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海外へ旅に出ると、マクドナルドに入りたくなる

海外へ旅に出ると、マクドナルドに入りたくなる。

せっかく海外まで来たんだから、その土地の料理を味わえるお店へ入った方がいいよね……と思いながら、あの黄色いMのネオンサインを見かけると、つい立ち寄りたくなってしまう自分がいるのだ。

マクドナルドへ入っても、注文するのは、日本で食べるのと同じ、普通のハンバーガーとポテトだ。

その美味しさは日本と大して変わらないし、ファーストフードだから、店員さんと会話が楽しく弾むなんてこともない。

でも、僕は海外のマクドナルドで過ごす時間が好きだ。

この1年を振り返っても、ハワイのホノルルで、韓国の釜山で、南アフリカのポート・エリザベスで、そしてイギリスのロンドンで、マクドナルドへ入ることになった。

もちろん、その利便性の高さも、マクドナルドへ入りたくなる理由だと思う。

どこの街にもあって、ひとりでも気軽に入りやすく、注文するのも簡単で、夜遅い時間でも開いている……。

だけど、それだけではないように思うのだ。

もうひとつ、海外のマクドナルドに惹かれてしまう理由があるような気がする。


ハワイ、ホノルル

その夜、ハワイのホノルルにあるホテルで、僕は慌てて飛び起きた。

時刻は23時過ぎ。夕方、アラモアナセンターで買い物をしてから部屋に戻ると、うっかりベッドで寝入ってしまったのだ。

遅い夕食をとるため、急いで街へ出た。でも、開いているレストランがなかなか見つからない。

そういえば、ワイキキビーチの近くにマクドナルドがあった。今夜はそこで簡単に夕食としようか、と思った。

ところがマクドナルドへ行ってみると、夜遅いため、テイクアウトのみの営業だという。

他のお店を探すのも面倒で、僕はダブルチーズバーガーのセットを買って、ホテルの部屋で食べることにした。

ホテルの15階の部屋へ戻ると、もう24時を過ぎていた。

袋からハンバーガーとポテト、オレンジジュースを出して、静かな部屋でひとり、遅すぎる夕食をとった。

山側にあるホテルなので、窓の外を見ても、夜の海は見えない。でもその代わり、リゾートマンションが建ち並ぶ、ホノルルの街並みを一望できる。

ハンバーガーを口に運びながら、そんな深夜のホノルルを眺めていると、こんな夕食もたまには悪くないな、と思った。

誰のことも気にしなくていい、ただ自由なだけの、ハワイの夜がそこにあったからだ。

それはまるで、旅の一夜というよりも、ほんの短い間だけ、ホノルルの片隅で暮らしているような、不思議な気持ちになる夜だった。

韓国、釜山

韓国を訪れると、旅の最終日は、いつも夜遅くまで街で過ごしてしまう。

翌日には帰らないといけない……と思うと、なんとなく寂しくて、寝てしまうのがもったいなく感じるからだ。

そんなことができるのも、治安が比較的良い韓国だからなのだろう。

その釜山の夜も、ソジュという焼酎を呑みながら焼肉を食べ、コンビニでアイスクリームを味わい、ゲームセンターでどうでもいいようなゲームをして過ごした。

気づけば、深夜3時だ。それでも釜山の繁華街は、たくさんの若者たちで賑わっている。

ホテルへ戻る前に、最後にマクドナルドへ寄ることにした。もちろん、それがいつものコースなのだ。

深夜のマクドナルドも、客の多くは若者たちだった。

近くのナイトクラブで踊ってきた帰りらしいカップルや、遊び疲れたらしくテーブルに突っ伏して寝ている学生のグループもいる。

名前も知らない彼らを見つめながら、ハンバーガーをひとり食べていると、自分がこうして彼らの中に混ざっていることに、ふっと安らぎを覚えた。

たぶん、彼らの姿に、親近感を抱いたからだ。

近くて遠いような韓国だけど、その若者たちは、日本の若者たちと何も変わらないのかもしれないという、親愛の情を……。

南アフリカ、ポート・エリザベス

南アフリカのポート・エリザベスは、インド洋に面した港町だ。

遠くタンカーが行き交う海は美しく、夕暮れどきになれば、その海は黄金色の輝きに満たされていく。

ただ、このポート・エリザベスもまた、南アフリカの他の都市と同じく、治安は悪いらしい。

街の中心部は、日中でもどこか退廃した雰囲気が漂い、常に警戒しながら歩かなくてはいけないほどだった。

夜ともなれば、さらに危険な空気になる。ホテルの近くを歩いていて、暗闇に屯っている若者たちに突然声を掛けられたときは、冷や汗が流れるような思いがした。

あるいは僕も、不安を抱えながらの旅に、少し疲れていたのかもしれない。

その夜、海岸沿いのマクドナルドに立ち寄った。夕食は済ませていたから、ホテルへ帰る前に、一休憩しようと思ったのだ。

メニューを見ると、南アフリカ原産のルイボスティーがある。ドーナツと一緒に、それを貰うことにした。

陶器のポットに入れられたルイボスティーは、口に入れるとほのかに甘く、優しい味わいがふんわりと広がっていった。

静かな店内では、僕の他に、親子連れが1組のんびり過ごしているだけだ。

その中で、ドーナツを食べ、ルイボスティーを飲んでいると、旅の疲れが癒されていくのがわかった。

きっと、それは僕にとって、南アフリカに来て初めて、心の底からホッと安らぐことのできた、穏やかな夜だったのだ。

イギリス、ロンドン

雨の夜のロンドンで、セント・ポール大聖堂の前にあるマクドナルドへ入った。

早朝のロンドンに着いて以来、どうにもこの都市に上手く馴染めない自分を感じていた。

ずっと天気が悪い1日だった、ということもあるし、バッキンガム宮殿の前でスリに遭いそうになった、というせいもあるかもしれない。

ところが、夕食のために入ったマクドナルドでも、不運は続いていたらしい。

セルフオーダーで注文して、クレジットカードで支払いも終えたのに、それを証明するレシートが出てこなかったのだ。

どうしよう……と、ひとり途方に暮れていたときだった。

若い男性の店員さんが、僕が困っていることに気づいたらしく、寄ってきて言った。

「大丈夫。注文は届いているから、カウンターへどうぞ」

笑顔の彼に誘導されて、カウンターへ行くと、すぐに注文したハンバーガーのセットを受け取ることができた。

「ありがとう……」

僕も笑顔でお礼を言って、席に座ってハンバーガーを食べ始めたとき、ふと思った。

不運続きだったロンドンだけど、助けてくれた彼のおかげで、ようやく1日の最後に、こうして笑顔になることができたんだな、と。

海外のマクドナルドには、その土地の日常がある

この1年、海外へ旅に出て、マクドナルドで過ごした時間を思い出すと、ひとつ気づくことがある。

どこの国の、どこの都市のマクドナルドにも、その土地の日常が流れていたことに。

仕事帰りのスーツ姿でハンバーガーを頬張るサラリーマン、和気藹々と休日のひとときを過ごす子供連れの家族、いつまでお喋りを楽しんでいても飽きそうにない学生たち……。

たぶん、その土地で暮らす人にとって、当たり前に立ち寄るのは、観光客向けの人気のレストランではなく、ただのファーストフードに過ぎない、マクドナルドなのだ。

そして、旅人の僕もまた、その土地の何気ない日常に浸りたくて、マクドナルドに入りたくなるんだと思う。

きっと、マクドナルドなんてどこも同じ……なんてことはないのだ。

そこにしかない日常が流れていて、そこでしか見られない光景があって、味わえない種類の幸せがある。

それが、旅先のマクドナルドの魅力なんだと思う。

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