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西川遥輝選手MLB移籍断念で見えて来たポスティング制度と海外FAの未来《プロ野球リポート》

 北海道日本ハムファイターズの西川遥輝選手が、ポスティング制度を利用しMLB移籍を目指したが、今回は話がまとまらなかったとのニュース届いた。

 個人的にも、西川選手のような日本人選手がメジャーリーグ(以下、MLB)で活躍する事を願っていただけに、とても残念な結果となってしまった。

 しかし長年、日本プロ野球(以下、NPB)とMLBを双方向な観点で見てきたのだが、今回のポスティング移籍失敗を予想はしていた。

 それは「根本的に実力不足」とか「過去の日本人野手の成績を加味している」という事だけではないことがわかって来たのだ。

 実際にポスティング移籍の話がまとまらなかった理由を、個人的な見地も含めて読み解いてみたいと思う。

MLBの変化

 2000年を跨ぐ頃のMLBはまさにパワフルなプレーが席巻していた。
 マグワイア、ソーサ、ボンズなどのホームラン打者が60本70本という数字を叩きしていた。
 投手でも、ペドロ・マルティネスやマダックス、日本人でも野茂英雄などのスーパースターが驚異的な投球内容を披露し、実に華やかであった。

 元々、パワフルなスポーツを求めている北米の人々は、ホームランバッターに魅了された。

 そんな中、異端中の異端であり、MLBをひっくり返した革命児・鈴木一朗(イチロー)が海を渡ってやって来たのだ。

 2001年にシアトルマリナーズに入団。
 結果は言わずもがな。前評判を大いに覆し、イチローは様々な記録を塗り替え、近年MLBでは注目されることのなかった「ホームランはないが走攻守にハイレベルな野手」が評価され始めるきっかけを作る。

 内野安打を量産したり、隙を見ては盗塁する。守備は華麗でセンス抜群。肩の強さと送球の精度はMLBでも最高レベル。

 そんなイチローを見て憧れたプレーヤーたちが活躍する時代が訪れたのである。マーリンズ時代にイチローと同僚となったディー・ゴードンなどがその典型的な例である。

 しかし、15年ほど続いた『イチロースタイル』が評価される時代に、突然終止符が打たれた。

 それが『フライボール革命』だ。

フライボール革命

 フライボール革命は、最近こそ日本でもよく聞くようになった言葉だが、最初聞いた時は嫌悪感にも似た違和感を感じた。

 従来、日本で小さい頃から野球をやっていると、必ず『打ち上げるな、叩きつけるように』『アッパースイングをするな』と言われてきたので、『角度をつける為に打ち上げろ』『アッパースイングを徹底していけ』という話を聞いて「何という理論だ…」と絶句した。

 長い歴史を数える野球は、今でも技術面は常に変化し続けている。
 「フライボール革命」自体に何か異論があるわけではないので、すぐになるほど、と納得はしたのだが、この変革は日本人野手にとって、評価を得られない時代の訪れを告げる事となるのだ。

 稀代の長距離砲・松井秀喜は除外とさせて頂くのだが、2001年のイチロー渡米以降、新庄剛志・松井稼頭央・田口壮・福留孝介・岩村明憲・井口資仁・川崎宗則・青木宣親のように、俊足型打者・中距離打者が次々と海を渡り、それなりの成績を残してきた。
 失敗例として挙げられる事の多い野手には、中村紀洋・西岡剛・田中賢介・中島裕之などもいるのだが、数としては非常に少ない。(移籍1年目を終えたばかりの筒香・秋山は今回加味しない事にしているのでご了承ください)

 つまりは、日本でトップクラスの実績を挙げた選手たちは、海を渡っても戦える可能性を大いに示してくれているのだ。
 それは、「俊足型・中距離型・長距離型」のタイプの違いだけで判断されていなかった証拠でもあった。

 しかし、2017年に完全に風向きが変わってしまった。

2017年 ヒューストンアストロズ ワールドチャンピオン

 2017年、ヒューストンアストロズが「フライボール革命」を体現し、圧倒的破壊力でワールドチャンピオンとなる。

 これが「フライボール革命は正解だ」という解釈を大いに広める結果となる。

 同年、マーリンズのスタントンが59本塁打、ヤンキースの新人ジャッジが52本塁打、ドジャースの新人ベリンジャーが39本塁打を放つ。

 再びホームランバッターがMLBのトレンドとなり、MLBで通用する長距離ヒッターがなかなか現れていなかった日本人野手が評価を落とす結果となった。

挑戦者から助っ人へ

 フライボール革命の他にも理由はある。

 野茂がMLBに挑戦した頃は、『海を渡って来るチャレンジャー』だったものが、イチロー活躍以降は『MLBの次に凄いNPBから来る期待のトッププレーヤー』へと変貌を遂げてしまった事だ。

 近年、NPBでトップクラスの成績を残した選手はの年棒は、2億円をゆうに超えて来ている。基本的にその金額がベースとして契約が進む。複数年も加味すると、年棒だけで4~10億円を用意する必要がある。

 海外移籍にはポスティング制度を利用する選手も増えた。海外FAでの移籍だと球団へ実入りは一銭もないが、ポスティング制度なら入札額で感謝を実費で返せるといった意味もあるので、この制度を利用する選手が急増したのだ。

 そう、ここがポイントでもあるのだ。

 参戦する球団は、『入札額+年棒(複数年も加味)』を用意する必要がある。
 複数年の年棒を加味して入札額を低く抑えると、交渉の席につかない可能性があるし、年棒を抑えると契約がまとまらない。
 この事から、現在のポスティング制度では、コスト面を考慮し、手を挙げない球団も増えてきたのである。

 そう。もう気づいた人もいるだろう。

 MLB球団から見ると、日本のプロ野球は既に『うまみのある市場』ではなくなっているのだ。

西川遥輝選手はどこでプレーしても評価を得られるレベルの選手

 恐らくではあるが、今回の西川選手の移籍は、フライボール革命によるMLBのプレースタイルの変化と、ポスティング制度利用によるコスト面が合致しなかったのだと考えている。

 足が速いのは間違いない。ミート技術も卓越している。MLBでも.270以上は打つだろうし、100試合以上に出られれば30盗塁くらいできるかもしれない。さらに守備範囲の広さも評価に値する。三拍子そろった選手だ。

 本来ならば、様々なMLB球団から評価されたのではないだろうか。

 事後に書いても『もしも話』にはなるのだが、もう少し年棒が安いければ実現したかもしれないし、海外FAであれば多数交渉が行えたかもしれない。

海外FAとポスティング制度の未来は...

 近年の流れで、私が切に願うのが『海外FAの年数短縮』である。

 西川選手のようにMLB志望の選手は、1年でも早く海を渡った方が良いのだ。日本でトップクラスで居続けると年棒が上がり続けてしまう。年齢も同時に上がっていく。

 理想は『27歳までにMLB球団に移籍できる環境』だ。

 高卒でいうと9年。大卒で5年。大卒社会人だと3年。

 大卒社会人からの入団だと3年しかなく、現実的な数字ではないが、高卒や大卒の選手でいえば不可能な数字ではないはずだ。

 MLB球団も32~33歳で来る選手よりも、27~28歳で移籍する選手の方が積極的に獲得に動くのは目に見えている。

 もちろん、元いた球団へのメリットも考えなければいけない。
 実現性はないのかもしれないが、海外FAの場合は是非ともFA移籍金を元球団に支払う形を推したい。

 金額は球団との交渉だとまとまらないのが目に見えているので、移籍先の年棒を単年計算してその60%ほどでどうだろうか。
 年棒5億円であれば3億円を支払う。MLB球団にとっては支払う額が小さいわけではないのだが、ポスティング制度の入札額よりも安い金額になる事は間違いない。

 例として海外FA制度のことを少し書いたのだが、これには理由があったりもする。

 ポスティング制度の変遷によるものだ。
 近い将来、ポスティング制度はMLB球団の都合だけで動いていく可能性が大いに考えられるのだ。
 それにより、NPB球団はポスティング制度のうまみを失い、この制度自体を推奨しない動きが出て来る可能性も考えられる。
 そうすると、海外FAでの無償で放出が頻発、もしくは国内FAでの移籍で他球団へ戦力が移ってしまう。これは個々のNPB球団にとって避けたい末路と考えられる。

 これを避ける策をNPB側は打っていけるのか。
 避けられない場合に、再び国内FA合戦が再開され、資金豊富な球団が勝ちまくる未来が見えて来るのだ。

今後の目玉移籍選手は?

 今後、MLB志望の野手がどれくらい控えているのか。

 おそらく名前が挙がってくるのが鈴木誠也選手だろう。走攻守のレベルは日本トップクラス。打撃は通用する可能性を秘めているし、強肩を活かした守備と体の強さも評価が高まるポイントだ。

 他には、まだ先の話にはなるが、岡本和真・村上宗隆あたりもそのMLBへの門戸を叩くかもしれない。

 いずれもパワーヒッターだが、今MLBへの切符は国内で年間30本塁打は打てないと難しいのが現実。
 本当は、吉田正尚・源田壮亮・周東佑京のような選手に挑戦権が渡るMLBでいて欲しいというのが本音だ。

 しかし、西川遥輝選手は日本ハムで2021年シーズンを迎え、再びダイヤモンドを走り回る姿が見られる事をポジティブに捉えていく事としよう。

 2021年のプロ野球。延期されたオリンピックもある。

 様々な苦難に対しても、スポーツの活力で少しでも乗り越えていきたいと思う。

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