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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#8】

#8 檜風呂

 奥に行ったっきりだったヒゲの男は、布切れを何枚か持っ て戻って来た。

「ほれ。湯を沸かしたから、温かいうちに体洗って来い。」
「えっ。えええ?」
「ここにはシャワーはないから、湯で洗って来いって言ってんだよ。」

 そう言うと、布切れを渡して来た。バスルームはあるが、バスタブに湯を溜めることがほとんどない。それにシャワーがないバスルームに入った事がなかった。どうすれば...。

「お前、まさか...。そうか。わかった。ついて来い。」
「は、はぁ...。」

 何てことはなかった。シャワーがない代わりに温かい湯が溜めてあって、そこからお湯をすくって掛け流せという事らしい。

「これって...”風呂”ってやつじゃないですか...!?」
「何だ。どうした?」
「僕の故郷にはないんだけど、異国にはあるらしいんですよ。木製のバスタブ!すごい!これが”風呂”かぁ~♪」

 珍しいやつだ、という表情を浮かべながらヒゲの男は、バスルームから出て行った。

 たしか、禁断の星”地球”にあると聞いた事がある”木製のお風呂”!ここで入れるなんて思わなかった。

 固形の石鹸で泡を立て全身をすっきりと洗い流し、清潔な体であたたかい湯船に浸かる。噂以上に風情があるなぁ、なんて思いながら、異国情緒を堪能する事ができたのである。

―――――――――

「お風呂ありがとうございました。すっきりしたし感動です♪」
「大げさだな。」
「そうですか?珍しいと思いますよ。」
「そうか。気に入ったならよかった。」

 少しゆっくりしていろ、と言われたので、オレンジジュースを飲みながら居間でまったりとしていた。

 しかし、余程疲れていたのだろう。うとうとして横になった後の記憶は無く、僕はいつの間にか寝てしまっていたらしい。次気が付いた時には、岩の隙間から光が差し込んでいた。

「起きたか。もう昼だぞ。」
「...あっ!ああああ、ご、ごめんなさい。寝てしまって。」
「構わない。ここには誰も来ない。ここに私が住んでいる事を知る者がいないからな。心配するな。」

 ヒゲの男は、それでも何かを考えているような表情に見えた。

「ありがとうございます。お陰で疲れが取れました。」
「そうか。それは良かった...。」

 これからどうしよう。助けてもらったはいいが、宇宙船まで戻ってもレイニーが居なければこの星を発つ事が出来ない。やっぱりレイニーを探す事を優先しないと。それにこれ以上世話にはなれない。

「すいません。直ぐに出ます。」
「ゆっくりしていてもいいんだぞ。...いや、止めては悪いか。」
「ごめんなさい。」

 その後は無言で身支度をした。身支度といっても、持ち物はそれほどない。

 支度が終わり、いよいよ別れの時が着た。入って来た玄関ともいえる岩の隙間へと向かいながら、ヒゲの男に尋ねてみた。

「あなたの名前を教えてください。」
「名前か。名前なんて何年も人に言ってなかったんだが、、、レイトだ。」
「レイトさんですか。ここの方じゃないんですよね…?もし、失礼でなければ、どこの方か教えて欲しいんですが…。」

 思い切って質問を続けてみた。これを最後のもう出会う事はないかもしれない。命の恩人と言っても間違いではないレイトさんの事を少しでも知っておきたかった。

「もう、行け。関係ないだろう。」

 少し怒ったような口調で追い出される形で背中を押された。

「最後までごめんなさい。」
「何言ってる。お前のお陰で少しの希望が持てたよ。」

 別れ際、レイトは意外な言葉を口にして、続けた。

「この星で離れ離れになった仲間と出会えるかもしれない。君の話を聞いてそう思えた。僕は"地球"から来たんだ。」

 行ってはいけないと口すっぱく言われている禁断の星"地球"の人間だった。

「地球から来られていたんですが。じゃあ、僕たちは異星人同士なんですね。」
「そうだ。助けた理由がわかっただろう。わかったならさっさと行け。探し人がいるんだろう。」
「はい!ありがとうございました!あ、僕の名はマーク。またどこかで!」

 ヒゲの男・レイトは出会って一番の笑顔で見送ってくれた。

 永遠の別れになるかもしれないけど、何だかそんな感じがしない。また、出会えそうな気がしていた。

 さぁ、レイニーはどこに行ったのか!捜索開始だ!

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】







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