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Belfast Photo Festival -1-

Belfast Photo Festival(ベルファスト・フォト・フェスティバル)という写真のイベントをご存知だろうか? それ以前にベルファストがどこかわからない人も多いと思う。ベルファストは北アイルランドの政庁所在地で、北アイルランドはイギリスの一部。政治的にはかなりややこしい場所だが、一般的にはタイタニック号が建造された場所と言った方がわかりやすいだろう。そのベルファストで、今年で開催5年目を迎えたフォトフェスにPOETIC SCAPEで個展を開催した野村浩さんの作品 "Doppelopment" が展示作品として選ばれた。私もフェスティバルに招待していただき、会期中の様々なイベントに参加することになった。

6/5の朝に日本を出発。その日の東京の気温は30度超えだったが、ベルファストの天気予報は最高気温が12度、最低気温は8度と聞き、あわてて羽田空港でユニクロのダウンベストを購入。時差の関係で同日夜に現地入りすると予想通り寒い。なお、緯度が高いので夏は昼が長い。(上の写真は夜11時過ぎに撮影)

翌日6日にフェスティバル開幕。インディペンデント・キュレーターの菅沼比呂志さんも合流した。フェスティバル初日は私たちの他、ロンドン、ニューヨーク、アムステルダムなどから招かれた写真に関わる各分野のスペシャリスト達と共に、主な展示を巡るバスツアー&オープニングだった。

Belfast Photo Festivalの展示は主に(1)屋外展示、(2)美術館での展示、(3)ギャラリーの展示で構成されていた。今回のテーマが「Truth and Lies」とのことで、ドキュメンタリー系の作品が多かったが、もちろん昨今のドキュメンタリー作品の傾向を反映し、いわゆる従来型、狭義のドキュメンタリーには収まりきらない作品(具体的にはデジタル加工、ステージド、コンストラクテッドな作品)も多かった。屋外展示はターポリンを用いていたが、作品や展示場所に合わせ、構造やレイアウトを変えるなどの工夫がされていた。展示と共に作品の背景やコンセプトを説明するテキストも掲示され、初見の作品でも、内容をよく理解できる配慮がされていた。

屋内の会場で目に止まったのは、Golden Thread Galleryでの「JUMP TRUMP」という作品。トランプ氏の顔が印刷されたマットの上にダイブするというシンプルで面白くポリティカルな作品は、オランダのアーティスト、Erik Kessels と Thomas Mailaenderによるもの。元々は2017年にオランダのUNSEENで発表されたものだが、この前日の6月5日にドナルド・トランプがアイルランドを訪問しており、期せずしてタイムリーな展示となった。持病の腰痛があるので一瞬怯んだが、思い切って私も飛んでみた。(マットに穴を開けないため、背中から落ちるようにと指導あり)

バスツアーの最後は、野村浩さん、白井晴幸さん、木原結花さん の日本人3人によるグループ展「PORTRAITURE IN THE POST TRUTH ERA」が開催されているBelfast Exposed Galleryへ。ちょうどオープニング・レセプションが始まっており、ワイン片手に鑑賞、というより展示の確認。日本からブックマット仕様のプリント20点を送っただけで、展示構成やフレームは基本的にフェスティバル運営側に任せたのだが、黒の木額も展示構成もセンス良く一安心。

レセプションでは野村さんの作品だけでなく、白井さんの作品「invisible man」、木原さんの作品「行旅死亡人」についてもいくつか質問を受けた。その質問は基本的な事実関係だった。たとえば木原さんの場合は「この新聞記事もFakeなのか?」という感じ。この会場にいるほぼ全ての人たちは、展示作品、作家について事前知識がない。私は常々ステートメントでは、まずこうした事実関係や技術的・制作プロセスをおさえた説明すべきだと思っているが、Doppelopmentについては時間の都合もあり日本でのプレスリリースをそのまま送ったので、やや不十分だったと反省。

ただ、事実関係がクリアになると、そこからは早い。来場者の写真・現代美術に対するリテラシーは高く、この作品がなぜ面白いのかといったことは、制作プロセスが明確になったあとは自分で汲み取れる人がほとんどで説明不要だった。展覧会はとても好評だったと思う。

バスツアーが終わってホテルBULLITTに戻り(かっこいいホテルだった)フェスティバルのオフィシャルオープニング。お姉さんの体を張ったファイヤーショーをみながら、何も食べずひたすらビールを飲みまくるパーティはある意味イギリス的だと思ったが、夜10時を過ぎ、さすがに何か食べたいと思って街に出ると、ほぼ全ての飲食店が閉店していて驚く。国としてはイギリスなのだが、やはり元々ここはカトリックの国アイルランド。店じまいが早く、日曜日も2/3のお店は休みだった。しょうがないので昼間にMarks & Spencerで買ったビスケットをかじって、翌日のイベントに備えてベッドに入った(Belfast Photo Festival-2-に続く)


いただいたサポートは、POETIC SCAPEの活動を通じてアーティストをサポートするために使わせていただきます。サポートをぐるぐる回していければ素敵だなと思っています。