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正直なところドイツと言う国は、私の中では長い間、スイスと同じような位置付けでした。いつか、そのうち、行けたら良いかな、60を過ぎてからでも良いかな、的なランク付けで、積極的に『行きたい!』という感じではありませんでした。欧州の中でも治安が良い方だし、若者を惹きつけるエキサイティングな要素があまり感じられず、川下りや古城巡りなど、むしろゆったりゆっくりの旅というイメージがあったもので。

それが突然、仕事で訪れることになり、しかも足掛け4年、2週間の長期滞在を合計5回もすることになるとは!人生は、何が起こるか本当に分からないものですよね。よくよく考えれば、そもそもご縁がある国だったのでしょう。私の出身校(高校&大学)はドイツと大変縁の深い学校で、高校大学と合計5年間、ドイツ語の授業を取っていた身なのです(ただし、文法の複雑さ故に熱中するに至らず、今ではあいさつ程度しか覚えていないという情けない有り様ですが…)。

毎回、滞在の中心となったのがポツダム。ベルリンの中心部から列車でも車でも約1時間のところにある隣町で、かつては東側に属していた地域。先祖代々この町に暮らしているという人々が半数以上いるけれど、ベルリンの壁崩壊後に移り住んできた人も割と多いところです。幸いなことに双方に友人が出来たため、それぞれの目線から見るポツダムの町と、ドイツの歴史概略を、少しだけ深く知ることが出来ました。

ベルリンとの境に近いエリアには大きなお屋敷が並ぶ一角があって、これらは当時、東ドイツの特権階級の人々の別荘だったそう。古いけれど豪華な造りの一戸建ては、たいていそういう人々の家だったそうです。ポツダムはベルリンから直ぐ近くの上、湖が沢山あって(ドイツは全土に湖が多くあります)、避暑地として理想的だったからでしょう。現在は、移住した人達(多くは西ベルリンから)の本宅となっているとのこと。それにしても、かつての東側諸国(と現在の社会主義国)の豪華さって、ある種の突き抜けた豪奢さですよね?‟ラグジュアリー”とは、ちょっとニュアンスと言うか味わいと言うか、何かが違う異様な豪華さ。

一方で、旧東ドイツ市民だった人々の多くは、今も古く質素なアパートメントに住んでいます。間取りや造りを見ると、いかにも‟東”というのが見て取れるので興味深いモノがありますよ。多くのアパートメントはどれもかなりの築年数ですが、内装は割と自由に改造して良いらしく、ホームステイさせて頂いた家々では、リビングを始め全ての部屋にロフトを手作り(つまりDIY!)、延べ床面積を倍くらいに拡張していました。これは、ツアー参加の観光客では見えないところ。まぁ、旅人には必要ない知識でしょうから、ガイドブックにも載っていないでしょう。

さて、ドイツ人とひと言で言っても、様々な気質の人がいます。大まかにドイツ人と言えば、欧州の中ではとても真面目でちゃんとしているので、日本人に近いと言われることも多い性質ですよね。日本人には付合いやすいと思います。

もう少し細かく見て行くと、家族のルーツや出自が西か東か、そしてプロテスタントかカトリックかで、ざっくり括れるかなぁというところ。ポツダムに長く暮らしている人たちは、東側世界にルーツを持ち育った人。私がポツダムでご縁を持った人たちは、9割以上がそういうバックグラウンドのある人です。

西側だった地域出身のドイツ人の友人達と比べると、一番初めに打ち解けるまで、ちょっと大変な感じ。一番外側にある壁が、とても高いのです。今でも所属するコミュニティは全員顔見知りだったり、よそ者に厳しいのは当たり前的な。東独という国の歴史と、その特殊な環境を思えば、納得がいきますけれど。

でも、一旦その壁を超えることが出来ると、もの凄く打ち解けて親切にしてくれます。特にこちらが、その地域の有力者や有名人と友達や知り合いであることが解った途端、信用度MAXになるのが目に見えて判る!そこに、‟東”の遺産がまだあると感じてしまうのですが。

彼らの暮らしは、今でも大変質素で慎ましやか。特に西側世界との差を感じたのは、室内灯の暗さ。明るさではなく、暗さ。電灯の意味があるのか解らないほど、暗い。絶対に目が悪くなるってレベルの暗さ。電灯だけでは暗いからと、キャンドルに火をつける習慣が、とても不思議に思えます。ポツダムでは3軒(3家族)の暮らしを体験させてもらいましたが、3軒とも同じような状況でした。欧州のあちこちで、市井の人々の暮らしぶりを見て来ている方ですが、ポツダムの夜はダントツで暗いと思います。青白いLEDの明かりに慣れている日本人には、お化け屋敷と同じくらいじゃないかという暗さじゃないでしょうか。ただし、彼らの言い分によれば、日本を含むアジアの夜の明るさ(蛍光灯)は、『明るすぎて目に良くない』とのことですが…。

見所という点では、‟東”というより、それ以前のプロイセン王国時代の建物・宮殿でしょう。Schloss Sanssouci:サンスーシ宮殿と庭園は、真っ先に見るべきモノのひとつ。こちらはロココ調のインテリアで、いかにも宮殿という建物と、どこまで歩けば端に着くのかと思ってしまう広大な庭園です。

Schloss Cecilienhof:ツェツィーリエンホーフ宮殿は、宮殿と聞いてイメージする外観ではないのでちょっと不思議に思いますが、内部は見事な木製の壁や高い天井など立派な造り。ポツダム宣言の会談が行われた場所と聞くと、ちょっと身近に感じますか?

ツェツィーリエンホーフ宮殿もそうなのですが、この辺りのお城や宮殿の共通点として、たとえ外観はあまり飾り気がなくても、内部は驚くほど豪華な造りというところ。王侯貴族の贅を尽くした暮らしぶりが、偲ばれます。

ポツダムには他にも宮殿と名の付く観るべき建築物が多く。プロイセン時代の宮殿文化にどっぷり浸れるところ。いわゆるお城好き、プリンス&プリンセス系なあの感じが好きな方には、堪らないと町だと思います。

旧東側世界の町であったのに、絢爛豪華な宮殿があちこちにある様はアンバランスな感じもしますが、それが冷戦時の狂気とある種、重なる気がするのは私だけでしょうか?今は本当にのどかな町で、ベルリン直ぐ隣と言うのに、時間の流れがとてもゆっくり。人々は穏やかに暮らしています。

ポツダム(そしてベルリンも、というかドイツという国)を訪れる前には、世界史でドイツについて、特に冷戦の前後あたりを少しでもおさらいしておくと、見え方に深みが出るというか、本当の意味での観光が楽しめるのでは?と思います。

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