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そのときそこにいる

信仰度★★☆☆☆


誰かとの再会は、かつての時間を今に戻すだけでなく、より深く意味づけてくれることがあります。


私は7年前に「修養科」(天理教の本部で3か月間修養生活を過ごす天理教入門コース的なもの)を出ました。先日、その修養科同期で、私のルームメイトのひとりだったマツイ君(仮名)と再会しました。

◎マツイ君(♂ 少し年上)
 ●天理教の教会の息子
 ●既婚子持ち
 ●赤マル愛煙家
 ●見た目マイルドヤンキー
 ●口癖「泣かすぞ」

マツイ君とは修了後しばらく連絡を取り合っていましたが、次第に連絡が返って来なくなり、今ではすっかり音信不通状態でした。マツイ君も私と同じく「教会の息子」でしたが、実家の教会とも訳あって疎遠になっていたようです。

再会のきっかけは、彼のおばあさんのご逝去でした。マツイ君が葬儀のために久々に実家の教会に帰ってきているとの話を聞き、その家と懇意にしている方が、私を気遣って一緒に行こうと言ってくれたので、車を二時間ほど走らせて一緒にお悔みにいきました。このご時世ですので、親族でもない私らが葬儀に参列することは叶いませんでしたが、葬儀の準備をちょぼっと手伝うという名目で、中に入らせてもらいました。そこでマツイ君と再会したのです。

7年ぶりでしかも連絡も途絶えていたので、声を掛けるのは正直おそるおそるだったのですが、会えば当時と何ら変わらないお互いに戻りました。普段離れていても、会えば当時のままに戻れる、そういう友人は貴重ですね。

少し話が弾んできたので思い切って「なんで連絡返さないんだよ」と聞いたら、「いや俺基本誰の電話も出んから」と。そんなもんかいな。


~~

修養科に入った当時の私は、大学を卒業したばかりで、信仰生活の道を選んだものの、そこにはありがちな葛藤がまだ心の中でくすぶっていました。気持ちの整理がつかずに心がごちゃごちゃしていたと思います。

そんな混乱した心から時々あふれる言葉を拾い聞いてくれたのが、隣で寝起きしていたマツイ君でした。別に熱心に聞くという感じでもなく、ふーんふーんと、時々反応するくらいのものです。その感じが私には心地良かった。

私は決してマツイ君にとって気が合うタイプの人間ではなかったと思います。教会の長男として生まれたという出自は同じでしたが、これまでの経緯はまるで違いました。性格もマツイ君はさっぱりしててあまり考えこまないタイプですが、私はくよくよの権化です。彼は当時すでに結婚して子どもがいましたが、私はまだ学生上がり。彼は愛煙家ですが、わたしはからっきし。でもよくつるんで喫煙所に行きました。吸わない癖に。いずれにしてもまるで重ならないお互いでした。

ところが私は今でも、彼の存在のお陰で、不安定ながらも修養の日々を過ごすことができたと思っています。大げさでなく、今でも信仰中心の生活を続けられている土台の一つとなっています。
そしてその理由は、彼がいわゆるおたすけ心いっぱいで、積極的に私の心の内を聞き出してくれたからでも、なにかアドバイスをくれたからでもなく、ただその時、その心の私と、同じ空間を付き合ってくれて、悩み相談というわけでもなく、時折話相手になってくれたからというだけです。

一緒に生活した、それだけなのです。

このことは、今の私にとって一つの勇気付けになっています。

誰かのたすけになるとき、それは何か能力があったり、アドバイスができるから成立するとは限らないということです。そのときそこにいること。それだけが、誰かを助ける最たる理由になりうる、そういうことです。

当時を振り返りながら、そんなことを改めて確認する再会でした。

~~

せっかく彼と再会できたので、めったにない機会なのだから、青年会のこと誘わなきゃとか、教会に戻ってきたら?と提案してみるかとか、私にしか伝えられないことがあるのではとか、少しは考えたのですが、なぜだかそれらが全部私の都合のようで下世話な気がしてしまいました。結局話したのは、子どもの事、コロナの事、修養科の思い出話くらいで、大した話はしませんでした。まいっか、みたいな感じで。
普段会えないのだからこういう機会は貴重だし、縁あって今日会えたんだから踏み込んだ話もしないとな、とか頭では分かってるんですけどね。なんかすみません。

そういうわけで、会った瞬間あの時に戻れたという喜びただ一つを携えて、今回は帰路につきました。いつかまた、という感じです。

葬儀が落ち着いたころ、どうせ返ってこないだろと思いつつ一応メールをしました。瞬発で返信がありました。「ういありがと」ですって。いや、連絡返しますやん。そんなもんです。


※写真はspyder2019さんによる写真ACから (小土肥海水浴場)                           

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