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秋の夜長に "There in a Dream":ペトラ・ヘイデンとビル・フリゼル、そしてチャーリー・ヘイデン

しんと静まり返った、もの想う秋の夜のBGMにぴったりの曲は、ペトラ・ヘイデンのボーカルとビル・フリゼルのギター、"There In A Dream" 2020年に動画が投稿されていて、うかつなことについ先日まで気が付かないでいたのだけれど、しっとりとした演奏でとてもよい。

この曲は、私が一番好きなベーシストのチャーリー・ヘイデンの曲だ。ペトラ・ヘイデンは娘さんで、"Songs from My Father" というアルバムを2020年にリリースしていて、その中にも冒頭に収録されている。

このアルバムは、まさに秋の夜長にいい。2曲目の "Canto Del Pilon" もいい演奏だし、3曲目の "Throughout"、ラストを飾る "Silence"、といった、世界の平和を訴えるリベレーション・ミュージック・オーケストラの名曲もそろっていてファンにはたまらない一枚だ。キーボードで作曲家の鬼才、カーラ・ブレイとのリベレーション・ミュージック・オーケストラ、聞くべし。


チャーリー・ヘイデンは、オーネット・コールマンのカルテットで有名でフリー・ジャズを切り開いた1人だ。1959年の "The Shape of Jazz To Come"はあまりに有名だ。

しかし、そのフリーでアバンギャルドなアプローチとともに、安定した音程とリズム、明るめの太い音色でオーソドックスな演奏も支えることもできる自由なミュージシャンだ。キース・ジャレットのカルテットでいい演奏を残してもいる。私のお気に入りは、"Death And Flower" だ。

First Circleを出したばかりのころだから、1984年だっただろうか、パット・メセニーがFMラジオのインタビューでこの "Death And Flower" を大好きな一曲として紹介していた。パット・メセニーも、オーネットのファンらしく、1985年の Song X というアルバムで共演している。パットのアルバムの中では、私の一押しのアルバムだ。万人受けはしないかもしれないけれども。

パットはチャーリー・ヘイデンとは、その他に、その前の 1984年のRejoicing や、1980年の 80/81、さらに後のデュエット Beyond The Missouri Sky、などもある。こちらも秋の夜長にいい。


また、矢野顕子も共演しているので、日本のポップスファンのほんの一部の間にも知れ渡っているはずだ。

このアルバムのドラムスは、ウェザー・リポートでジャコ・パストリアスとリズムセクションを組んだピーター・アースキン、後述するビル・フリゼルとジョン・スコフィールドのツイン・ギターが強烈なマーク・ジョンソンのベース・ディザイアースのドラムスでもある。この人も好きでたまらないドラムスの1人だ。

秋の夜長にいいアルバムといえば、ギターの鬼才・エグベルト・ジスモンティとヤン・ガンバレクとの、Magico も最高だ。ここでも、名曲 "Silence" が素晴らしい演奏で聞くことができる。


そういえば、ピアノがジェリ・アレン、ドラムスがポール・モチアンの、Etudeもいい。30年以上の愛聴盤だ。冒頭のオーネットの名曲、"Lonely Woman"は、落ち着いたトーンで最高にいい演奏だ。このアルバムにも"Silence"が収録されている。

このトリオのもう一枚のアルバム、"Segments"も素晴らしく、何度聴いても飽きない。こちらも秋の夜長にぴったりだ。


ジェリ・アレンは、ハービー・ハンコックを彷彿とさせる、少し暗いトーンのゴツゴツ系のピアノで私は大好きなのだけど、話すと長くなるので、こちらは後に譲ろう。ドラムスのテリ・リン・キャリントンやベースのエスペランザ・スポールディングも大好きで、たぶん、この人達とともに、これからも何度か書くことになるに違いない。

さて。

ビル・フリゼルは、最高に好きなギタリストだ。強烈なディストーションとループ・ディレイを駆使したアヴァンギャルドな演奏で曲をぶっ壊して再構成することもできれば、曲全体を包み込むような雰囲気を作ることもできるし、曲の中に溶け込んで完全に自分の存在を消してしまうこともできる。

たとえば、曲を壊して再構築といえば、マーク・ジョンソン(b) がリーダーで、ピーター・アースキン(ds) と、ジョン・スコフィールド(g)とのツインギターのバンド、泣く子も黙るベース・ディザイアーズの "Resolution" を聴いてみるといい。ドイツでのライブがYouTube動画にあがっている。ジョン・コルトレーンの「至上の愛」の一曲、二本のギターの電撃のようなテーマの提示のあと、ジョン・スコの舗装道路を外れてラフな草原を突っ走っていくようなスリリングでご機嫌なソロのあと、5分50秒あたりから、ビル・フリゼルがソロをとったとたん、世界がガラッと変わる。その対照が何度聴いても強烈だ。しばらくすると、あまりの破壊力にマーク・ジョンソンも、ピーター・アースキンもついていけなくなり止まってしまう。「すごい、すごすぎる」とため息をつくような表情がたまらない。


私は、1989年のアルバム "Before We Were Born" で初めてビル・フリゼルを知った。アート・リンゼイ、ピーター・シェラーの、アンビシャス・ラバーズが参加したこのアルバムも破壊力満点だ。

他にも、ジョン・ゾーンのアルバムでも素晴らしい演奏を聴かせるし、リヴィング・カラーのヴァーノン・リード(g)との共演や、ロナルド・シャノン・ジャクソン(ds)、メルヴィン・ギブス(b)との "Power Tools"なんかは、もう、暴力的で最高だ。

しかし、この人は破壊力も尋常ではないが、さらにすごいところは変幻無碍の自由自在なところだ。冒頭に紹介した "There In A Dream"でわかるとおり、歌の伴奏もいい。だから、マリアンヌ・フェイスフルのバックを務めたこともあれば、パット・メセニー・グループで有名な偉大な音楽家のライル・メイズのソロ・アルバムのギタリストはこの人だ。つい最近、ライル・メイズの遺作がリリースされたが、これにも参加している。


しかし、私は暴力的なビル・フリゼルが好きだった。最近まで、ビル・フリゼルはあまり聴いていなかった。個人的には、去年再発見した、という感じだろうか。去年はニューヨークの街角で、トリオで、マスクしてソーシャルディスタンスの距離を保って演奏している動画が出たりしていてどれもよかったが、なんといっても、2017年のこの動画がよかった。

ギターのハーモニクスの繰り返しのメロディから静かに始まるこの曲、ドラムが入り、ベースが入り、メインのテーマが提示され、ソロの演奏が盛り上がっていく。サンプリングディレイの逆回しの音、タイトなリズムセクション、海の波間からふっと現れるように、Lookout For Hopeのメロディが浮き上がるところ(6分50秒あたりから)がゾクゾクしてくる。ビル・フリゼルの怪しい笑顔がたまらない。

しかし、不思議なことに、チャーリー・ヘイデンとの共演は聴いた覚えはないし、ビル・フリゼルがオーネットの曲を演奏していた記憶がない。しばらくずっと追いかけていなかったのと、毎年1枚アルバムが出ているくらいの多作な人なので、全部つぶさに調べたわけでないので確信はないけれど。

最後に、ペトラ・ヘイデンが、オーストラリアの新進ジャズベーシストの、ニック・ヘイウッドのトリオと共演したアルバム、つい最近にリリースされた、"Back to the Garden"を紹介しておこう。

Nick Haywood、まだあまり有名ではないのだろうか、ネットで調べてもどんな人かすぐに出てこなかった。ピアノもいい演奏で、なかなか美しい。


今日は、ちょっと懐かし系で、固有名詞をバシバシ出し過ぎて突っ走ってしまったかもしれない。それぞれ丁寧に解説したり、この人とこの人はいついつ共演していた、とか関係図まで書き始めるとさらに広がってしまうし、いくら書いても足りないので、まだまだ、書き足りないところだが、いつも、思っていることの30%も言うことができない私ではあるが、まぁ、このくらいにしておこう。






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