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断りの妻のことえりうららけし

何度やっても不機嫌になってしまう。
「これは辞める報告であって相談ではありません」

傍らでシミュレーションしてくれた妻が一言。
「怖いよパパ。相手も仕事なんだから」
分かってる。だけどつい喧嘩腰になっちゃうんだ。

息子が「こどもちゃれんじ」の退会を決めた。その手続き。
面倒にも電話でしか受け付けてないらしく。
世間の声では「繋がりにくい」とか「引き止めがすごい」とか。
この最後の砦を「おとなちゃれんじ」と評す人までいて――
必要以上に意識してしまう。

「私、こういうの全然苦にならない」
結局、接客プロの妻が電話を入れた。
十分弱。世間話でもするように穏やかに「四年間お世話になりました」と電話を切る。

「いい人だったよ」
「引き止めされなかったの?」
「されたよ。だから話を全部聞いて」

やわらかな口調で断り続けた、と。

「最後はアマギフカード五千円分つけるからって」

え? 
自分なら――とまた自問する。
……完全に決意をひっくり返されていたかも。


(ことわりのつまのことえりうららけし)

季語(三春): 麗か、うらら、うららけし、麗日

※ことえり(言選り)……言葉選び


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