「オリエント急行」と我が列車たち
映画「オリエント急行殺人事件」を視聴した。僕はホームズに一番影響を受けているが、名探偵エルキュール・ポワロも勿論好き。
こだわりの強いベルギー紳士ポワロほどではないが、長らく僕は映像化作品だとドラマ版を演じた俳優デビッド・スーシェ、一辺倒だったので、近年シリーズ化されているこの映画版も結局、観てこなかった。
ポワロといえば、作中でも描かれているように小柄な人物。
ところが、予告編をみるところによると、主演ケネス・ブラナーは、なるほど髭は特徴的だが、背も高くスタイリッシュ。
きっと僕の欲するポワロやアガサ・クリスティーではないのだろうと高を括っていた。
結論からいうと、この偏見はあるまじきものである。
愚かにして高い文明、というモチーフで社会を切り抜きたければ、慣れ親しんだ味に拘泥する有り様を描けばいいと今では感じている。
まるで古典古代の晩餐のように、喉の奥をくすぐって吐いては、また豪華な料理を寝そべって平らげた貴族を思い出せば、より説得力も増すだろうか。
ともかく、この作品でのポワロの演技や、オリエント急行、特に一等客室の演出は申し分ない。Je suis désolé.
僕は鉄道マニアではないものの、蒸気機関車や寝台特急は殊の外好きである。日本でも時折、こういった車両が走っていることもある。
僕もイベント的にSLに乗車したことはあるが、寝台特急はまだ、博物館に展示されたものしか実物は知らない。
そんな僕にとって、オリエント急行は、かつて歴史上に実在した文化と階級を体現する憧れの車両。厳密には今もオリエント急行と名付けられた列車が運行されているようではあるが。
日本の車両との大きな違いは、やはり木材を感じさせるところだろうか。確かに劣化は早いのかもしれないが、是非ともそういう車両が一部でも増えれば、僕は喜んで乗ることだろう。
僕のささやかな鉄道趣味の表れとして、実は去年からプラレールを部屋に置いている。
現在持っている車両は、日本で走っていた蒸気機関車「C1250」と、『きかんしゃトーマス』に登場する路面蒸気機関車のトビー。
前者は模型として、後者は子どもの頃から好きなキャラであったし、特徴的ないで立ちなためにチョイス。
「グレート・イースタン鉄道C53形蒸気機関車」をモデルにしているようだが、残念ながら、今日ではこの種の車両は海外でも見られない。
ところで、かつて「趣味の王様」と呼ばれたものがある。
ボトルシップと鉄道模型だ。
これらを趣味としていたのは上・中流階級であったが、彼らは今の僕のように好きなものを集めていた訳ではない。
自分の所有する船・車両をミニチュアとしてコレクションしていたのだ。そのために、権威ある趣味として認識されていた。
僕が度々取り上げる、ドイツの貴族などの間で行われていたコレクションの手法「ヴンダー・カンマー(驚異の部屋)」も、世界中から集めた珍品を、自分なりの解釈や連想で並べるものだった。
自分にとっての、世界の再構築・分類化こそ、コレクション的趣味の始まりだったと言えるだろう。わが国の皇族方も、生物学を第一線でご研究なさっている。
やや話が流れたが、今回、「オリエント急行殺人事件」を観たことは、僕に、しっかりと吟味した上での(偏見ではなく意味のある、趣味嗜好としての)こだわりを持つべきことを諭し、かつ鉄道への憧れをより抱かせた。
原作が名作ゆえに、答えの知っているミステリーであっても味わい深い。以降のシリーズも少しずつ観ていく予定だ。
Bon journée.
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