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海外旅行帰りに食べる、吉野家の牛丼の美味しさについて

海外の旅から帰ると、真っ先に食べたくなる、日本の味がある。

飛行機が成田空港に着陸し、しばしの時を経て機内を出ると、多くの乗客たちとともに、ターミナルビルの中を動く歩道に乗って進んでいく。

やがて入国審査を受け、ターンテーブルのフロアを過ぎ(僕の場合、荷物を預けないので通り過ぎるだけ)、さらに税関も抜ければ、無事に到着ロビーに出る。

そこが幸運にも第2ターミナルなら、すぐ見上げた2階に、オレンジ色の看板が輝いている。

それを目にした僕は、エスカレーターで2階へ上がり、逸る気持ちを抑えながら、そのお店へ向かうのだ。

日本に帰国したら、何よりも真っ先に食べたい味……、吉野家の牛丼を食べるために。

その吉野家で僕が注文するのは、普通の牛丼(たまに大盛りにする)と、サラダとお味噌汁のセットだ。

今か今かと待つ間もなく、すぐに牛丼のセットは運ばれてくる。

紅ショウガを少しのせて、小さな声で「いただきます」と言うと、まず牛肉を一切れ口に入れる。

その瞬間、僕はささやかな感動に包まれる。

なんて美味しいんだろう……と思わず感嘆の声を上げたくなってしまうほどに、びっくりするくらいの美味しさなのだ。

さらに、たっぷりと汁が染みたご飯を口に入れると、もう自然と笑みがこぼれてしまう。

決して大げさではなく、こんなに美味しい食べ物が日本にあったのか……と感激してしまう自分がいる。

そして、ほとんど箸を止めることなく、あっという間に牛丼を平らげると、気持ちがふっと幸せで満たされていることに気づくのだ。

旅の終わりの小さな寂しさと、無事に日本へ帰れた安らぎと、そして今、こんなにも美味しい牛丼にありつけた、確かな幸せに……。

不思議なのは、普段の僕は、そこまで吉野家の牛丼を愛しているわけでもないことだ。

いや実際、日常生活で吉野家へ足を運ぶことはほとんどない。

それなのに、海外の旅から帰ってくると、真っ先に食べたくなってしまうのは、吉野家の牛丼なのだ。

たとえ、到着したのが第1ターミナルでも、よほど時間に追われていない限り、わざわざ第2ターミナルまで足を延ばし、吉野家へ立ち寄る。

羽田空港の第3ターミナルに着いたときも、やはり足を運ぶのは、レストランフロアの端っこにある、オレンジ色の吉野家だ。

この1年だけでも、南アフリカの旅から、韓国の旅から、イギリスの旅から、そしてベトナムの旅から帰国すると、真っ先に吉野家の牛丼を食べたものだった。

そうして味わう牛丼は、本当に、信じられないくらいに美味しいのだ。

もちろん、日本を離れていたといっても、せいぜい1週間とか10日間くらいに過ぎない。

そこまで日本の味が懐かしくなるはずもないのに、それでも帰国してすぐに食べる牛丼は、いつにも増して美味しく感じられる。

いったい何が、変わらないはずの牛丼の味を、ここまで美味しくしてくれるんだろう……と思ってしまうほどだ。

ご飯の一粒まで平らげた僕は、カウンターで代金を払い(財布に日本のお金がなくて慌てることがある)、お店を出ると、どこか前向きな気持ちで思えるのだ。

さあ、そろそろ家へ帰ろう、と。

あるいは、誰にとっても、帰国したら真っ先に食べたい日本の味……があるのかもしれない。

ある人にとってはお寿司かもしれないし、ある人にとってはラーメンやカレーライスかもしれない。

その「味」が僕にとっては、たぶん、吉野家の牛丼なのだ。

どこの国へ旅に出ても、無事に日本へ帰ってきたら、待ち焦がれるように吉野屋へ向かい、一杯の牛丼を食べる。

それが僕にとって、その海外の旅にエンドマークを付ける、小さな儀式になっている。

次の海外の旅でも、日本へ帰国したら、足は自然と吉野家へ向かうことになるだろう。

そして相も変わらず、牛丼の美味しさに舌鼓を打ちながら、旅の終わりの幸せにただ浸るのだ。

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