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温泉に逃げる。2


 「野宿野郎」というぶっ飛んだ名前のミニコミ誌があるのだが、ご存知だろうか?編集長のかとうちあき氏は、お金をかけないで旅行することを心情とし、竜飛岬から下関まで50日間かけて本州を野宿縦断したというトンデモナイ人である。

 彼女は、「家で寝ているより断然面白い」と15歳にして野宿に目覚めてしまった。なんと早熟な女性だろうか。

 そして「野宿入門」は、ミニコミ誌「野宿野郎」の編集長である彼女が、野宿の基本とノウハウ、場所選びまで書いた野宿のマニュアル本である。


 彼女の「野宿入門」を読んだとき、一端の「人間嫌い」を気取っていた私は、呆然とするとともにふつふつとルサンチマンが湧いてきた(おおげさ)。上には上がいたのだ。ソロキャンプじゃなくて野宿とは。いやかとう氏は人間嫌いじゃないと思うけど。

 いや、でもむちゃくちゃじゃないか!と思ってしまう。トイレはどうするんだ。いや、かとう氏によるとトイレで野宿すれば一石二鳥だというが、んなわけあるかと言いたくなる。だってくさいじゃん。立って寝るの?いやまじで。

 唐突に私の話をすると、私は、ちょっとでも環境が変わると眠れなくなってしまう。夜行列車とか夜行バスとか全然ダメ。普通のホテルでも眠れない時がある。雑魚寝もムリ、寝られない。ましてや野宿なんかもってのほか。挑戦してみたいけど、無理なんだろうなあ…とため息をつく。

 しかし、そんなことでため息をついてもいられない。

 温泉だ、温泉に浸かれば、そういうルサンチマンも浸かっている間は見て見ぬふりができる。いやホントに。

 前回書いた、私の推奨する「鄙びた温泉一人旅」は、人間嫌いの旅だけではない。世の喧騒を忘れて、とにかく、「何もない」時間を楽しむ。ただ本を読むだけでもいいし、ノートを前にして「人はなぜ生きるのか」みたいな哲学的な話題を紙に書き連ねていくのでもいい。いい年して大学生みたいな悩み事を思いっきり考えるのも、鄙びた温泉ならではではないかな、と思う。いや半分本気である。だってそんなこと、普段は「阿呆らしい、暇な大学生じゃあるまいし」と逃げてるじゃないか?と思う。

 実は、温泉は非現実への旅だったりするのだ。

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