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鉄腕アトムが抱いた「悩み」と「悲しみ」 僧侶が読み解くアニメ『PLUTO』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
 

第92回「PLUTO」

河口俊夫監督
2023年Netflix作品

 
 漫画家・浦沢直樹氏が『鉄腕アトム』の1エピソードを深く膨らませた漫画『PLUTO』。このたび忠実にアニメ化されました。

 物語の世界では、ロボットと人間が共生しています。進化したロボットたちは、姿も人間と区別がつかず、意思と感情を持ってそれぞれの生活を営み、人間と同等の権利が認められています。

 しかしロボットたち自身にも、その状況にまだ不慣れです。自分たちの内から込み上げてくる思いが何なのかが分かりません。それらをどう受け止め、処理していいかも分かっていません。そんなロボットたちを「不完全な機械」「奴隷」と蔑視する人間も少なからずいます。ロボットが社会に不可欠なのにもかかわらず。

 そんな中、最高能力を目指したロボットが2体登場します。いずれも、開発の最終段階で目覚めることはありませんでした。人工知能に送られた情報があまりに膨大で、渾沌停滞状態だったためです。それを流れさせるための鍵は「偏った情報をひとつ与える」ことでした。1体にインプットされた情報は「憎悪」。目覚めたロボットはやがて、憎悪を自家増殖させて世界の破滅へ突き進みます。

 もう1体の最高能力ロボットであるアトムへは、戦乱の中で想定外の「偏った情報」がインプットされます。目覚めたアトムは、深い悩みと悲しみを抱えながら世界の破滅の阻止へ向かうのです。

 仏教で苦悩の根源のひとつとして挙げている「瞋恚(怒り・憎しみ)」が、ロボットたちの内に次第に生まれます。それは進化なのでしょうか。ともかくも対応は不可欠です。瞋恚は連鎖します。それを止める術はあるのか。この問いは今、とても重く響きます。
 
松本智量(まつもとちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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