『ボヘミアン・ラプソディ』 リバタリアンの映画評 #9

アーティストという起業家

優れたアーティストは起業家の資質を持っています。製品(作品)に対する自分の直感を信じ、技術の専門家でなくても最新のテクノロジーに関心を抱き、何より最終消費者(観客・聴衆)を大切にします。

世界でヒットしている『ボヘミアン・ラプソディ』(ブライアン・シンガー監督)は、英ロックバンド、クイーンのリードボーカルで、エイズのため45歳で没したフレディ・マーキュリーの伝記映画です。フレディ役のラミ・マレックをはじめ俳優陣が見事な演技で、脚本も練られており、クイーンに詳しくなくても楽しめます。

映画の題名にもなっている「ボヘミアン・ラプソディ」は、フレディが作詞・作曲したクイーンの代表曲の一つですが、彼の起業家としての資質を示す楽曲といえます。レコード会社重役は過去のヒット曲と同じ路線の曲を求めますが、それに抵抗し、オペラを取り入れた約6分もある、この曲を作ります。

重役は6分もあってはラジオでかけてもらえないと難色を示し、発売後もマスコミに酷評されますが、聴衆からは支持され、大ヒットします。興味深いのは、綿密な市場調査をしたわけでもないのに、型破りな楽曲がファンの心をつかんだことです。市場調査に否定的だったアップル創業者、スティーブ・ジョブズ氏の「何をほしいかなんて、それを見せられるまでわからない」という言葉を思い出します。

フレディは聴衆に迎合せず、自分の作りたい曲を作りましたが、聴衆をないがしろにしたわけではありません。聴衆が真に求めるものを理解していたからこそ、型破りでも支持される曲を作れたといえます。フレディがコンサート中、聴衆の中に飛び込み、支えられる場面は、両者の信頼関係を象徴しています。

もちろん曲そのものをていねいに作ったことも「ボヘミアン・ラプソディ」がヒットした理由でしょう。映画では、コーラス部分の効果を高めるため、フレディを含むメンバーが声を何度も重ね録りし、テープが劣化してしまうエピソードが描かれます。当時は16トラック録音が主流だったのに対し、この曲は24トラックで録られたそうです。

誰もがフレディのように成功できるわけではないかもしれません。それでもプロとして自分を貫く彼の姿は、何かを成し遂げたいと願う人に励みとなります。
(横浜・イオンシネマみなとみらい)


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