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認知症の人の住み替えについて考える

本日のサマリー

認知症の人の住まいについて考えるときのライフハック
・認知症の人の住居については、関係者の間で意見の違いが起こることが多い。
・住み替えると、できることは減る。
・それぞれの意見を冷静に出し合う場が必要。
・臨床倫理四分割法(医学的適応、患者の意向、周囲の状況、QOL)で課題を整理して考える。
・使える社会保障制度はメリットがあるなら使う。
・地域リソースを使って、維持できないか考える

周囲の人の心配が増えていく時

私たちも、日々失くしものをします。
買い物で同じものを購入したりします。
日付を間違えたりします。
料理を失敗したりもします。

そういうことが増えてくると、
家族は心配します。

そして、認知症と診断されると、
さらにできないことを注意する
ようになります。
進行してほしくないからです。
でも、注意することにより、
親子関係が悪くなります。

子どもは、親が言うことを聞かないと考え、
誰かに委託したくなります。

施設入所という言葉が、ちらつき
始めます。
親に提案もしますが、関係が
悪いので、話し合いにもなりません。

無理やりデイサービスから直接
施設入所させる話もあります。

誰もがなりうる認知症。
私は医師ですので、認知症という病気に
なった人が不幸になることは、避けたいと
思います。

そんな時私ができることは、
医学的な評価と見通し、課題の整理だと思います。
私が行っている課題の整理方法を
お伝えしたいと思います。


事例

80歳男性、単身
多発性の脳梗塞、血管性認知症、高血圧、糖尿病
もともと町内でも知る人は少なく、あってもあいさつ程度。
運動自主グループなどの交流もない。
民生委員から、最近町内会費を支払わず、ゴミ出しができていないようだと、包括支援センターに相談が入った。
包括職員が訪問すると、入り口までゴミがあふれていて、異臭がしていた。本人は、多少汚れているが、掃除はしているとのこと。助けはいらないという。
民生委員や近所の人からの苦情が、近県にいる家族に入った。もともと家族関係が悪く、縁を切っている。迷惑かけているのであれば、入所させてくださいとのことであった。
近隣の人も、入所させるべきだと高圧的な人がいる。

事例4を異なった視点から創作




臨床倫理における4分割法で考える

臨床倫理における4分割法とは、
その人の課題を整理する方法です。
医学生のころに学びました。
その時はピンときませんでしたが、
今はよく使っています。

①医学的な側面(診断と予後のアセスメント)
②患者の意向(患者の価値観や希望)
③周囲の状況(家族、介護職、財政、宗教、資源、利害関係)
を聴取して、
④どうやったら本人の生活の質(QOL)が最大になるか
考えます
例えば、治療した場合としなかった場合、
通常の生活を維持できるか?
治療が成功した場合でも、本人が失うものはあるか?
周囲の人はどうか?
支援は持続可能であるか?
等です。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2014/PA03059_02より引用


認知症の医学的情報を集める

まず、私が相談を受けた場合は、
往診します。往診するには、
本人または家族の同意が必要です。
同意が得られない場合は、
市区町村に相談します。
認知症初期集中支援チーム
かかわることもあります。

往診では、
生活状況の確認と、医師の診察、
簡単な認知機能評価、聴診、服用
薬剤の確認を行います。

採血もできるだけ行います。
治療できる認知症疾患が
含まれているからです。

診察上、極端なやせがみられ、
栄養失調が疑われました。
記憶障害と実行機能障害、
腱反射の低下も見られました。
脳MRIと採血の同意をもらいました。


患者の意向を確認する

私たちから見て、環境が良くないと思っても、
決して否定はしません。
この環境について、本人に聞きます。
採血結果が出たら、説明をします。
認知機能についても本人にも説明します。
本人の治療の要望を聞きます。
本人が法律上得られる権利を行使できる
状況になるように、行政と整えます。
生活保護、自立支援医療制度などが
含まれます。

治療には前向きでした。
これまで通りの暮らしができるなら
頑張りたいとのことでした。


認知症患者から認知症のある人へ橋渡し

周囲の人との関係であったり、
本人の生活の質を考えるには、
認知症という病気だけを見ていると
上手くいかないといわれています。

患者から、地域住民として戻る手伝いを
していきます。


周囲の人との状況を確認

周囲の人は、施設に入ってほしいと
希望していました。
利害関係についても確認します。
隣の人が患者さんの土地を買い取る
意向があったりします。
家族が、土地を売りたいときも
ありました。
他人の利害関係に医師として
介入することはありませんが、
なぜ関係者が、患者さんを施設に
入れたいと思っているかは、
確認しています。

大家さんが退去を希望していました。
きれいに使ってほしいという希望でした。
近所の人は、確認のため聞くと、口を
閉ざしました。
家族は、人の迷惑をかけるなら施設に
入ってほしいとのことでした。


QOLを考える

認知症の場合、住み替えにより
認知機能は下がります。
本人の生活を変化させる前に
まず、人が入ることで状況が
変化するかを見ました。

生活には大変困窮していました。
もともと生活保護の適応を受けられる
人でしたが受けていませんでした。
服薬管理のため訪問看護が入りました。
訪問介護による自宅の掃除が入りました。
ケアマネジャーの調整により
数か月のトライアルを経て、
訪問看護による服薬支援と
訪問介護による清掃支援が
介入できるようになりました。
本人もずいぶんすっきりした顔を
しています。
栄養状態もよくなり、体重も
増えてきました。
大家さんも、これまで一人で悩み
心細かったが、訪問看護の人も
気にかけてくれるので、安心との
ことでした。


その後

認知症と診断されて1年ほど。
周囲の人の適切な支援と、見守りで
生活機能は、維持できています。
大家さんも差し入れしてくれて
いるようです。
自分で掃除もできるようになり、
介護サービスが少し減りました。
課題もあります。
家族とは連絡がとれなくなりました。
ここは慎重に関わります。
家族関係は、昔起きた問題があるかも
しれないからです。

いきなり住み替えを行うと、
トイレの場所がわからなくなったり
料理ができなくなることもあります。
地域にあるサービスで生活を
維持できないか、考えてみる
というステップが今回の大きな
ヒントとなりました🍀


認知症の人の住まいについて考えるときのライフハック
・認知症の人の住居については、関係者の間で意見の違いが起こることが多い。
・住み替えると、できることは減る。
・それぞれの意見を冷静に出し合う場が必要。
・臨床倫理四分割法(医学的適応、患者の意向、周囲の状況、QOL)で課題を整理して考える。
・使える社会保障制度はメリットがあるなら使う。
・地域リソースを使って、維持できないか考える


参考としたHP

白浜雅司先生
佐賀医科大学にお ける 医療倫理教育

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jabedit/6/1/6_KJ00002059023/_pdf/-char/ja

参照した四分割法の図



最近出版した認知症に関する本です。こちらにもリンクワーカー制度を紹介しています。認知症に1人で向き合わない!を合言葉に、こんな症状が出たら、誰に相談するか、どんなサービスや制度を使うかに焦点を当てました。よろしかったらお手に取っていただければと思います。Kindle版もでました。iPADなどのタブレットをお持ちの方には結構お勧めです。


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