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真鍋昌平「闇金ウシジマくん」

 今更ながら、読み終えた。

 とてつもなく面白く、そしてリアルである。ひしひしと「現実」の怖さが伝わってくる漫画だ。

 あらすじを簡単に。

 主人公・丑嶋馨が経営する闇金融「カウカウファイナンス」は、10日5割(トゴ、と称される)の暴利。そんな彼に金を借りに来る客は、パチンコ依存症の主婦、風俗嬢に貢いだ男など、様々な問題を抱えた人々。彼らとその関係者の人間模様を、冷徹な視点で描いた作品である。

「人並み以下のクセに人並みに暮らしてる、身の程知らずのクズどもに終止符を打つのが、俺たち闇金の仕事だ」

 丑嶋のこのセリフが、全体の空気を表しているだろう。彼の言葉は非情に鋭く、近寄っただけでカミソリのように切れてしまうくらいだ。

 パチンコ依存症で、夫とは離婚調停中、「なんでもします」と言う主婦に丑嶋は売春を示唆する。主婦は金の誘惑に負け売春をしてしまう。家に帰って子どもを抱き、泣きながら「ごめんね、もうパチンコやめるから」とつぶやくのだが、そこまでして手に入れた金を手にまた彼女は、次の日パチンコに行ってしまう…。これをギャンブル依存症だと言ってしまうのは簡単だが、丑嶋はこれを「客の中には、同情に値する人間なんか一人もいねえ」と言ってのける。

 23歳でこれである。達観しすぎだぜ丑嶋。

 夢や希望を胸に人は生きている。しかし、それってなんなのだろう?その背後には現実が待っているというのに。建前で生きている我々に「何綺麗事言ってんの」と突っ込んでくる丑嶋が怖い。

 また、半グレやヤクザも登場し、彼らに逆らった人間は凄惨な拷問を受ける。そして闇金業者のケツモチをしてるヤクザ、ギャンブルや物欲、性欲というどうしようもない欲望のために底なし沼に自ら落ちていく人々、また社会の流れの中で底なし沼に落とされる人々。その中で非情に立ち回る主人公。陳腐な言い方であるが、現代日本のリアルがここにあるのではないだろうか。

 「闇金ウシジマくん」の後に描いた「九条の大罪」でも、そのリアルさと非常さは存分に発揮されている。「九条の大罪」は、世間から悪徳弁護士と蔑まれる弁護士の男を描いた漫画だ。ウシジマくんについての感想を書いているので詳細は避けるとして、この真鍋昌平氏の非常さというかドライさは、「胸糞悪い」と思う人もいると思う。実際、「九条の大罪」の動画レビューで「胸糞悪いと思う人もいると思いますが…」と予防線を張っている動画を見たからである。

 しかし、私は特に胸糞悪いとは感じなかった。なぜだろうか、といろいろ考えてみると、自分が水木しげるが好きだからではないか、と思う。水木しげるの漫画も救いようがない展開の中で、主人公が異様にクールというか達観というか、ドライさを見せるときがある。例はいくらでもあげられるが、例えば短編「虹の国アガルタ」の以下の台詞。

「ゴミのような社会であくせく働くのも人生、チベット高原でゆうゆうと小便するのも人生、人間はしょせん、ちりから生まれちりにかえるのだ」

 私はこの台詞が大好きだが、こんな風に、「人生そんなもんだ」と後ろから声をかけてくれるねずみ男やサラリーマン死神のような存在が、ウシジマくんなのかもしれない、と思った。



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