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第11問 重要財産の譲渡と特別決議

 X社は、製材加工事業を営む株式会社である。
 令和4年11月、X社の代表取締役Aは、Xの株主総会の特別決議も取締役会の決議も経ることなく、この製材工場を構成する土地・建物・機械・器具類一式をY株式会社に譲渡して引き渡し、代金の支払いを受けた。Y社はそれらを利用してX社の営んでいた製材事業を引き続き営んでいる。なお、Y社はこの譲渡についてX社において特別決議を要することにつき知らず、知らないことについて過失はなかった。
 その後、X社は、Y社に対して、上記物件の返還請求をした。

[設問]
 上記X社の請求は認められるか。


解答例
第1 X社の請求の法的根拠は、所有権に基づく返還請求権である。この請求をするためには、X社が本件各物件の所有権を有していることが必要である。本問では、X社代表取締役AがY社に対して、本件各物件を譲渡していることから、X社はこれらの所有権を喪失しているように思える。
第2 ここで、X社は、本件の譲渡は、「事業の全部の譲渡」(会社法467条1項1号)であるにもかかわらず、株主総会決議による承認がされていないため無効であると主張する。
1 株主総会の特別決議を要する事業の譲渡とは、会社法21条以下にいう事業の譲渡と同一の意義であるから、一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に引き継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法21条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。
 Aが譲渡した製材工場を構成する土地・建物・機械・器具類一式はX社の営む製材事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部であるといえる。そして、この譲渡によってX社が営んでいた製材事業の全てをY社に引き継がせている。この結果、X社は法律上当然に会社法21条に定める競業避止義務を負う状態になっている。したがって、本件譲渡はX社の「事業の全部の譲渡」(会社法467条1項1号)に該当する。
 そうすると、株主総会決議による承認を経ていない本件譲渡は手続に違法があることになる。
2 では、この違法が契約の効力に影響を及ぼすか。特別決議を欠く事業譲渡の効力が問題となる。
特別決議を欠く事業譲渡は原則として無効となる。しかし、財産の有機的一体性の判断は容易ではなく、取引の安全を損なうおそれがあることから、取引の相手方が特別決議を要する場合であることを知らず、かつ知らないことに重過失がない場合は、譲渡会社は無効を主張することはできないと解すべきである。
 Y社は本件の譲渡について、X社で株主総会特別決議が必要であることについて知らず、かつ知らないことについて過失がなかった。したがって、X社はY社に対して、本件物件の譲渡の無効を主張することはできない。
第3 よって、A・Y社間の本件における譲渡契約により、X社は上記各物件の所有権を喪失する。  
 以上より、Xの請求は認められない。

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