見出し画像

成田空港から飛び立つのが好き、という話

成田空港が好きだ。

とくに海外へ旅に出るとき、成田から飛び立つのが好きだ。

行き先がヨーロッパでもアジアでも、まずは成田から旅を始めたいという思いがある。

僕は神奈川に住んでいるので、海外へ行くときは、成田か羽田から飛行機に乗ることになる。

もちろん、神奈川からだと(たぶん東京に住んでいる人にとっても)、成田より羽田の方がはるかに便利だ。

家から近いし、アクセスも楽だし、お金もかからない。最近は羽田からも、世界各地へ行く飛行機に乗れるようになったし。

けれど、僕はできることなら、成田から海外へ飛び立ちたいと思っている。

それは、成田へ向かう道のりに、心を惹きつけるものがあるからだ。

画像1

海外の旅とは、いわば自分を主人公にした、ひとつの物語だ。

たとえ短い観光旅行でも、始まりがあり終わりがある物語……、それが海外の旅だと思う。

その物語の始まりには、2つのパターンがある。

旅の1ページ目から「第1章」として始まっていくパターンと、その前に「プロローグ」を置いてみるパターンの2つだ。

たぶん、僕には、海外の旅の物語は、できれば「プロローグ」から始まってほしいという思いがあるのだ。

そして、その「プロローグ」になってくれるのが、遠い成田空港へ向かう時間なのだと思う。

たとえば、羽田空港から海外へ飛び立つなら、旅はまさに「第1章」から始まることになる。

僕が羽田へ行く場合、横浜駅から京急線に乗るか、東口のバスターミナルからリムジンバスに乗る。

京急線で羽田へ向かう時間は、日常の延長線という感が強く、海外へ行く実感はあまり湧いてこない。

リムジンバスで羽田へ行くときは、もう少し非日常感があるにしても、旅立ちの気分が高まる前にあっという間に空港に着いてしまう。

そして羽田へ着けば、出国ゲートを抜けて、飛行機に乗り込んで、そうして旅の「第1章」が始まっていく。

でも、成田空港から海外へ飛び立つなら、旅の始まりはまったく異なるものになる。

成田へ行く場合、僕はいつも横浜駅東口のバスターミナルからリムジンバスに乗る。

羽田行きのバスと違って、成田行きの乗客の大半は、大きなスーツケースを手にしている。外国人の姿も見かけ、明らかに海外へ飛び立ちそうな人が多い。

バスは出発すると、すぐに首都高速へ入る。車窓にはみなとみらいのビル群、中華街、マリンタワーといった馴染み深い横浜の風景が流れ、そのうちにベイブリッジを渡っていく。

このルートは羽田行きのバスと変わらない。けれど、これから海外へ行く多くの乗客たちと一緒にいることで、見慣れた横浜の風景が、ふっと遠いものに感じられてくる。

やがてバスは羽田空港を通り過ぎ、東京の臨海部を走る。お台場、葛西臨海公園、ディズニーランド……、普段の生活では訪れない湾岸の風景が、非日常感をさらに高めてくれる。

千葉の都心部の街並みが車窓を流れる頃には、これから旅をする国に思いを馳せている自分がいる。

その国で見ることになる風景、歩くことになる街、出会うかもしれない人……、そんなあれこれを思い浮かべて、鼓動が静かに高鳴っていく。

あの町へ着いたら、まずはあの世界遺産を見に行こう。そしてお昼は、あの料理を食べたい……。夢見ていた国を旅する自分の姿が、もう目の前に浮かび上がっている。

バスは東関東自動車道へ入り、千葉の郊外を走るようになる。その風景を見ていると、しばらく日本を離れるんだ……と少し感傷的な気持ちになる。でもその感傷は、なんだか気持ちいい。

そして車窓には、豊かな田園風景が広がっていく。とりあえず成田へ着いたら、ひとまずチェックインカウンターへ行かなきゃ。そのあと両替をして、簡単な食事だけしようかな。その田園風景が合図みたいに、空港に着いたときのことを考え始める。

ふっと空を見上げると、飛び立っていく一機の飛行機が見える。あの飛行機は、これからどこへ向かうんだろう……?

いよいよだなぁ、と思う。自分もいよいよ、機上の人になる。この成田の空から、ずっと行きたかった国へ飛び立つんだ。

まだその国へ着いてもいないのに、それどころか飛行機に乗ってもいないのに、心の中は、確かな幸せに包まれている。

……きっと、それが僕の好きな、海外の旅の「プロローグ」なのだ。

旅という物語を、そんな「プロローグ」から始めたくて、いつも成田を目指してしまうのだ。

画像2

たぶん、「プロローグ」から始まることで、旅という物語の世界へ、すっと自然に入っていけるのだと思う。

成田空港へ向かう道のりは、僕を海外の旅へと、静かに後押ししてくれるのかもしれない。

それがどんな物語になるかわからないからこそ、そのページを捲っていく勇気を、いつもと変わることのない「プロローグ」が与えてくれるのだ。

ただ、旅の「エピローグ」だけは、つまり海外から成田へ帰ってきたときだけは、その遠さがちょっとだけつらくなる。

横浜までの道のりが退屈に感じられて、羽田空港が少し恋しくなる。

やがて車窓に、その羽田が見えてくると、次はここから飛び立つのも悪くないかも……と思う。

それでも僕は、新しい航空券を買うとき、つい成田発のフライトを探してしまうのだ。

そう、次に行く海外の旅も、あの「プロローグ」から始めたい。そしてまた成田の空から、新しい物語を紡いでいくのだ。

画像3

旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!