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【人事に効く論文】インクルーシブ(包摂的)なリーダーがチームに心理的安全性をもたらす

Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). Making it safe: the effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior, 27(7), 941–966.

1. 3分で分かる論文の概要

心理的安全性で有名なエドモンドソン教授が関与している論文です。色々な書籍や記事で紹介されている内容ですが、あらためてオリジナルに触れてみました。リーダーの包摂性(leader inclusiveness)と心理的安全性の関係について、米国とカナダのNICU(新生児集中治療室)に勤務する医療従事者1440名(医師・看護師・呼吸療法士・その他の栄養士などの医療専門職)によるアンケート回答結果を分析し、以下の仮説が検証されました。

仮説①:分野横断的なチームにおいて、地位の高いメンバーは地位の低いメンバーよりも心理的安全性を感じる
支持された医師は看護師よりも有意に心理的安全性を感じており、看護師は呼吸療法士よりも有意に心理的安全性を感じていた。また、NICUでの在籍期間が長いメンバーほど、心理的安全性が高かった

仮説②:地位とチームメンバーシップの相互作用が、心理的安全性を左右する
支持された。心理的安全性に対する地位の主効果は有意だが、地位間での心理的安全性の差はチームによって異なった。あるチームでは、地位の差はそれほど重要ではなく、異なる専門職グループのメンバーも同様に心理的安全性を感じていた

仮説③:リーダーの包摂性は、メンバーの心理的安全性と正の相関がある
支持されたリーダーの包摂性が高く、リーダーが他者の考えや努力を歓迎するとメンバーに認識された場合、メンバーの心理的安全性はより高くなった

仮説④:リーダーの包摂性は、地位と心理的安全性の関係を調整する
支持されたリーダーの包摂性が低いと、地位の高いメンバーと低いメンバーの間の心理的安全性の格差が大きくなる。対照的に、リーダーの包摂性が高いと、両群間の心理的安全性の差が小さくなる

仮説⑤: 心理的安全性は、メンバーの品質改善業務への参画と正の相関がある
支持された包摂的なチームで働いていると感じているメンバーほど、品質改善活動により高い熱意をもって参画していた

仮説⑥:心理的安全性は、リーダーの包摂性とメンバーの品質改善業務への参画との関係を媒介する
支持された

これらの仮説のうち、最も重要な③の結果がグラフ化されていましたので、以下に転載しておきます。

2. 私的な解説/感想

組織内における地位の上下関係に関し、数々の先行研究による示唆が論文内でいくつか紹介されていました。主だったものをピックアップしますとこんな↓感じです。

  • 地位の上下意識が強い環境において、地位の低いメンバーは、地位の高い他者からの報復を恐れ、業務品質を向上させるようなコミュニケーションを取ろうとしない。そのため、組織としての学習や改善の機会を逃してしまう可能性がある

  • 地位の高いメンバーと比べ、地位の低いメンバーは自己効力感が低く、自らの仕事への貢献度を過小評価する傾向がある。そのため、次のような行為に及ぶ傾向がある
    ・本来なら有益な情報を隠す
    ・決定を地位の高いメンバーに委ねる
    ・組織市民行動を抑える
    ・発言量を減らす

  • 一般的に、地位の高い人は、自分の声が評価されていると暗黙のうちに思い込んでいる。地位の高い人は自分の意見を求められることに慣れているため、地位の低い人が経験するような、自己表現に伴う対人関係のリスクを感じることは少ない(=心理的安全性が高い傾向にある)

  • リーダーの包摂性が示されると、地位の低いメンバーはリーダーからサポートされていると感じ、自分たちをチームの重要なメンバーとして見てくれていると考えるようになる。異なる職種を超えた相互尊重の雰囲気が生まれ、地位の低いメンバーが持つ専門的な知識は、チームが共有する課題にとって価値があるとみなされるようになる。 これにより、すべてのメンバーの貢献価値が均等化され、平等主義的なマインドが醸成される。その実効性は、地位の低いメンバーほど大きくなる可能性が高い

3. 読後の余談

論文内では医療業界の特徴として以下の内容が紹介されていました。皆さんが従事する仕事と特徴が似ている項目はどのくらいありますでしょうか。その数が多いほど、心理的安全性の重要性が高いと言えるかもしれません。

  • 医療従事者は、必要な知識の増加、専門化、相互依存という3つの傾向下にある
    知識の増加:Medlineの書誌データベースには毎月3万件の新しい文献が追加され、連邦医薬品局は年間数千件の新しい機器や新薬の申請を審査している
    専門化:医療分野の細分化が進み、今では26の専門分野と93のサブ専門分野がある。また、医師以外の職種も患者ケアに加わるようになり、栄養学、呼吸療法、理学療法、瀉血学などの専門家が、看護師とともに非医師的ケアワーカーとして重要な役割を果たしている
    相互依存:知識の増加と専門化の元、質の高い医療を提供するには専門家同士の相互作用が必須となる

  • 医療プロセスの失敗は人命に関わるため、リスク回避志向につながりやすい。そのため、実験的な不確実性に取り組む意欲が阻害される可能性が高い。また、高ストレス環境下の状況において、改善努力は集団的で民主的なものではなく、中央集権的で階層的なものになりがち

  • 医師が専門的な医学的知識を持っている一方、看護師や 他の医療従事者は、患者との日常的な関わりにより深い知識を持っている。しかし、これらの情報は共有されないことが多い

  • 医療従事者間には確固たる上下関係が存在する。そのため、専門職の垣根を越えて、例えば医師・看護師・セラピストの間で、学習のための共同作業を行うことが難しい

  • 外科医は他の専門医よりも高い名声を得ており、専門医は主治医よりも上位にあり、医師が看護師よりも、看護師が理学療法士よりも高い権力を有している

  • 医療過誤の70~80%は医療チーム内の相互作用に関連している

2024年2月25日 初稿作成

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