「人生で訪れた、最も南の場所」って、どこですか?
突然ですが、「人生で訪れた、最も南の場所」って、どこですか?
僕の場合、その遍歴を辿ってみると、こんな感じになる。
2008.12. 和歌山県、潮岬
2009.06. 沖縄県、波照間島
2010.12. 中国、マカオ
2012.03. シンガポール、セントーサ島
2014.06. アルゼンチン、イグアス国立公園
有名な地名が並んだ、この順調な「南」の遍歴が、この4月、聞いたこともない町によって、唐突に更新されることになった。
2019.04. ニュージーランド、ゴア
……というのも、僕が乗った長距離バスが、名前も知らなかったその町で、小休憩を取ったためだった。
その日、僕はニュージーランドの南島をめぐる旅の途上で、長距離バスに乗った。
出発地は南島第2の都市、ダニーデン。目的地は世界遺産ミルフォード・サウンドの玄関口、テ・アナウ。
ニュージーランドの長距離バスは、2時間に1回くらい、途中の町で停車して、30分ほどの小休憩を取る。
僕が乗ったそのバスも、途中の小さな町で、20分ほどの小休憩を取ることになった。
その町こそが、ゴア、だったのだ。
バスはそのゴアの中心地らしい、時計塔に面した通りに停車した。
他の乗客たちは、トイレに行ったり、バスの近くでぼんやり佇んだりしていたけれど、僕はいつものように、その休憩時間を利用して、町を散策してみることにした。
赤く色付いた木々が美しいゴアの町は、不思議なくらいに静かだった。
時刻は夕暮れ時のはずなのに、たまに車が通るくらいで、歩いている人の姿はほとんどない。
アーケードの商店街にはいろんな店が並んでいるけれど、開いているのかいないのか、どの店も閑散としている。
それでも秋の色合いに包まれたゴアの町は、とても美しかった。
町のはずれには石造りの小さな教会があって、その芝生には黄色い落ち葉が溢れんばかりに落ちていた。
そこに夕暮れの光が射し込むと、芝生は眩しいくらいに、きらきらと黄金色に輝き始める……。
きっとこの町は、観光地でもなんでもない、ただの田舎町なんだろう。
何もない町だけれど、いや、何もない町だからこそ、その風景に思わず心動かされた。
そのとき、あることに気がついた。
あれっ、もしかして、この町……。
スマホを出して、Googleマップを開いて、今いる場所の緯度を調べてみる。
このゴアがあるのは……、南緯46度だ。
そこからマップを東にスクロールして、イグアス国立公園の緯度を調べてみる。
イグアス国立公園の緯度は……、南緯25度!
なんとこのゴアは、今までの僕にとって、「人生で訪れた、最も南の場所」だったイグアス国立公園よりも、21度も南の場所だったのだ。
もちろん、ダニーデンよりも、テ・アナウよりも、このゴアの方が南にある。
……ということは、このゴアこそが、僕にとっての新たな、「人生で訪れた、最も南の場所」になったことになる。
それを知った瞬間、僕の心は震えた。
今いるこの町が、人生で辿り着いた、最も南の場所なんだ、と。
それはまさに、名前も知らなかった「なんでもない町」が、僕にとっての「特別な町」に変わった瞬間だった。
なんの変哲もない静かな町が、たまらなく愛おしい風景に見えてきた。
夕暮れの光も、涼しげな風も、降り積もった落ち葉も、すべてが美しく輝いているような気がした。
……そんな感慨に耽っているうちに、バスの出発時間が近づいてきた。
早足で戻ると、わずか数人の乗客を乗せて、そのゴアの町を、バスは静かに出発した。
車窓を流れるゴアの町並みを眺めながら、僕はこんなことを思っていた。
今日、このゴアという町が、僕にとっての、「人生で訪れた、最も南の場所」になった。
たぶん、次にそれが更新されるのは、南米のパタゴニアか、南極大陸にでも行ったときだろう。
もちろん、いつかそのときが来たら、このゴアという町は、「なんでもない町」へと再び戻ることになる。
でもそのときまでは、この小さなゴアの町は、「特別な町」であり続けるのだ……。
北へと進路を取り始めたバスに揺られながら、僕は思いがけない宝物に出会えたような気持ちで、いつまでもゴアの町を眺めていた。
旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!