ調べたけど、まったく原因がわからない。水道管から何かが上がってきてるのか…

浜中:(食器棚の)取手のところに、いっつもタバコの灰がついてる。

横田:俺が換気扇の下に座って、ずっとタバコを吸ってたんだよね。(笑)でも、そこに座ってても絶対入らないところにタバコの灰がついてる!

浜中:(笑)

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※2014年-2015年当時の事務所内。横田がずっと座っていた場所。本来ガスコンロが置かれるスペースを勝手に占有し、棚の取手は灰だらけだった。

入間川:その頃ですね。それまでずーっとメールでやり取りをしていて。浜さんから『彼女は』のBGMを作ってほしいっていう依頼を受けた時に、『四天王』の当時の成果というか、リリース後の状況を一緒に教えてもらって、なんか「資金面でヤバイ」みたいなことがメールに書いてあって。

横田:うん。まあヤバかったもんね。

入間川:それも『彼女は』の曲数の少なさに影響してるのかな? って今ふと思った。

横田:なるほど、資金面か… 資金面で言ったら俺、当時はお金がなくなったら浜ちゃんに「浜ちゃん… 10万円ちょうだい…?」って。(笑)

浜中:(笑)

横田:おこづかいをせびる人が出てきて。「こないだの10万円で今回は2ヶ月半もったよ」みたいなことをやってたんだよ。

入間川:なるほど。(笑)

横田:月給制度でもないし…

入間川:成果報酬とか、依頼とかでもなく。

横田:ただ一緒に作る人として。

入間川:都度都度交渉。

横田:そう、都度都度おこづかいをもらう感じ。10万円ずつもらっていく人だった。

浜中:申告関連、どうやって処理したんだっけな…(笑)

横田:『四天王』『彼女は』をつくってた時、俺は舞台も出てたから、稽古とかで電車に乗らなきゃいけなくて。片道600円とか700円… 往復で1400円とか? 一回稽古に行くだけでそれだから。どんどんお金がなくなっていくのよ。そのたびに「浜ちゃーん、ちょうだ〜い」って。

浜中:(笑)

横田:で、俺は当時の資金面はほぼ何も知らない状態だから。『四天王』の売上があんまり出なくてヤバイって聞いて、じゃあ次のアプリはミニマムに… さっと作ってさっと出す。

入間川:それは俺も聞いてたかな。

横田:2014年10月30日に『奴は四天王の中で最も金持ち』が出て、じゃあ2015年どうするか… 『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』で戦闘だけのRPGを作って小さい規模でうまくいったから、『ドブネズミ』に立ち返って… 何ヶ月くらいで作ったんだっけ? 3ヶ月半?

浜中:うーん。そうだね、なんだかんだでそれくらいかかったかな。

横田:だから、そのくらいのペース、それくらいの規模で「年3本とか4本出そうぜ」って言って… 最初につくったのが『彼女は最後にそう言った』だったんだよね。

入間川:はいはい。

横田:2015年の年明けぐらいから構想を練って、大体まとまったら曲を頼んで… 曲を頼むメールっていつぐらいに送ってる?

入間川:1月だね。

横田:ああ。じゃあ1月の間にプロットか何かを書いて、「大体こういう曲が必要だから」って頼んだんだね。

入間川:その時は「プロット」と「楽曲要望」、ふたつのファイルをもらって、それを読んで作った。

横田:(浜中に)その「楽曲要望」って一緒に作ったよね? これだったらどんな曲が必要かなっていう相談… これって俺が「この5曲ほしいよね」って言ったわけじゃなかった… よね?

浜中:うーん…

横田:「この曲はこういうのがいいなぁ」っていうイメージを出したのは覚えてるんだけど… なんでこの5曲になったのかって流れは全然覚えてない。どういうふうに決まったんだっけ。俺が「5だ!」って言ったのか…? それとも浜ちゃんが「5しか使えない」って言ったんだっけ?

浜中:あー… どうだったっけな… 資金面的な制限は確かにあったから、そういう可能性はあるけど…

横田:できたプロットを浜ちゃんが読んで、「5だな」って。

浜中:…それはないんじゃない?

横田:うん。俺も言ってて「そうじゃないよな」って気がした。だけどその時、マガワさんには「余力があったらこれとこれも」っていう頼み方はしてない。「この5で!」っていうのがバーンと行ってる。

入間川:うん。で、「SEとかが追加で入るかも」って。

横田:あー。

入間川:効果音… 自然音とかが入るっていうような話。それは聞いてた。

浜中:『彼女は』の前までは「この曲はちょっと…」ってボツにした曲を他のところに使うこともあったよね。(笑)

横田:あー! あったあった!

浜中:料金据え置きで。

横田:没曲を使う。それはいいのか悪いのかわかんないけど。

入間川:(笑)いいんじゃない? 俺は使ってくれるぶんにはうれしいよ。

※『料金据え置きで没曲を使う』=入間川は許してくれましたが、これは関係性によるところが大きく、基本的にはよくないです。もちろん没曲の使用前に入間川と交渉し、了承を得ていました。

横田:どの曲だっけ? 覚えてる?

浜中:没曲?

入間川:『ドブネズミ』は戦闘曲のリテイクが何回かあって、「これはどう?」って修正したヤツと、修正する前のヤツが両方使われてたって感じ?

浜中:そうか。通常戦闘とボス戦で分けて使ったんだ。『四天王』はなんだったかな。『四天王』は「バキューン」が面白すぎて…

横田:(笑)

※「バキューン」=『奴は四天王の中で最も金持ち』で使われた発砲の効果音。ゲーム中でたった一回しか使われないのに、死ぬほどリテイクした。


入間川:あれはね、わかる。俺も覚えてるよ。何回も出した気がする。

横田:「違う、この音じゃないんだよ…!」みたいなのをずっとやってた。

入間川:「リアルすぎる」とか。「もうちょっと記号的な方」とか。

横田:「バキューン」に対するこだわりがすごいんだよ。(笑)『四天王』の出だしにも「バキューンこうや」って名前のフィールドが…

浜中:あっはっはっは!(笑)

入間川:…『彼女は』の話だよね?(笑)

横田:もういっこだけ言わせて。作らなかったけど、『好きだけどバキューン』っていうお蔵入りゲームが…

浜中:プロジェクトは残ってるよ!(笑)

横田:好きだけど、バキューンって撃っちゃうみたいな。変なアプリ。

浜中:プロトタイプだけ作って、「つまんねえ」って。

横田:(笑)

浜中:マガワさんごめんね、知らないのに。

入間川:いや、いいよ。ただ今後バキューンが来たら、ちょっと身構えるようにするわ。「バキューン入ってんじゃん」っつって。

浜中:(笑)


前作『四天王』で収益が出せず金銭的ピンチ。ギリギリで依頼された『彼女は』の5曲

横田:そういう流れで頼んでたわけだね。『彼女は』の曲は。

入間川:そうだね。曲数に関してはそういう縛りがあったのかな。

横田:あったね。でもまあ、いい5曲になったよなあ。

入間川:当時は私もちょっとありがたくて、2015年はバンドでツアーとか回ってる最中だったんだよ。東北とか行ってて、旅をしていたので。その合間に作る感じで。3ヶ月くらい猶予をもらったのかな?

浜中:えっ? 合間に作ってたの?

入間川:そう。メールで「3月末でいい?」って聞いてるから。「3月末に仕上げるよ」って。

浜中:合間ってどういう合間? 移動中とかそういう…

入間川:あ、違う違う。そういうことじゃない。家帰って。一週間ツアーに出て、バイトしてっていう時の… バイトしてる時。

横田:ツアーって一週間もかかるの…

入間川:関西に一週間。で、戻ってきて、北関東一週間。戻ってきて、東北に一週間… みたいなことをやってた。

横田:えー! 家に全然いないじゃん。

入間川:そうだね。だから戻ってきてちょっと一週間バイト入れるみたいなことをしないと、金銭的に大変だった。

横田:そういう時期だったんだねえ…

入間川:だから曲数が多かったら「もうちょっと期間くれ」って言ってたかもしれない。そういう意味ではいい感じでした。5曲はちょうどよかった。

横田:どういう順番で作ったかとか覚えてる?

入間川:メールで提出順がわかるからね。『村祭り(うたかた祭)』と『懺悔』を最初に送ってるみたいだよ。 

横田:『村祭り』と『懺悔』か…

入間川:多分、『村祭り』をずっと流すみたいなのを… 祭をやってる夜の間だけで舞台が展開するっていうのが設定資料に書いてあったから、雰囲気を先に作りたかったんじゃないかな。

横田:ああー。

入間川:もし他に考えられるとしたら、手をつけやすいところからつける。俺の性格からしてやりそうなことなんだけど、でも『村祭り』は当時の俺にとって結構ヘビーに作った気がするので。それと『懺悔』。その2曲。

横田:一曲一曲のオーダー… 「この曲はこういう感じで作ってほしい」っていう指示とかメールに書いてある?

入間川:「村祭りのテーマ。荒っぽい祭りというよりは、しめやかに行われる幻想的な祭のイメージ」って書いてある。

横田:おおー。なんか「イメージこういう感じ」っていう動画のURLを送ったりしたよね。

入間川:うん。『懺悔』も「登場人物が心情を吐露するシーンなどで流れる曲」って書いてあって、参考になる動画のURLがついてた。

横田:そうかあー…

以下、入間川に送られた「楽曲要望」の抜粋。
横田と浜中からは「生音を惜しみなく使ってください」「気持ちチップチューンで」と掴みどころがあるようでない指示がいっているのに対し、入間川はチップチューンをほぼ使わないという判断をし、前作『四天王』からグラフィックは変わらないのにゲームの雰囲気をガラリと変えることに成功。後日入間川に聞いたところ、「気持ちチップチューン」=「ほんのり」ぐらいの解釈で、「ほんのり」は『懺悔』に入れたらしい。
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※曲によっては生音のギター、ドラムなどを惜しみなく使ってください。雰囲気重視で。
※舞台は「田舎の村祭」で、ストーリーは「祭をやっている夜の間」だけで展開します。全体的にノスタルジックで、幻想的な感じのイメージです。
※あくまでも雰囲気重視ですが、可能であれば気持ちチップチューンでお願いします。(グラフィックは『四天王』の時とほぼ変わらないため)

●メインテーマ=ゲームを象徴するテーマ曲。オープニングやタイトル画面で流れるほか、ストーリーのクライマックスでも流れる。

●村祭のテーマ=荒っぽい祭というよりは、しめやかに行われる幻想的な祭のイメージ。

●回想=楽しかった思い出や、美しい過去を思い出している時に流れる曲。
幻想的であたたかいイメージ。

●懺悔=登場人物が心情を吐露するシーンなどで流れる曲。

●二人=主人公とヒロイン、二人のシーンで流れる曲。


入間川に送られたものと同じ「プロット」をお読みになりたい方はこちら(¥1,000)。「プロット+設定資料」「シナリオ」2つのファイルを当時のまま掲載。合わせて10万字超のボリュームです。

入間川:まあ、とりあえず「和太鼓入れるっしょ」って感じだったよね。和太鼓は入れたかった。

横田:和太鼓、どこに入ってるんだ?

入間川:祭の裏で。ドンドコ鳴ってる。

横田:「祭の曲をずっとフィールドで流してる」っていうのも、結局曲があんまり使えなかったからこその工夫だったんだよね。祭の中心地から離れるにつれて祭の音が小さくなるっていうことをやったりして。結果それがよかったのかなあ。

入間川:テストプレイで遊べるようになって、事務所に行ってやらせてもらった時、ずっとその曲が流れてると「飽きるな」と。ワンループ短かったから、帰って「足したわ」って差し替えてもらった気がする。

横田:その時か! 初めて会ったのは!

入間川:そう。で、テストプレイしてる時に俺がやってる様を、通るたびにJさんはこう… チラッて。見ていくのは感じてた。俺結構早くセリフとかをパパパパって送ったりするから、「気分を害したかなあ」って。(笑)

横田:いやいや。(笑)

入間川:でも、多分それはプレイヤーが初めてゲームをしてる時に反応とかを気にしてるんだろうなっていうのはわかってたから。「まあ俺はこういうプレイスタイルだしな」って。

横田:それは、そうだね。後ろ通るからってあんまり気にして欲しくなかった。これは… 宮本茂さんかな。初めてゲームをプレイする、テストプレイしてる人を後ろからずっと見てるんだって。で、「こういう仕掛けがあったのに結局気づかずに行っちゃったな」とか。「これをやっといてもらわないと後で困るのにな」とか。初めて触ってる人がどういうプレイをするかを後ろから見て、あとでゲームを直すっていう。そういう話をどこかで見て、それをマネしてやってたんだよ。

入間川:なんか、「見てんだろうなあ」と思ってたよ。

横田:そうなんだよね。

入間川:今思い返すと、俺も初めて作ったヤツを遊んでもらった時は、ずっと後ろから見てたもん。「ああっ、そこ… そこ行かないんだ…」って。

横田:飛ばされるなら飛ばされるで、そうなってもいいように作り直すとか、なんとかしたりもするね。

入間川:『村祭り』『懺悔』の次に送ったのは、『回想』のBGMらしいよ。

横田:『回想』は「オトナ帝国のひろしの回想みたいに」って言ったね。

入間川:『回想』と『二人』は、このへんはリテイクもなくスッと通ってるっぽい。『メインテーマ』もスッと通ってるっぽい。

横田:あー。

入間川:「もらった資料を汲み間違えなかったんだな」って安心した。

浜中:あの… 当時さ、俺もマガワさんとの距離感がよくわかってなくて。

横田:ええ!? そうだったの!?

浜中:だって…

入間川:中学卒業してからほぼ会ってない。

浜中:会ってないよね。

横田:あ! そうなんだ!?

入間川:だから、『彼はパイルドライバー』とかやり始めた時に、ちょいちょい会うようになったのかな。

浜中:だから、メールの内容もちょっとテンション高めなんだけど。

入間川:「ありがとう!!!」「いいねこれ!!!」みたいな。

浜中:はずかしい。(笑)
 
入間川:わりとホメてくれたよ。今もそうだけど!

浜中:それは置いといて… 「どれくらいまで注文していいのか」が、わからなかった。

入間川:ああーーー。

浜中:「汲み間違えてなかった」みたいなこと言ったけどさ。こちらが「こういうイメージでお願い」って言うのって、曲を作る側としてどういう気持ちなんだろうっていうのもあって。どこらへんまで頼んでいいのかわからなかったからさ。

入間川:うーーん。ちょっとねえ… 質問の意図がよくわかってないんだけど(笑)

浜中:曲を作る側としては、細かく指示をもらった方がいいのか、それとも「このシナリオならこういうサウンドでいきたいな」とかあるからこういう風にやらせてくれとか… 多分当時と今で違うとは思うんだけど、そのへんどうなのかなって。

入間川:なるほど。理解した。それで言うと、最初期から今に至るまで、大まかな情報… だから、設定とプロットと、もしイメージがあるなら曲のイメージをざっくり。それをもらって、あとはおまかせにしてもらって、それを作って出したら「イイネ!」までが最高の状態。

浜中:「イイネ!」までが。(笑)

入間川:それが、曲ができるまでの最高の状態。それは2012年に『今すぐ装備していくかい?』とか『彼はパイルドライバー』を作ってた時からそう。あの頃もさ、ドトールで「こういうの作りたいんだよねー」って浜さんが話してたじゃないですか。

浜中:たまにファミレスみたいなところで。

入間川:ガストか。「パイルドライバーのゲームだからプロレスみたいな曲がいいんだよねー」ぐらいをもらって、俺がプロレスの入場曲みたいなのをたくさん聴いて、「あぁなるほどこういう感じか。キたぜ!」って作るから、多分やり方としては同じで。それがいい。

横田:うん。

入間川:で、今もプロットとシナリオ読んで、ここにこの曲入れて… あ! そう! 「ここにこの曲入れて」が加わったね! 今は!

浜中:ああ、中に入ってきたから。

入間川:そう。チームに入ったから、「この曲がほしいんだよ」って言われる前に「この曲入れたいんだよね」って。「はいココ曲いる、曲いる、曲いる…」っていうのでリストを作るから、今の方がいいね。

横田:「ココ曲いる、曲いる…」っていうのは、自分で考えるってことだよね。

入間川:うん。シナリオ読んで、「ここはこういうバトルっしょ」みたいなのを入れていきたい。

浜中:そこらへんは『ココロインサイド』の話につながりそうですけど。

横田:『ココロインサイド』、すげーいっぱい曲作ってたもんなあ…

※『ココロインサイド』=2020年8月13日にリリースされた無料スマホゲーム。人の心に入り込むアプリを駆使して、謎を解き明かすアドベンチャー。主人公が住む「人が消える街」では、女子高生の連続失踪、存在しない駅に迷い込んで帰ってこられなくなる都市伝説、3人殺して街に潜んでいる凶悪犯など様々な事件がはびこっている。ミステリー、ホラー、バトル、友情。街に住む人々の心に深くえぐり込む青春ストーリー。ちなみにサントラは4枚リリースされており、入間川はひとりで86曲も作った。

入間川:曲作る時は「要望があったら言ってほしいし、ない場合はまかせてくれ」かな。それが一番やりやすいと思う。みんなそうなんじゃないかな。

浜中:うん。

入間川:「この曲とこの曲の何小節目を足した感じで、さらにサウンドはこの時代の何々で…」みたいなのを逐一指示した上でオーダーを出されたら、「えぇ…」ってなるでしょ?

浜中:確かに。自分じゃなくても良いじゃんってなるよね。

入間川:『メインテーマ』は、「ループするように作れないかな?」っていう微妙な修正が入ったよね。

横田:あーそうだね! ゲーム中に流した時に曲が途中で終わっちゃうと… まだお話が途中なのに曲だけシメられても困るから、ループするようにしてほしいって言ったね。

入間川:入れてみてわかることあるからね。さっきの『村祭り』の、フィールドを歩き回ってて「もうちょっと曲長い方がいいな」っていうのと同じように。曲を作ったらプレイして修正はしたい。納品して終了ではなくて、気になるところは自分で遊んで手を入れたい。

横田:なるほどねー。

入間川:っていうのを『彼女は』の時ぐらいに思って… その後も作っていくにつれて「やった方がいいな」って思うし、今も変わらない。

横田:『メインテーマ』に関しては、こっちから「こうしてくれ」って言ったオーダーがまずあるじゃない? 俺確か「アシタカせっ記みたいにして」って言ったんだけど。

入間川:うん。

横田:あの曲ってガチガチのオーケストラじゃないですか。で、『四天王』でもチップチューンにまぎれて多少弦楽器が入ってるみたいな『リョウマ戦』とか『最終戦』… あのへんは片鱗が見えてたけど、「じゃあメインテーマ、アシタカせっ記みたいなの」って言った時、こっちもマガワさんの引き出しがよくわからない状態で頼んでるから、あがってきたメインテーマを聴いた時ビックリしたんだよ。「できるの!?」って。

入間川:ああー。

横田:あれはでも、アシタカせっ記に寄せていったわけではないよね。「ロックバンドをやってる人間にオーケストラの曲を頼んでみたら普通に出てきた」って… そういうの普通にあることなの? それともマガワさんの中にそういう素養があって、すんなり出たってことなのかな?

入間川:それで言うと、すんなりは出てない。

横田:やっぱ、すんなりは出てないんだ。

入間川:当時の曲を聴き返すと… 「やりたいんだけど、いろいろ追いついてない」っていうのが今はわかる。「ここはこうしたいな」って、直したいのはいっぱいある。

横田:それって… 旋律の話なのか、音色の話なのか…?

入間川:両方だね。

横田:ああー…

入間川:バンドでやる曲を作るのとオーケストラの曲を作るのでは、結構違う。だから素養があったかどうかっていう話になると… ない。

横田:ない!

入間川:バンドマンでそれができる人っていうのは、人による。まったくできない人もいると思うし、できる人もいると思うけど… 俺はちゃんとオーケストレーションを勉強したわけじゃないので、本とか買ったよね。

横田:そこで勉強したんだ!?

入間川:そう。やりたいことはすごいやりたかった。音は重厚にしていきたかった。

横田:それは管楽器、弦楽器などを…?

入間川:うん。オーケストラ入れて、ドラマティックにしたい欲があった。

横田:じゃあやっぱり、映画の劇伴の作り方なんだ。

入間川:映画とか… ゲームのBGMでも結構壮大なのいっぱいあるじゃん。ああいうのがやりたかった。で、それをチップチューンで表現してきた大先輩たち、その置き換えをする技術を突き詰めるよりも、オーケストラの音を使いたかったから、ここぞとばかりに弦楽器とかちょっとずつ音足して、重厚にしていった。

横田:そうか、それを『四天王』の時から試してたのか…

入間川:やりたかったから入れてた。で、やってみて、なんか上手い人たちと違うから、それは試行錯誤をしていって。楽譜を買って、楽器はどういうメロディにして作ってるのかとか、『オーケストレーション入門』とか買ったりとかはしつつやった。

横田:ああー… そうだったんだねぇ…

入間川:今思うと、「もうちょいがんばれよ」とも思う。でも当時は、ちゃんといっぱいこだわったんだなっていう。

横田:当時の… 限界。

入間川:うん。当時の限界。

横田:いつだったか… 作曲について話をフッた時、「久石譲進行」っていう言葉をマガワさんが言ったのね。「なんかこの曲久石譲っぽいよね」みたいな、そう聴こえる曲の流れがあるって話をしてて、「へぇー確かに… 確かに確かに!」って思ったんだけど。

入間川:あるある。

横田:『Summer』とか。『彼女は』でいうと『二人』かな。『メインテーマ』はアシタカの方にいってるから、それも久石譲なんだけど。それをちょっと感じるよね。

入間川:それはね、ある。久石譲さんは、もちろんたくさん曲を書いてるんですよ。だから「久石譲っぽい曲」は、人によって変わるんだと思う。

横田:ああー。

入間川:国民的なアニメとかで知ってる人が多いから、それっぽいのが来ると「久石譲っぽいよね」ってなる。

横田:音の組み方というか。

入間川:「よく聴くなあ」っていうのがあって。『メインテーマ』でも… フレーバーをいただいてますね。

横田:ああー。やっぱそうなんだね。

入間川:コード進行も、たとえば久石譲さんの『Summer』… あのコード進行をイントロに使ったら、そうなっちゃう。ピアノであれをやったら、そうなっちゃうよね。

横田:あああーーー。

入間川:『彼女は』の時は、そこに入れたいものを入れたりとか、したんじゃないかな。

浜中:入れたいものって?

入間川:…和太鼓?

横田:『メインテーマ』に和太鼓入ってるの!?

入間川:「カッ」とか「チッ」の音。太鼓のフチのやつね。

横田:ああー。うんうんうん。

入間川:この時はLogicの内蔵音源でね。オーケストラ音源とか明るくなかったので… まさにかけだしなんだよね。Logicに入ってる「とりあえずオーケストラセット」みたいなのを引っ張り出してきて。それでフレーズをバーって弾いて… 重ねて重ねて音を重厚にしてやろうみたいなことを考えてたんだろうなぁコイツは、っていうのを感じる。サントラを作る時に昔のファイルを開くと「重ねたなあ、コイツ…」って。(笑)

横田:作業ファイルに出るんだね。そういうの。

入間川:試行錯誤とか、当時の苦戦ぶりとか。出てましたね。

横田:打ったはいいけど、最終的に消したパートとかもあるの?

入間川:あるあるあるある。

横田:あ、あるんだね。

入間川:なんかミュートされてるトラックがあって。聴いたら「正しい」って。

横田:(笑)

画像2

※入間川の『うたかた祭』作業ファイル。画面上半分エリアの、緑色のバーが灰色になっているのが、「ミュートされて使われなかったトラック」。

浜中:でも一応残しておくんだ?

入間川:残してあったね。多分残したのは、「何かで使うかもな」とか思ったんだろうね。本当にいらないのは消してるんだけど。

横田:もったいねえかぁ… っていう?

入間川:たぶん、惜しいなって思ったんだろうね。

横田:『メインテーマ』に関しては、初期段階の曲イメージでは『ぼくのなつやすみ』とかも参考イメージに挙げてたんだよ。

浜中:一回さ、マガワさんに楽曲要望を送る前に二人で見て、「これは違うよね」って話はしたじゃない。

横田:した。もともとマガワさんが普段どんな音楽を聴いてるのか、引き出しが何もわからなかったから。FFとか聖剣伝説とか、今までに通っていそうなゲームの曲の中から例をいっぱい出そうとしてたんだよね。

入間川:どんなゲームをやるかとか、そもそもゲームをやるかもわかんないもんね。

横田:そうそう。全然わかんないから。そのへんが現れている。

入間川:たぶん、今誰かに「曲作って」って頼むとしたら、その人が何をやってたのかは知りたいよね。

横田:そうだね。バックボーンというか。趣味みたいなものをね。

入間川:…よく頼んだよね。わかんないのに。

横田:いや、だって、実績は見てたからね。『ドブネズミ』の時点で「どんなゲームやってたのかは知らないけどRPGっぽいゲームの音はつくれるんだ」って確信はあった。

入間川:なるほど。

横田:…そういえば、SYUPRO-DXのゲームでは『焦燥』とか、焦ってる時に流れる曲って結構あるんだけど、そういう曲、だいたい人気ないんだよね。

入間川:(笑)焦ってる時に流れる曲そんな何回も聴きたいか、ってなる。あれはマジで、ゲーム中に流れるからいいのであって…

横田:「それ単品で聴いても…」ってことなのかな。

入間川:「よし、『焦燥』聴こう」とはならない。

横田:うーん(笑)

入間川:あ、でも、それで言うと、ファイナルファンタジーの焦燥感ある曲は聴きたいね。

横田:ああ、うん。どこかに潜入してる時とか、ヤバイのが来ちゃったよとかで流れる曲。

入間川:あれはなんなんだろうね。…曲がうまいのかな?

横田:そのまま戦闘に入ったりするよね。

入間川:あ、そっかそっか。戦闘に耐えうるBGM。そういうの好きだよ。

横田:俺、ロマサガ1、2、3、全部やったんだけど、いっこもクリアできてないのよ。でもサントラはめっちゃ聴くもん。

入間川:サガシリーズ熱いもん。だってイトケンさんだぜ?

横田:聖剣伝説3も、オンラインのオーケストラコンサート観たし。

入間川:菊田さんだぜ?

横田:SYUPRO-DXでもオーケストラのライブ、できたらいいのになあ。

入間川:それねえ… それはねえ… ですよねえ…

横田:最近インディー発のゲームでも、オーケストラコンサートやってたりするじゃない。だから、できたらいいなあとは思うけど…

入間川:それはさすがに俺だけの力じゃあ無理だな…

横田:そうだよね、難しいよね。

入間川:うん…

横田:もっと愛されたら。

入間川:「生で聴きたい」って。

横田:この3人だけでは、到底できないのでね。…できたらいいね。

入間川:バトルBGMをロックバンドのライブとかでやるっていうのだったら、もうちょい可能性は見えてくるけど… 楽しそうだよね。
 
横田:そうだね。


90年代家庭用ゲームにインスパイアされた『ガッツリRPG』から、戦闘だけ、探索だけの『短編RPG』まで。SYUPRO-DXのゲームのつくりかた

入間川:2014年10月に『四天王』の開発が終わって、『彼女は』の開発に入るまで、結構空いた? ミーティングとかってしてたのかな。

浜中:『四天王』は、リリースが10月30日になってるね。

横田:じゃあ、そこから年末に至る2ヶ月間… いろいろやってた時期ではあるね。致命的なバグを直したり。最初はiOSだけで、Androidもリリースされてなかったし。

浜中:あんまり見たくないんだけど…(当時のスケジュール表と記録資料を出す)

横田:これが見たかったんだよ。

入間川:(資料を読んで)…へえー。これ外で見てもいい感じで書かれてるね。外部に持ち出すような。ホワイトボードにいっぱい書かれてる内容が、写真におさめられてるんだね。

写真 2014-12-30 1 04 18

※『四天王』開発終了から『彼女は』開発までの間に書かれたホワイトボード例。『彼女は』を作る直前まで別のアプリを作ろうとしていたその名残。保管用の写真は浜中が綺麗に残しているが、この画像の撮影者は浜中ではなく横田なので、うっかり電灯のヒモがカブるイージーミスを犯している。


浜中:…おー! これ『彼女は』じゃん!?

(浜中、「待宵中学校」とか「駐在所」と書かれた小さい紙の束を出す)

写真 2021-08-13 21 18 31

横田:うおおお!? そんなの残ってるんだ!?

浜中:これ、横田がマップを作る時に。

横田:「位置関係を決めよう」っつって。それを床に並べて、ああでもないこうでもないって場所を入れ替えたりしながら、最終的にマップに落とし込んだんだよ。

浜中:その時のやつが残ってるんだ。

入間川:なんかちゃんとしてるね。よく残すね、SYUPRO-DX。記録をよく残す。

浜中:いや、世間の会社ほど残してないけどね。

入間川:開発秘話的なものを出すとしたら、あんまり困らない気がする。

浜中:なんか思い出したわ。『四天王』を作ってた頃、俺と横田の事務所に来る時間が合わない日が結構あって。俺が帰る頃に横田が来るみたいな。

横田:ああー! あったあった!!

浜中:だから、ホワイトボードに… 横田に向けての交換日記みたいな。

入間川:交換日記!!!

横田:(笑)覚えてるわ。なんか事務所に来ると、ホワイトボードがこう斜向いてるから… それを立ち止まってこうやって見る。

入間川:出勤じゃん。

横田:絶対伝えたいこととか、今日やったこととか、ひとりで決められない仕様とか相談事をバーって書いておく。その往復。でも、ずーっとPCで作業してて、クラウド上でもつながっていたはずなのに、アナログな方式で交換日記をするって…

浜中:(笑)

入間川:ちなみにさ、当時2人は… 浜さん専業でしょ? その時って。

浜中:かな?

入間川:Jさんはバイト?

横田:いや、もうこの時は。『四天王』開発スタートから、これだけになってる。だから「10万円ちょうだい」が発生してる。

入間川:なるほど。(笑)

浜中:それは俺がめっちゃ口説いたってのがあって。

入間川:ちょっと待って、めっちゃ口説いたは聞いとかないとダメだ。

浜中:めっちゃ口説いたって言ったけど、内容は都合よく覚えてないんだ。ただ『ドブネズミ』の時は横田がまだバイトしてた。

入間川:じゃあ、リリースした後さ… 今はJさんと浜さんがよく拘束されるじゃん? バグ修正。

浜中:俺は拘束されてないけど。…いや、ものによるか。

横田:今現在の話?

入間川:今現在もそうだけど。当時『四天王』って、リリースした後にも一緒に直してたの? 組み込み… 浜さんが作ったRPGツクール的なものを使って、実際にキャラクターの配置とかイベントの作成を主にしていたのはJさんだったじゃない。

横田:ああ。一応事務所には来て。浜ちゃんも隣にはいたね。

入間川:あ、じゃあリリースしたあとも2人で作業してたんだ。

横田:うん。結局バグは浜ちゃんにしか触れないシステム側にはそんなになくて、ほとんど俺のイベント配置ミスだったんだよね。

浜中:俺は作者(横田)の意図をねじまげるような修正をした記憶がある…

横田:それに関して、俺はよく覚えてないんだけど。

浜中:俺が当時やってたのは、まず横田が表現したいものを先に組み込んでくれたら、バグっぽいものは俺が修正しながらイベントを整えるっていう。イベントをとりあえず、なんとなく通るようにしておいてくれたら、バグとかの修正をしながら俺は後追いをするから。

横田:そうだったっけ!

入間川:今とは違う作り方だね。

浜中:え、そう?

横田:今は後から追ってこないじゃん。

浜中:(笑)

横田:後から追ってこないというのは、「できたものを初めて遊んだ結果どういう印象になるのか」を判断するために、ある程度できるまで触らないようにするじゃん。

浜中:というか、あのシステム(Googleスプレッドシートにゲームデータを入力して動かす浜中が作ったRPG開発エンジン)が初めてできたのが『四天王』からで、横田にシステムを使ってもらいつつ、俺もシステム自体を作りながら試していたみたいな状況だから。

横田:ああ。

浜中:横田も慣れてなかったから組み込みづらかったと思うし、俺も使ってもらいながら、自分でも使いつつ改良していく方がいいっていうのがあるから。それもあって後追い修正してたんだけど… その中で、リョウマが。

横田:あー! リョウマ!!

浜中:主人公とリョウマが再会するタイミングあるじゃないですか。あそこで横田は「ここは横を向いて対峙したいよね」って言ってたんだけど、それを俺はなぜか… 「いや、見栄え的に壁として前にいてもらって、そこに立ち向かう主人公の方がいいよ!」って。どうしてかそれをゴリ押ししてしまって。『四天王』ではボスと戦う時は主人公が上方向に歩いていって、一番奥にいるボスと対峙するっていう状況がほとんどで、それは戦闘画面で敵が正面を向いているって理由も関係するんだけど。

横田:それを、覚えてるんだね。

浜中:だからその… 「自分がやってしまった過去」みたいなのをよく覚えてるよ。

横田:それはねえ、俺は覚えてないの。

入間川:それねえ。オイシイやつです。多分いいやつッスよ。

横田:(笑)俺は覚えてないけど、浜ちゃんの中では「えらいことをしてしまったぞ」っていう、何かがあるんだろうね。

浜中:うん。

横田:俺はそれより、「仲間になろうとするイシジャブに対して甘すぎる」っていう、そっちの方が覚えてるんだよ。あいつは主人公たちの街を燃やした、にっくき仇なわけですよ。一回倒すんだけど、あいつはその後逃げて、もう一回出てきて、街の復興作業に加わるんだよね。で、「俺とフレンドになってくれないか」っていう流れでイシジャブが仲間になるんだけど、その時のイシジャブのセリフに対して、「こいつは…!」って。(笑)

浜中:(笑)

横田:「こいつは自分のやったことがわかってないんだ!」と。「こんなので許せるわけないだろ!!」って、そこのセリフだけ何度も直したのを覚えてる。

入間川:その感覚は今もあんまり変わってなくて、俺は地続きだと思ってる。浜さんの感覚。「言いそうだな…」って思う。

浜中:それに関しては、俺個人としては許せる範囲なのよ? 最初の横田が上げてくれたシナリオで許せる範囲だったんだけど。多分… その頃読んでいた本の中に、謝罪に関するエピソードがあって。

横田:謝罪に関するエピソード?

浜中:「ある企業が食中毒を起こした」っていう事件に対して、現場では対応策を立てたりしてとても頑張っているし、こんなに疲弊しているのに、「謝罪に対する誠意が足りない」みたいな、そういうクレームがすごくあった。そういう本を俺は読んでて、「ああ、こんなに謝罪しても許してもらえない社会なんだ」っていうのがあって。じゃあそのタウン単位で炎上させてしまったイシジャブはこんなんじゃ許してもらえないぞと。それでイシジャブに対して、「俺はともかく、世間はゆるさないぞ!」と。(笑)

横田:(笑)

入間川:「浜中フィルター」じゃないですか。

横田:「浜中フィルター」!?

入間川:最近有名な。巷で有名な。

横田:浜中の向こうにいる世間。

浜中:俺の向こうにいる世間って。結局俺のフィルター。(笑)

入間川:(笑)

横田:助かることもある! それは!

入間川:それはねえ、ないものなんだよ、私には。

浜中:よく言われる、主語を大きくしてるのと同じだよね。「俺じゃないよ? 世間が言ってるんだよ!?」っていう。

入間川:(笑)

横田:いやあ、でも今「価値観をアップデートしてね」ってすごく言われるじゃない?

入間川:ああ。

横田:そういう、今の社会に対しての…

浜中:…でもね。俺が言うのもなんだけど、いろんなことに配慮するという前提の上でだけど… インディーデベロッパーが、世間の評判ばかり気にしてたら… エゴがなかったら、ゲームつくれないよ!

入間川:(笑)

横田:(笑)マガワさんはエゴみたいなものって、作ってる時に気にする? 歌詞とか書いてる時に「これって俺のエゴかなー」って気にしたりとか。

入間川:あー、どうだろう… それ難しいな。っていうのは、たぶん自分は他の人から見てエゴが強い人間だって思われてるっていうのはわかってるんだけど、でも俺は自分から見ると「世間の人たちって、めっちゃ俺よりエゴ強いな」って思ってるんだよ。

横田:…ああ、なるほど。

入間川:だから、エゴが強いと思われてるそぶりをしながらも、クリエイターたるもの、人々のエゴに応える姿勢を持っている。というていで。

横田:あああーーー。

入間川:「お前らこういうの聴きたいんだろ?」みたいな態度が見えちゃいけないんだけど、「彼らは何が聴きたいんだろう?」っていうのをキャッチしなきゃいけないじゃないですか。

横田:うん、うん、うん。

入間川:なので、そこに関してはあんまり困ってなくて。まわりの人たちでエゴが強い人がいるから。だから自分のエゴは、半ば「みんながそう言うから」っていう、スケープゴート的な… あんまり俺は「自分のエゴ出しちゃったー」みたいなことはないかな。

浜中:曲のエゴってさ、どういうものなの?

入間川:一番わかりやすいのは、イングウェイ・マルムスティーン。

浜中:ほう。

入間川:もちろんBGM作家としてのエゴもあって。アニメに埋もれない曲を作る人が好きなのよ。存在感を消さないとか。だから俺も「入間川幸成だぜ」っていうのを入れたい。

浜中:あー。それで言うと、プレイヤーさんから「BGMの音量がでかいから調整させて」っていう要望があるじゃないですか。

横田:あるなあ。

浜中:それは、俺が断っているよね。

入間川:(笑)いや、できていいと思うけどね。

浜中:入間川は絶対言えないじゃん。だからそれは俺が断るんだよ。だって、シナリオと曲を見せるためにある会社じゃないですか、シュウプロって。なのにそこを… 我々が思う「ちょうどいい」みたいなバランスで届けてるものを、「調整させてくれ」って言われると… 俺のエゴとして、そこは「ごめん」って。

横田:なるほど。それはエゴだ。確かに。

浜中:作ってる本人としてはそれは、言いづらいだろうからさ。俺が言いたいよね。

横田:うん。

浜中:というか、シュウプロとして… 会社としてさ。そこをなくしたら意味ないよね。シナリオライターと、サウンドクリエイターがいて。

入間川:今、むねにひびいたわ。仲間になるわ。

浜中:(笑)

入間川:それいいね。それいい話だね。

浜中:…まあ、それを主張した上で、サウンドのボリューム調整はあったほうがいいかなって思うけどね。(笑)

入間川:あった方がいいよ。(即答)

横田:UX的に。(笑)

浜中:…ご意見をくださった皆様、ごめんなさい。

入間川:そうだねえ。むしろ、上げたい時とかあるからね。FF7リメイクをやってる時に、上げたかったんだよね、BGMのボリュームは。

浜中:そうなんだ。

入間川:アクションゲー感がすごくて。効果音とボイスが結構あるからさ。浜渦さんの名アレンジが聴けなくて。だからその… 「BGMがうるさい」っていう人も多いからかもしれないけどね。俺の曲をガンガン聴きたいっていう人もいるかもしれないから。

浜中:聴きたくないって人は…

入間川:そもそも聴いてないよね。ライブハウスとかで、空き時間にパズルゲーやってるバンドマンまあまあいるんすよ。パズルゲーは確かに音出さなくても遊べるし。ストーリーものとかじゃないから。だからその、時間潰しとかにいいヤツって、基本音出さないよね。

横田:ああ。スマホでは音出さずに遊んでる人も多いね。


入間川:あ、そうだ。この話は『彼女は』を語る上では外せないんだけど、浜さんがテストプレイした時に、うっかり泣いてしまったっていう話は… 事実だよね?

横田:「泣いた」とはハッキリ聞いてないよ!? 俺は!!

入間川:彼、泣いたっていうのは、どっかで言ってて。「不覚にも泣いた」みたいな。

浜中:………

入間川:「泣いた」で人を惹きつけるのは、あんまりかっこいい手ではないんだけど。なんか… 「中の人に感動を与えるものができるのはいいものだな」って印象を持った覚えがある。

横田:『四天王』の時はスクリプトを組んでる時、浜ちゃんが後ろから追っかけてきてくれたけど、『彼女は』は、追っかけてきてないんだよね。

浜中:横田がシステムに慣れたからね。都度、機能追加したぐらい。

横田:『四天王』の時に作ってくれた浜中製のRPG開発エンジンに俺が慣れたから。「ひとりでいけるわ」って。

浜中:あれ、テストプレイした時、横田は隣にいたんだよ。

横田:…あ! それはなんか覚えてる。いたことは。

浜中:食事だか、タバコだか吸ってたりして。

入間川:バレないようにしたの?

浜中:そう。バレないように… ただ、しずか〜な部屋でティッシュをとる音が、シュッ、シュッって…

入間川:(笑)

浜中:それを後で横田に聞いたら、横田は「なんかティッシュ使うなあとは思ってた」って。

横田:「花粉症か?」って。(笑)

入間川:Jさんへのフィードバックの時、泣いたことはバレたの?

浜中:いや、俺はバレないようにしてたんだけど、最終的に泣いたことはバレたよね。

入間川:(笑)泣いたシーンはどこなの?

浜中:何回か泣いたと思うんだけど… 多分… 少年とうさぎの話をするあたりで一回泣いてる。

横田:じゃあ、三章ぐらいで泣いてる。

浜中:ちなみに俺がテストプレイした時にさ、もう零章ってあったんだっけ?

横田:…いや。零は、ないかも。

入間川:「足そうよ」って言ったやつだもんね。このエンディングは「俺の世間がゆるさない」から。

浜中:もうゆるして。(笑)

入間川:それは、有名な話ですよ。

浜中:申し訳ないです。作家性をねじ曲げてしまって。

入間川:(笑)

横田:零章はたぶん、最後まで作った後に足してるような気がする。

浜中:…ああ、そうだよな。そうだそうだ。最終章でガチ泣きしたんだけど、ガチ泣きした上で「申し訳ないけど」って。

横田:そうだ。それで「零章を作ってくれ」って言ったんだよね。

入間川:浜中フィルター第二の山だね。ちょっとちっちゃめの山として、「うさぎじゃダメでしょ」っていう浜中フィルターもあります。

横田:ミミスケの名前をつけてなかったってやつね。

浜中:あと、ミミスケが… ナナミが死ぬ時に、ナナミが落ちてるのに、ミミスケが我関せずみたいな感じで。

横田:ああ! そこにいるだけで、関係ないみたいな感じで。だから、ナナミが落ちた方を見るようにしたんだよね。ただそれだけなんだよ。ミミスケはしゃべらないから、そのへんが難しい。

浜中:ね。

入間川:キャラのグラフィックも、あのサイズだったしね。

横田:「どっち向いてるか」ぐらいしかわからない。だから、ただ落ちた方を向いている。そこに全部かかってる。その後に、飛んだり跳ねたりという意思表示も足して。

浜中:俺さ、プロット読んでるはずなんだけど。実際プレイして泣いちゃうという。

入間川:それ何なんだろうね?

横田:実際組まれたものと、プロットは違うってことですよ。

浜中:ああーーー。

入間川:おおーーー。

浜中:なんか、意識してることある? 組んでいく中で変わっていくものとか、演出上、文章だけで読むのとさ、実際その場面が動いてるっていうので受ける印象って違うじゃない?

横田:何を考えながら作ってるかってことだよね。そうだなあ… プロットを書いた段階ではおぼろげだったイメージを、全体通してシナリオを書いていく中で、今こういう雰囲気の場所で、この子はこっち向いてて、この人はこっちに歩いて… って、頭の中で細かく動かしていくんだよ。文章で読んだらただのセリフの羅列だけど、それを一歩踏み出して言うのか、こっちを向かないで言ってるのか、キャラに動きをつけるだけで情報量が増えて、セリフの意味が変わることだってある。そこは俺が今までずっとやってきた、舞台の作り方と同じだったんだよ。だからそれをゲームに落とし込んでいくだけなんだけど、『彼女は』を作ってる時によかったのは、グラフィックもシナリオも全部自分でできたし、イベントを配置するのも俺だから。この規模なら俺のイメージをそのまま作ればいいだけだった。ただ、ラストに出てくるナナミが主人公に向けて何を言うかだけは「もっといいのがあるんじゃないか」って思いながら作ってた。でも… 出てくる人物に思いのたけを言わせて、人と人とが繋がって、物語を細かく積み上げていったことで、最後の最後… もう必死で作って疲れ切って風呂に入ってる時かなんに、急にナナミのセリフが一言、ポンと浮かんだんだよ。「あ、これだ」って。それはそのままゲームにも使ったし、それを思いついたことで「勝った」と思える設定とか、たった一つのセリフがあって、それが出たことで「いける」ってようやく思えた。だから… 登場人物の気持ちを、考え続けることだよね。

浜中:うん。

横田:あと、これ言っちゃうとアレなんだけど… 泣けるかどうかって、「いい感じで曲が鳴るかどうか」がデカイから。

浜中:ほほーう。

横田:いい感じのシーンで、いい感じの曲がきたら、泣けてしまうんです。

入間川:レビューで言ってくれてる人もいたよ。「いいタイミングで曲がかかる」。演出ってやつなのかな。

横田:その曲のタイミングは早くても遅くてもダメで、ここでドンってきたら、たぶん泣いてしまうっていうのは、あるのよね。

入間川:うん。

横田:で、それに耐えうる曲がきてるから。そこはすごくよかった。

入間川:ちなみにちょっと気になったんだけど、二人のやりとりの話を聞くと、プロットのOKが出た段階でJさんがもうゲームを作り始めてるよね。

横田:うん。

入間川:今はプロットができたらプロットを見せてくれるじゃん。で、「あ! いいじゃん!」っつって、次にシナリオがきて、キャラとか物とかのグラフィックを作って、ダンジョンとか街のフィールドを用意して、ようやく組み込もうってなる。当時はプロットOKの状態で、シナリオないままGOだったの?

横田:うーん…

入間川:セリフとかなしで、誰が何をしてっていう情報だけで…?

横田:いや、さすがにもう少し、細かいセリフの流れを書いてからグラフィックを作り始めたはずだけど… その書き上がったシナリオに関しては、チェックを受けていないかもしれない。

入間川:へええ。

横田:プロットの、この流れの通りにいけばいいよねっていうOKだけもらって、村人の誰が何を言ってるかっていうのは都度都度考えていったね。でも『四天王』の頃から、そういう感じはあった。

入間川:どういうこと?

横田:『四天王』はプレイ時間が長くてフィールドもいっぱいあるゲームだけど、これを開発するかしないかを決める時、「主人公がどこで何をして最後どうなるのか」は絶対知りたいよね。街にいるモブキャラが何を言うかは俺がすごく大事にしてるポイントだけど、街のいたるところにいるモブのセリフなんて文章だけで共有されてもよくわからないし、メインストーリーをチームメンバーに齟齬なく伝えなきゃいけない開発初期の段階ではむしろ邪魔になったりするんだよ。だから、「こういうダンジョンがあって、奥にはこんな敵がいて、話しかけるとこういうセリフを言う。こいつを倒して、はい次!」みたいな流れと若干のセリフだけを全体通して書き起こして、それで組み込み始めてたの。そうしたら浜ちゃんはゲームとして組まれたもので判断できるし、そこでもし「イマイチ」ってなっても、流れは変えてないから少しセリフを調整すればいい。俺にも自由度が残されているし、「全部ムダになった」みたいな大事故も起こりづらいってことです。

入間川:あー。なんか、RPG的だよね。

横田:そう。ガッツリRPGを作ってた感じで「短編RPG作ろうぜ」って始まってるから。『彼女は』でも『四天王』のやり方が続いてるんだよね。

入間川:いい話だ。今は登場人物の人間関係だとか、言ったこととかやったことみたいなのが、シナリオとしてちゃんと起こされてからGOじゃないですか。それは… どのタイミングでそうなったんだっけ?

横田:日本一ソフトウェアさんと共同開発した『世界一長い5分間』から。

入間川:あー! 『5分間』ね!

※『世界一長い5分間』=2016年7月28日発売。魔王との戦闘開始直後、すべての記憶をなくして自分の必殺技すら思い出せなくなった勇者が、戦闘中に思い出にダイブして「今まで何があったのか」を追体験するアドベンチャーRPG。企画とシナリオは横田、サウンドは入間川。SYUPRO-DXの家庭用ゲームデビュー作。

横田:ここで家庭用ゲームのやり方に触れたから。いろんなオトナの了承を得なきゃいけないし、シナリオ側から情報を出さないと作れないグラフィックや素材もたくさんあったから、最初に全部書く必要があったんだよ。そのやり方を、SYUPRO-DX内部で作る時も続けてるっていう感じかな。

入間川:なるほど。

横田:でも『彼女は』はそうじゃなかった。前にインタビューで「最後に何言うか決まってなかった」って言ったんだけど、その状態で作り始めるって実はかなり危険なことだよね。ヒロインが最初から死んでいて、ラストシーンで彼女とお別れをすることだけはプロットの段階で決まっていたから、『彼女は最後にそう言った』っていうタイトルになった。最後に何を言うかは決まってない。でも、そもそもこの話をやりたいって言ったのは俺だし、「いけるはずだ」って思っていたから、勢いのまま作っていったんだよね。

入間川:すごい話だな。(笑)

横田:だから、シナリオのチェックはしてもらってないけど、「絶対やってやるからな!」って勝手にハードルが上がったの。最後に何を言うか。そのためのプレイ時間。

入間川:二人の関係性がわかる、いいエピソードだと思います。小規模開発ならではの良さみたいなのを今感じました。

横田:でもねえ、そっちの方がやり方として健全っていうか…
 
入間川:わかる。俺は「純度」が結構大事だと思ってて。

横田:純度?

入間川:作品をつくった人の熱量の純度が薄まらない作り方っていうのは、結構大事だと思うんです。

横田:ああー。わかるよ。誰と一緒にやるかっていうのも作品の純度に関わるよね。いろんなオトナが関わるとスポイルされていくものってどうしてもあって、できたものを見たら「これが作りたかったわけじゃないんだけどな…」ってなるのは、ちょっと残念だよね。

入間川:クオリティを上げるためには、それは踏まなきゃいけないから。一長一短っていうか、ジレンマではあるんだけど。グラフィックのクオリティとか、ぱっと見の「すごーい!」っていうのはさ、人が関わらないとできないよね。

横田:そこはもう。ジレンマだね。

入間川:それを入れれば入れるほど、純度が濁りやすくなる。濁るとは言わないけど、純度が減っていきやすくなるから。熱量を共有できるメンバーで作りたいね。

横田:そうだね。

浜中:つまり… 「次回作も期待していい」ってこと?

入間川:(笑)急にねじ込んできたな。

横田:今つくってるゲームは、『彼女は最後にそう言った』『終わらない夕暮れに消えた君』以来の… この3人だけでの開発だからね。

入間川:新作は… 純度の話で言ったら… 高め?(笑)


お読みいただきありがとうございました。『彼女は最後にそう言った』のサウンドトラック、ようやくお届けできて本当にうれしいです。
SYUPRO-DXは現在、新たなゲームを開発しています。面白いものをお届けできるようがんばりますので、よろしければサポートお願いいたします!

新作の開発費にさせていただきます!