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『大正野郎』を片手に新生活を

 しばしば僕のnoteに目を通してくださっている方であれば、一番影響を受けた小説はコナン・ドイルのホームズシリーズであり、好きな漫画(アニメ)は『新世紀エヴァンゲリオン』であることはご存知のことと思う。
 
 だが、影響を受けたイチオシ漫画については、かつてあまり語ったことがない。
 というのも、長らく僕は、漫画を読むことを“読書”にカウントしていなかったからだ。
 
 普段、日記を書くのだがその際、その日読了した本があれば記録しておくようにしている。けれども、実を言うと今もなお、漫画については読了本として触れていない。
 というのも、漫画は買った当日に読むのが通例だったので、買った記録さえ書いておけば、読了には触れずとも構わない、という判断なのだ。

 個人的な日記でもあまり触れないでいると、自然とnoteでも語る機会が小説や専門書と比べて少なくなる。
 上記のように、まとめて一気に書いていることはあるけれど、一冊にフォーカスすることはあまりないのが現状。
 
 しかし漫画を低く見ている訳ではないし、多くの人にとって新生活が始まるこの時期に、せっかくなので、改めてとある漫画をご紹介したいなと感じた次第。
 そのタイトルは前に、上記のnoteでも登場している。その名も『大正野郎』。山田芳裕、作。僕は小学館文庫版を所有しているが、講談社やコミックシーモアから第一話の試し読みが可能。

 ふるいをかける第一の点として、漫画には絵柄の好みというものがあると思われる。『へうげもの』などの代表作同様、特徴的な筆遣いが本作でも発揮されている。
 そしてその設定について。主人公の生き様がダイレクトに題名となっているのがわかる。

芥川龍之介をこよなく愛し、竹久夢二の絵を部屋に飾り、番茶よりもほうじ茶を好む、大正時代かぶれの青年・平徹(たいらてつ)。
彼と、笑顔が素敵な由貴ちゃんら下宿先の住人たちの、ごく普通で、どこか普通じゃない日常を描く、山田芳裕デビュー作!

(コミックシーモアより引用)

 レトロ趣味というものは、昨今でも非常に大きな人気や市場をもっている。だが、本作の主人公は単なる愛好・賞玩の域を越え、大正的な生き方の実践を示し続けているのだ。
 そう、個人的な範囲としてではなく、周囲に隠すことなく、時にはうんちくさえ語りだす始末。
 サブカルチャーとしてのオタク評論の場では、オタクを世代に分けて考えることが多々ある。その区切り方には様々な意見があるが、主に「オタク第一世代」は、アニメや美少女にこだわらず、ミリタリー、鉄道、エトセトラ、様々な趣味の研究者(マニア)としての側面が強かったと考えられている。
 主人公を何世代にあたるのかを問いたい訳ではなく、ある意味では、ごくごく初期のオタク像に僕には思えることを、ここでは伝えておきたい。

 舞台は昭和から平成にかけて。主人公は青年であるから、大正には生まれていない。それでも、彼は物や服装、食べ物、風景にとどまらず、生活態度の特徴をよく研究しており、「大正時代に生きている人らしさ」を演じてみせるのだ。
 
 外国かぶれは、現実世界にもいるものであるし、また、特定の時代のモノを集めるコレクターも少なくないが、そのように生きるというのはそれほど容易なことではない。
 この時期に『大正野郎』を薦めたい理由は、ここにある。
 環境や生活が変わる、あるいは節目として変えたいと考えている方にとって、この主人公のように一本、筋が通った生活態度というのは、たとえ、いや、コメディだからこそ、素直に堪能できるのではないかと僕は考える。
 「○○だったらどうするか」と問う指針がある、それを趣味として楽しめるなら、環境は違えども、その人は「○○野郎」なのである。

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