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ミコト中佐に関する備忘録

 今日もミコトは地球外生命体目標一個大隊を一人で殲滅してみせた。
 彼女の補佐に着任してからというもの、チームとして何か僕が実益をもたらした事など一度も無いのではないか。そう思うほどに、あの華奢な身体は、まるで闘うための機械の一部であるように、よくしなり、そしてよく勝利した。

 地球の総人口は既に執筆時点で2憶4300万人にまで減少している。目標はまず初めに人間の女性を捕食したのは有名な話だ。
 勿論、男性へも攻撃は行われているが、当時、彼らの暗号名は“好色”だったほど、生物学的女性ばかりを狙い、骨も残さず食べていた。
 彼らがいわゆるオスしかいないからだ、とする説や、次世代となる人間の誕生を阻止するための作戦だったと考える者もいる。
 
 ともかくも、女性は保護対象として地球連邦は何度も議会を重ね、予算を割いてきたものだ。
 それにも関わらず、ミコトのような幼女にも近い女子を、いかに指揮官クラスであろうと、主戦力として用いるというのは、彼女のその力量を何よりも物語っているのではないだろうか。

対外地球防衛機構・日本特派庁所属S級隊士
ミコト中佐

 右手を「機械兵」のように、戦闘用改造手術を施していることで、無礼な下士官などは“ドール”とあだ名しているようだ。
 美しいあの無表情を、目標の体液や返り血を浴びようとも、崩さないところが、よりあだ名を広める要因となっている。

 そんな、寡黙なミコトとのチームワークを高めるために、僕はこうして日誌を書くことに決めた。

 まず気が付くのは、風呂や睡眠以外では常に彼女が、基礎兵装である“有明”を背負い続けていることだ。
 普通、第二種戦闘配置以下では、用意こそ怠らないが、何もわざわざ、機雷や通信機器、浄水器などが付いたあの重たい鉄の塊を好んで持っている戦闘員は居ないだろう。
 それもやはり戦闘訓練を、それも実戦をも幼い頃から繰り返してきた、という哀しき英才教育の賜物なのか。
 
 ホルダーにあるのは、彼女の愛銃・マウザー。
 一兵卒にはアナコンダが支給されるが、あのような古い拳銃を使っているのは、何か理由があるのだろうか。言うまでも無く、正式採用されていない軍用拳銃を持っているからといって、彼女がそれを理由に、戦闘で劣ったり失態を見せたことはない。

 そんな、ともすれば“戦闘狂”とも思いたくなる、戦場の少女だが、たったひとつ、小さなリボンの髪留めをしているのが、歪なほどに目立ち、そして年相応に似合ってもいるのだ。

 こうして見たままを書き綴っても、ミコトの不思議さに何らの解決は見いだせない。まだまだ書いておきたい事柄や彼女の武勲はあるけれど、教練の時間のため、今回はこの辺りで。

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