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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#20】

#20 開かない扉、差し込めない鍵

 紫色の女は、不適な笑みを浮かべながらこちらをずっと見ていた。

「ここから出して欲しいんだ。」

 マークは懇願した。もう何だっていいから、ここから出たい。地上に出たい。その一心だった。

「いいわよ。その代わりに…」
「その代わり…?」
「この扉を開いてちょうだい。」

 紫色の女は、僕たちが開けられなかった扉を指差した。

「それだけですか…?」
「そうよ。その鍵で、ここを開けて欲しいのよ。」

 そう言って、次はマークの持っている鍵を指差した。
 この鍵で、扉が開かなかったのは、ついたった今の事だった。

「いや、開かないんだ。この鍵じゃ合わないんじゃないかな。」
「その鍵よ。間違いない。」

 紫色の女は断言した。
 この扉の鍵はこれだと言い張っているが、実際に差し込み口に全く合わないのだ。

「ほら。」

 もう一度、差し込もうとしたが、カチカチと音を立てるだけで、差し込める雰囲気はない。

「ねぇ、この扉取替えた方がいいんじゃない?」

 レイニーが横槍を入れて来た。それもそうだ。鍵がないなら、壊す他ない。

「それはいけないよ。いや、壊せないと言った方がいいか。」

 紫色の女は、手に持った棒状の物で扉を強く叩いた。
 ドンという音が響いただけで、ビクともしない。

「この扉はね、私が作ったんじゃないんだよ。元々、ここに在った。何年も何十年も、何百年も前からね。」

 何百年も前から存在する扉。
 紫色の女は、そう言った。

「じゃあ、鍵はないんじゃないですか…?」
「そうよ。もう扉を何とかする方が早いわ。」

 レイニーはもううんざりといった雰囲気だ。帰りたそうにしている。

「その扉は本当に壊れないのよ。帰りたかったら、その鍵で扉を開けてもらう。開いたら、また来るよ。」

 一方的に言い残して、廊下の闇に消えて行った。

「おーい!…いない。何て人だ…。」
「勝手ね。好きじゃないわ。でも、あの人しか知らないんでしょ、ここから出る方法。」
「そうみたいだね。でもなぁ…鍵が鍵穴に合わないんじゃあどうしようにも…」

 マークとレイニーは頭を抱えた。
 鍵を差し込む方向を様々に変えてみたり、扉の隙間に鍵を差し込んだり、やけになって鍵を投げつけてみたりもした。

「だーめだー。開かない。差し込みも出来ないんじゃ、どうしようもないよ。」
「やんなっちゃうよね。何で私たちがこんな目に…。」

 マークは考えを巡らせていた。

 鍵があった場所は、森の小屋だった。
 そこで鍵を見つけ、洞窟への入口からここへ辿り着いた。
 森の小屋からここへは誘導されたのだろう。

 洞窟の中の部屋を通り、長い廊下の途中にある牢屋で謎の女性と出会い、レイニーと再会出来た。

 そして、最終的には目の前にある扉を開錠するよう言って閉じ込められてしまった。

「ねぇ、レイニー。君は鍵を開けるよう言われたりしたかい?」
「言われてないわ。やる事がある、って言われただけで、ずっと牢屋の中にいた。」
「そっか。レイニーがやるべき事って何だろう。」
「わからないよね。鍵穴に合わない鍵で扉開けろって、無理押し付けられてるし。自分でやったらいいのに。」

 確かにそうだ。さっきいた紫色の女は何故ぼくたちに頼んだのか。

 鍵を開けられない事がわかっているのか。
 いや、それは無いはずだ。僕たちに時間を掛けて鍵を開けるように仕向ける意味がない。

 自分で鍵を使えばいいじゃないか。
 開かないことを知っているという事は、紫色の女も鍵を試したはずだ。
 でも開かない。開けられなった。きっとそうだ。
 だから、誰かの手で開けさせないといけなくなった。

「さっきの女の人、自分で開けられなかったんだよ。きっと。それで僕たちに託した。」
「でも、自分で開けられないのに、人に開けられると思ってるのかしらね。」

 そうだよな、と納得したが、何か引っかかる。

 何百年も開いていないという扉。
 中に何があるかはわからないが、今までにもこの鍵にトライした人はいたはずだ。
 なのに誰も開けられなかったのか。

「おーい!さっきの人ー!聞きたいことがあるんだ!」
「マーク、どうしたの?」
「聞いてみる。というか、聞き出してやる。」

 そそくさとこの場を立ち去った紫色の女は、あたかもすぐそばに居た様な早さで現れた。

「なんなんだい。鍵はまだ開いてないだろう。」
「開かないですね。この鍵についてなんですけど、差し込めないですよね。」
「そうだね。それがなんなんだい。」
「お姉さんは試してみたんですよね。」

 紫色の女の眉がピクっと動くのを見逃さなかった。

「この鍵はあるのに、何で開けないんですか?」
「生意気な男だねぇ。開けたら出してあげるから、早く開けなさい。」
「自分で開ければいいじゃないですか。」

 マークはそう言って鍵を手渡そうと差し出した。
 すると、紫色の女はビックリする程、仰け反り後ずさりした。

「やめろ!その鍵をこっちにやるな!!」
「どうしてですか…。」

 マークは強気に詰め寄った。
 すると紫色の女は徐々に闇に消えて行った。

「逃げられたか。でも、一つわかった事がある。この鍵さえあれば、ここを出られる。」

つづく

T-Akagi

【つづきはこちら(noteページ内です)】



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