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オーネット・コールマン Ornette Coleman "In All Languages"

ジャズやフュージョン、あるいはクロスオーバーといったジャンルの音楽が好きな人は、フリー・ジャズの始祖だというオーネット・コールマンの名前を聞いたことがある人は多いことだろう。しかし、"Lonely Woman"という有名な曲もあるが、実際にオーネットの曲や演奏を聞いた人は少ないかもしれない。

フリー・ジャズ、と聞いただけで敬遠している人も多いのではないだろうか。ストレートアヘッドなジャズにしても、決まった譜面はテーマとコード進行しかなく即興演奏が主体、そんな形態から拒否感のある人もいるだろうし、そもそも歌がないインストも慣れてない人も多いかもしれない。

「伴奏ばっかりの音楽のどこが面白いの?」と私に真顔で訊く人もいたくらいだ。最近だと、間奏のギターソロもスキップして音楽を聴く人もいるとされるくらいだ。

そして、風呂でゆっくり湯につかりながら、完全防水のスマートフォンで好きな歌のサビを繰り返し流して一緒にハモるのこそが楽しみ、そういう人も少なからず多いに違いない。

しかし、風呂で調子っぱずれの鼻歌を歌ってしまう人こそ、それこそオーネットを聴くべきなのではないか、と思うのだ。

思わず「あー」っと叫んでしまう、「よよよ」と泣いてしまう、そこが原点で、上手い下手など関係なく、集まった人皆が自由に表現し、おもいおもいに合奏する、そこから音楽が生まれるのだろう、というオーネットの自由な音楽に触れてみてほしい。

怖がらずに一曲聴いてみれば、それほどアヴァンギャルドでもアナーキーなものでも調子っぱずれなものではないことに気付くと思う。オーネットの作るテーマのメロディが親しみやすく明るいし、アドリブのパートも解放感あふれる感じで、しかめ面して聴く必要なく、軽く流すように聴くことができるのではないだろうか。

1957年のオリジナル・カルテットと、1987年のプライムタイムが1枚ずつのLPにそれぞれ録音した "In All Language"というアルバムが私の愛聴盤だが、入手しにくいようだ。

オリジナルカルテットは、 オーネット (sx)、ドン・チェリー (Tr)、 チャーリー・ヘイデン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) で、全曲リラックスして同窓会のような楽し気な演奏だが、新しい演奏を聴かせるストイックなエネルギーと熱を感じ迫力を感じる。

プライムタイムは、オーネット(sx)。デナード・コールマン(ds)、カルヴァン・ウェストン(ds)、ジャマラディーン・タクマ(b)、アル・マクダウェル(b)、チャーリー・エラービ (g)、バーン・ニックス(g)、という、ドラムス 2人、ベース2人、ギター2人という、ダブル・カルテット構成だ。 全曲ではないが、オリジナル・カルテットと同じ曲を演奏するので比較も面白い。

In All Languages 表
In All Languages 中
オリジナルカルテットもプライムタイムもカッコいい
In All Languages 裏
Dancing In Your Head のジャケットの上下ひっくり返しても人の顔のオブジェ(盾?)がいい。

騒々しいプライムタイムも開放的で外に広がっていく自由な感じがとても楽しい。しかしオリジナルカルテットは、ぐっと求心的でタイトなストイックな感じ、それでいて自由な演奏、こちらのほうが私の好みだ。

オリジナルカルテットでは、"Lonely Woman" が収録された、1959年の "The Shape of Jazz to Come" 「ジャズ・来るべきもの」が有名だし、おススメだ。

Lonely Womanは私も大好きな曲だし、多くの人がカバーしている。さきほど、YouTube をざっと検索してみたら、ノルウエーのジャズ・シンガーの Radka Toneff のライブがなかなかよかった。悲しみをたたえたような深みのある声がよくマッチしている。

ピアニストのジェリ・アレンの演奏が好きだ。これは全世界の人に聴いてほしい。


オーネットのアコースティックな演奏については、今年またベスト盤が出ていたので、貼っておこう。

私がもう一つ推すのは、1965年、トリオでストックホルムでのライブを収録したアルバム、"AT The Golden Circle" だ。シンプルでオーネット節がたっぷり楽しめる。


エレクトリックのダブル・カルテット、プライムタイムは Spotify ではアルバムは一枚のみ、"Virgin Beauty"だけのようだ。このアルバムは軽く聴き流すのもいいし、じっくり聴くのもいい。おススメだ。

1977年の "Dancing In Your Head" もいい。オーネットのエレクトリックバンドの最初のアルバムで、プライムタイムの前身だ。単純なテーマのフレーズが繰り返され、ぼーっと聴ける。

1986年のライブ・アンダー・ザ・スカイで来日して演奏している。今思えば本当に残念だが、逃してしまった。

2020年にそのライブのあたりの音源が2枚組のアルバムでリリースされている。ファンにはたまらないアルバムだ。ただし、ライブ・アンダー・ザ・スカイでの演奏にしては曲数が多すぎるし、上のYouTubeの演奏と、 10曲目の "Dancing in Your Head"の演奏は異なる。

しかも、このアルバム、曲名が全然合ってない。合っているのは6曲目の "Kathelin Gray" 、10曲目の "Dancing in Your Head" だけだと思う。録音はモノラルで音質はイマイチ、まぁブートレッグということなのだろうけど、演奏は十二分に楽しめる。

私が知らないだけかもしれないが、オーネットは自身のバンドでの演奏が活動のメインで、有名ミュージシャンとの共演はパット・メセニーとの共作アルバム "Song X" を除いてほとんどないと思う。

86年のライブ "Japan 86" では、"Song X"で収録されている曲も演奏されている。 6曲目 "Kathelin Grey" 、15曲目の " Song X" だ。あらためて、パット・メセニーとの "Song X" を聴いてみると、やはり、パットがタイトにきっちりとまとめているし、オーネットの円熟の余裕の演奏と、パットのギターとがばっちりと絡んで、稀有なアルバムになっていると再認識した。オーネットがプロデュースでパットがゲストならだいぶん違う趣のアルバムになっていたのかもしれない。

やはり、型にはまらずに自由を求めることができる人、音楽の権威から解放し鼻歌を歌う私たちの手に音楽を取り戻せるはずのオーネットの音楽は、かえって民衆から広く認められないのかもしれない。

芸術としての音楽、ポピュラー音楽、ロック、ジャズ、それぞれの自由を求めたはずなのに自ら生みだされる権威によって自ら縛られていく。そして、人は自由になるために権威を求めるのかもしれない。


他者から保証される自由など幻にすぎない。



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本文最後のパンチラインは「太陽の汗」からもらった。


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