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[朗読 3分] 「猿と子犬」(『おかげ犬⑥』)

【ツマヨム】妻が自作の物語を朗読してくれました。【創作大賞素材】
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「猿と子犬」

子犬の行く手を阻む猿。
対峙する二匹の影が夫婦岩に重なった。
犬は波打ち際を駆け、海中に身を沈める。
猿もクロールをして追った。
吠えようとした瞬間、波に飲みこまれた。

「お、気が付いたか。良かった」
犬が意識を取り戻すと、風変わりな出で立ちの男がいた。
「悪かった。うちのがいたずらして。芸の途中で逃げ出したんだ」
猿は縄に繋がれ反省のポーズをしている。

「その袋……おかげってなんだい?」
男が巾着袋を指さす。

と突然、犬は再び海に飛び込もうと駆けだした。
「危ないよ」
尻尾を掴んできた男に大きく吠えた。

それはまるで人々の思いを代弁するかの鳴き声。
――どうしてくれるんだっ
袋のお金が全部、流されちゃったじゃないか!

異変を察した男が殊勝な顔で告げる。
「怒ってるのか? どうしたら許してくれる?」

男とは裏腹、猿は悪びれもせず小道具の鳴り物を使って遊び始めた。
犬はそれを見ると顔をあげ、男に一緒に来てくれと首を振った。
「どこ行くんだい?」

犬は振り返りもせずに目的地を目指す。
それは伊勢とは逆。元来た道だった。

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