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歴史漫画のすゝめ:図像学的考察

 外伝『薔薇王の葬列 王妃と薔薇の騎士』第2巻を購入した。

 あくまでもネタバレ無しで、ひとつ取り上げたいモノがある。
 とあるシーンにさり気なく二度登場した「王旗」だ。

 王の権威を示す物には、王冠や王笏おうしゃく、玉座などがある。そして王旗の役割は、マンガからも分かるように、王がその場に居ることを周知させる意味を持っている。
 
 天皇が行幸ぎょうこうしている折の仮の御所を「行宮あんぐう」と呼ぶが、王旗のあるところがまさしく行宮・王の陣営としての上座的役割を担うのだ。
 この点はむしろ、天皇における「錦の御旗」が近い。
 赤地の錦に、日月を金銀で刺繍等した旗のことで、鎌倉時代以後、「朝敵」を征討する際に「官軍」の旗印に用いたものだ。
 そこから転じて、「自分の行為・主張などを権威づけるために掲げる名分」という意味もある。

著者は丹念に時代背景やシェイクスピア原案を探究していることで知られるが、今回登場した王旗はWikipedia「イギリスの旗の一覧」にもしっかりと掲載されている。

The Royal Standard of England (1406-1603)
※上記リンクより

 ヘンリー6世の在位期間は、1422年8月31日~1461年5月4日(外伝はこの時期)、そして1470年10月30日~1471年4月11日である。
 したがって、本書を手に取った方は、該当コマのように王の従者が、その存在を知らしめる役目を持っていたことを、何気なく知ることが可能なのである。
 
 加えて、幾らかの紋章学的知識を有しているならば、この旗を利用していた王は、イングランドのみならずフランスにも王位を持っていると推測可能なのである。
 外伝では薔薇戦争以前の「百年戦争」時代。
 必ずしもイングランド王が、フランスを統治していたとは言い難いものの、「フルール・ド・リス」(青地に黄の文様の方)というフランスの紋章があることから、王権がイングランドに限るものではないこと(フランス王でもあること)を主張している。
 なお、ヘンリー6世はパリ・ノートルダム大聖堂でフランス国王「アンリ2世」として戴冠しているという史実がある。

Henry VI enthroned
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Henry_VI_enthroned_-_British_Library_Royal_MS_15_E_vi_f405r_(detail).jpgより

 上記の絵画も、Wikipedia「ヘンリー6世」英語版に記載されており、まさしく先ほどまで述べてきたような情景が描かれている。
 王旗、玉座、王冠、王笏も、即位を描いている事から必然的に揃っている。
 本作にはこれまで、テーマや原案の感想を基にした考察を述べてきたが、歴史もの特有の「図像」として読み解く面白さもあるのである。
 そうすると次には、旗に権威を見出す、という不思議に気づくこともあるのではないだろうか。

オリジナル紋章

 僕自身、オリジナル紋章を作成したこともあるが、紋章以上に、国旗や社旗など、現代においてもなお、なにがしかの効力を保持しているはずだ。
 そういった自分なりのテーマへ持っていくことがかなうと、読んだ甲斐があったとより強く感じることができるだろうことは、これ以上、述べるまでも無い。

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