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あの1通のメッセージが、旅行ライターになる背中を押してくれた

旅をすることが好きだった。

そして、文章や写真で旅を伝えることも好きだった。

旅行ライターを志したのは、そんなシンプルな理由だ。

でも、それだけではなかった。

なんの夢もなかった僕が、旅行ライターに挑戦することになったのは、背中を押してくれるきっかけがあったからだ。

それは、ある初夏の日に届いた、1通のメッセージだった。

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旅をして、文章や写真でそれを伝える。

そんなことを僕が始めたのは、中学生の頃だった。

自分でホームページを作り、そこに旅行記を載せていたのだ。

といっても、家族で行った北海道旅行だったり、住んでいる神奈川をめぐる散歩だったり、書いていたのは小さな旅だった。

読みに来てくれる人は少なくても、旅を書くことはすごく楽しかった。

やがて20代になると、旅行ブログを立ち上げ、本格的に旅行記を書き始めた。

鉄道で日本各地へ旅に出ては、帰るとすぐに旅行記を書く。

ブログもまた、しばらくは読者が少なかった。でも、地道に旅行記を書き続けるうちに、読んでくれる人はだんだん増えていった。

海外へ旅に出るようになり、韓国や香港の旅行記を書き始めると、ブログを更新する度にすぐ読みに来てくれる人も多くなった。

その頃の僕は、旅をしたから旅行記を書くのではなく、旅行記を書きたくて旅に出ていたような感さえある。

ひとり旅だったとしても、旅行記として伝えることで、旅の感動を誰かと共有できる。その喜びを、僕は見出したのだ。

それから数年、のめり込むように旅行記を書き、読むことを楽しみにしてくれる人も着実に増えていった。

でも少しずつ、旅を伝えるという行為の限界を、僕は感じ始めていた。

こんなことを続けていても、どこにも行き着けないのではないか、と思ってしまったのだ。

お金になるわけでもなく、名声を得られるわけでもない。旅を伝えたところで、それは消費されるだけで終わってしまうのではないか……。

そしてある日、ブログの更新を、ふっとやめてしまった。

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1通のメッセージが僕の元に届いたのは、それから半年ほどが過ぎた、初夏の日だった。

ある女性の方が、更新しなくなったブログに、メッセージを書き残してくれたのだ。

ちなみに、メッセージにある「がり」とは、僕がブログで使っていたペンネームだ。

がりさん、はじめまして。
以前より、がりさんの旅行記が大好きで、なんども繰り返し読ませていただいておりました。

先日、がりさんの旅行記で知った玄倉発電所のエメラルドの水を見に行ってきました。
旅行記を拝見した時から「いつか行きたい!」と思っていて、やっと実現することができました。
写真で拝見していた以上に美しくて、とても感動しました。
川は綺麗だし、トンネルは怖いし、今でもやっぱりスマホは圏外だしで、たくさんの貴重な経験をしました。

私が今旅行記を読むのが好きなのも、旅(もっぱら日帰りの範囲ですが・・・)が好きなのも、がりさんの影響が大きいとおもいます。

秋の広徳寺へも行ってきたんですよ。
素敵な場所を色々紹介してくださって、本当に感謝しています。

いまでも旅に出られているのでしょうか?
お体に気を付けて、素敵な旅を続けてください。

その女性からのメッセージを読んで、思いがけず温かい気持ちに包まれた。

知らないところで、僕の旅行記をこんなふうに読んでくれていた人がいたんだと思った。

メッセージをくれた女性は、旅行記で紹介した玄倉発電所にも行ってくれたという。のちにユーシン渓谷として知られるとはいえ、その頃はまだ知る人は少ない場所だった。

たぶん、僕の旅から、彼女の旅へと、旅のバトンが渡ったのだ。

なにより嬉しかったのは、「旅(もっぱら日帰りの範囲ですが・・・)が好きなのも、がりさんの影響が大きいとおもいます」という一文だった。

その女性は、僕の旅行記をひとつのきっかけに、旅を好きになってくれた。

ちょっと大げさに言えば、僕が旅行記を書いたことで、その女性の人生をほんの少し変えてしまったのかもしれない……。

そのとき、ふっと気づいたのだ。

旅を伝えるという行為には、無限の可能性があることに。

消費されて終わるのではなく、旅を伝えていくことで、誰かの新しい旅を生み出せたら。

その女性のような、まだ知らない誰かに、旅を好きになるきっかけを与えられたら。

なんだかそれは、とてもワクワクすることのような気がした。

女性へ返信を書きながら、僕は思っていた。

やっぱり、旅をして、それを伝えていきたい。ときに人生を彩ってくれる、旅することの素晴らしさを。

そして今度こそ、仕事として挑戦してみたい。

僕が初めて、旅行メディアのライター募集に応募したのは、その夏だった。

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きっと、あの1通のメッセージが、旅行ライターの仕事へと、僕の背中を押してくれたのだ。

旅行ライターとして記事を書くのは、簡単なことではない。

でも、旅を伝え続けていれば、どこかの誰かが、旅のバトンを受け取ってくれる。そう信じて、これからも旅を伝えていく。

もしかしたら、人生を変えてもらったのは、僕の方なのかもしれない。

僕が書いた旅行記で、あの女性の人生がほんの少し変わったように、女性がくれたメッセージが、僕の人生を前向きに変えてくれた。

ほんの少しよりも、はるかに大きく。

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旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!