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アイスクリームが溶けないうちに

昨年の秋の週末、奈良県吉野町の木材関係者8名が視察に来てくれた。吉野町と言えば「吉野杉・吉野檜」で有名で、500年の歴史を持ち、戦後の日本林業のモデルともなった場所。
彼らはものづくり施設や製材所の視察の他に、僕らのものづくりプログラムを実際に体験してみたいということで、木のアイスクリームスプーンづくりワークショップをしてもらった。家具の端材の様々な広葉樹の板をレーザーカッターで加工して小さなスプーンの型を作っておく。スーパーやコンビニでアイスクリームを買うとついてくるくびれた形をしたやつ。自分の好きな木を選んで、それを紙やすりで磨いて形を作りオイルを塗って仕上げる。
このワークショップの特徴は、アイスクリームが付いてくること。作ったスプーンをその場で使ってアイスクリームをすくって食べてもらって、使い心地を確認できる。ワークショップや体験プログラムは、作るプロセスを楽しむものではあるが、道具は使うもの。作ってそのままお蔵入りしないように「作って使う」がセットになっている。

林業木材業のプロである吉野町のおじさまたちが、小さなアイスクリーム用のスプーンを真剣に削る。インストラクターのりなちゃんが「さすが、上手ですね~」と盛り上げる。「こうやって若い女の子に褒めてもらうと頑張ろうってなるわ。俺らみたいなおっさんが指導しててもなんも楽しくないわ」という誰かの言葉に、みんなこの視察の中で一番得心し頷いている。
地元の美味しい牛乳屋さんの牧成舎のアイスクリームは冷凍庫から出してすぐはとてもかたい。そこで作業終了時間の10分前に出して少し溶かしておく。作業が終わった頃にちょうどいいやわらかさになっているはずなのだが、今回はさすが木工のプロたち、みんな仕上がりにこだわり、なかなか終わらない。アイスクリームが溶けてしまわないうちに、無理やり終わってもらう。
ほどよく溶けたアイスクリームを配って、スプーンの口当たりを確かめる。前日の懇親会からの二日酔いに、作業で疲れた体に、美味しい。使い終わったら綺麗に拭いて、後で手直しできるよう紙ヤスリも付けて持ち帰ってもらう。
参加者の何人かは「スプーンの口当たりにいまいち納得できなくて、自宅に持ち帰ってからスプーンの裏側をもう少し削りました」、「クルマに置いておくとついつい気になってフォルム削っちゃうのよね〜」等とメッセージをくれたり、ブログやSNSに投稿していてくれた。

吉野のみなさんが来てくれたのは、秋岡芳夫さんのイベントがきっかけだ。夏に開催した「杉のDIYデザイン展in飛騨」の特別ゲストとして来てくれた木工家の賀來寿史さんが、吉野の仲間を誘ってまたすぐに来てくれたのだ。
その秋岡芳夫さんの言葉で「消費から愛用へ」というメッセージがある。愛用というと品質のいいものを買ってできるだけ長く使うというイメージがあるが、秋岡芳夫さんの愛用の概念は違う。自作自用が愛用の根底にあり、気に入らないところがあれば自分の手で直しながら、使い続ける、というモノと人の関係が循環している状態を指す。

ワークショップでつくった道具は、一度も使うことなく、いつの間にかどこかに行ってしまったりする。作っている時の時の使いたい、大切にしたい、という気持ちと一緒に。まるで冷たかったアイスクリームが溶けてしまうように。だから、せめて一度だけでもすぐに使えるように、僕らはワークショップ終了10分前からアイスクリームを溶かしておく。

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