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マレーシアで多文化ごはん、はしご旅

世界各国に住む物書きによるリレー企画、「日本にいないエッセイストクラブ」。この記事は、第3回目のテーマ「お腹が空く話」への寄稿で、3番目のエッセイは、東南アジアを回遊中のわたし、森野バクが担当します。
文末で、前回と次のエッセイストを紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いください。これまでの記事は、マガジンでご覧いただけます。

地元ごはん案内人口上

マレーシアの人と食事に行こうとすると、お店が決まるまでに格別に時間がかかるような気がします。食べることが好きな人はどこでもそうですが、「なんでもいいよ」では済まないから。

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まず聞かれるのは、料理の種類。食べたいのは、マレー料理か、インド料理か、中華料理なのか? それだけでは終わらなくて、選んだ料理のうちの「どの料理」が食べたいのか、きっと聞かれます。

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マレー料理にも地域によって名物料理があります。インド料理や中華料理は、マレーシアに移民してきた人の出身地の料理なので、タミール・インドなのかケーララ・インドなのか、はたまた広東中華なのか福建中華なのかで得意料理が違うわけです。

居ながらにして、いろいろな系統の料理が食べられて、しかも、日常的に食べている人向けだという意味で、どれも「本場」なのがマレーシアの料理の面白いところ。

新型コロナウイルスの流行で、旅がしづらくなりました。けれど、きっとまた旅を楽しむことができる日が戻って来るはず。初めてマレーシアにやってくるあなたを案内するつもりで、首都クアラルンプールの食事風景を書いてみます。

なにはともあれ、国民食のナシ・ルマ

ようこそ、マレーシアへ。遠いところを、よくおいでくださいました。
機内ではよくおやすみに慣れましたか? おなかは空いていませんか?
空港でも軽い食事ができますよ。

それでは市内にお連れします。まずはホテルにチェックインして、重い荷物を預かってもらいましょうね。

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朝早くて、まだお店は開いていないでしょうから、朝ごはんはホーカーズに行きましょうか。ひとつのスペースに屋台がたくさん集まっているところなんです。料理を見て決められるので、お好きなものを選んでいただければ。

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その、おにぎりみたいなのはナシ・ルマです。マレー料理を召し上がってみますか? 注文してきますね。

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はい、どうぞ。包んであるのは、持ち帰り用なんです。もちろん、ここでお皿の上に広げて食べてもかまわないのですけど。あ、その小魚、少ししょっぱいので、ごはんと混ぜてくださいね。赤いのは「サンバル」というチリソースです。辛いので、ご用心。

そうなんです、ごはんに独特な風味があるのは、ココナッツミルクで炊いてあるからです。少し脂っこいかもしれませんね。「ナシ」がごはんで、「ルマ」が「油」ですから、そのまま訳すと「油ごはん」ですし。

ナシ・ルマはマレー料理ですが、これは華人(中国系)もインド系の人もよく食べますね。肥満や糖尿病を減らそうという話が出るたびに、みんが大好きな、ナシ・ルマの高カロリーが話題になります。
たいていは、揚げた鶏肉や、テー・タリックという甘いミルク・ティーをつけるので、一食で1000カロリーを超えちゃうんです。日本でいうと、朝からとんかつ定食、みたいな感じでしょうか。

お疲れでなければ、少し歩いてみましょうか? この先に、イギリス領時代の建物が残っている地区があるので、ご案内しましょう。

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バナナの葉っぱでインドカレーを食べる

よく歩きましたねえ。お天気にも恵まれて、本当によかった。日が出て、少し暑くなってきましたね。

お昼はインド料理でいかがですか? この近くにインド人街があるんです。この地域は、マレーシアがイギリスの植民地だったころに、インド南部のタミールとか、ケーララから移民してきた人が多いものですから。そうです、インドも当時イギリス領だったので、同じ国の中を出稼ぎに行ったり来たりして、そのまま定住したわけです。

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バナナの葉っぱをお皿にした、バナナ・リーフ・カレーなんかいかがでしょう? 日本のインド料理は北のものが多いので、南部の料理はあまり見かけないと思います。

注文しました。よろしかったら、こちら流に手食を試してみませんか? 
そこの調理場の奥に手洗いがありますので。料理はすぐ来ます。

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右手の親指、人差し指、中指の先を使ってごはんをまぜて、口に運びます。カレーがほら、少しぬるいでしょう? 手食をするところでは、熱々のカレーは出てきませんね。やけどしてしまいますから。その代わり、舌だけではなく、指先の感触も味わいながら食べている気がしますよ。

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いろいろ食べたのですが、わたし、ここのお店のブリヤニが一番好きなんです。ほら、ごはんと一緒にシナモンやカレーリーフが入っていますよね。いろいろなスパイスと一緒に炊き込んでいるので、炊きあがりの時間に来ると、熱々の香り高いブリヤニが食べられるんです。今日はちょうどいい時間に来れてラッキーでした。

せっかくですから、この先のヒンドゥー教寺院に行きましょうか。
スリランカにあるお寺を模したものだそうで、きれいですよ。

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思ったより混んでいて時間がかかりましたね。すみませんでした。
少し距離があるのですけれど、飲茶がお好きと聞いたものですから。
こちらでは点心(ティムサム)といいます。

クアラルンプールの華人は広東出身の人が多いので、探せば美味しいお店があるんです。ここは中心から離れているのでガイドブックなどには載っていませんが、地元の人が頼むものがだいたいそろっているんです。ただし、コックもお客も広東人が多いので、店内の共通語は広東語なんですけどね。お茶は鉄観音かブーアールがありますが、どちらにしましょうか?

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ほら、後ろに大きな蒸籠があるでしょう? 開けて、どれでもお好きなものを選んでくださいな。指させば、2~3個ずつお皿に取り分けてテーブルにもってきてくれます。

え、蝦や豚肉がジューシーで、そのまま食べているみたい? 蝦餃(えび餃子)や、焼売は日本にもありますよね。でも、こちらの華人はえびも豚肉も、包丁で粗く刻むようにして点心に入れるので、食感がいいんですよね。味が落ちるので冷凍ものは使わない、というお店もあります。

地元の人は、豆鼓を使って豚のスペアリブを蒸した「鼓汁蒸排骨」や、上新粉のクレープみたいな「腸粉」をよく頼みますね。それと、メニューだとわかりにくいんですけど、「蒸鳳爪」は、華人が好きな鶏の足の蒸し物で、「腐皮巻」は湯葉で巻いた揚げ物です。

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うれしいなあ。飲茶はひとりだと、ちょっと頼みにくいんです。いつも二皿くらいでおなかがいっぱいになって、たくさんの種類は頼めないものですから。あ、デザートにエッグタルト(蛋撻)を頼んでもいいですか? 
ここはお店で焼いているので、美味しいんです。お嫌いでなければ、マンゴープリン(芒果布丁)はいかがですか?

今回の出張は、会議でいらしたんでしたね。明日の会議の場所は、どちらですか? 終わった後にお時間があるようでしたら、待ち合わせてお食事でも。よろしければ、おみやげのお買い物にもお供しますよ。今日は、マレー、インド、中華を食べましたが、明日の晩ごはんは何にしましょうね? 

【海外エッセイ募集】
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これまで決まったメンバーでリレーをつないできましたが、海外でのお話を書いてみたい方、ハッシュタグ「 #日本にいないエッセイストクラブ 」でご参加ください。メンバーが招待させていただくこともあります。


リレー企画の「日本にいないエッセイストクラブ」、前回のエッセイストはインドネシアの武部洋子さんでした。

なにしろ広ーいインドネシア。一口にインドネシア料理といっても、地方の名物料理がたくさんあるんですよね。この記事では、おいしそうなソロ料理のトゥンクレンを紹介してくださっています。炭火を使っている厨房の様子の写真がまたいいですね。

ソロの人と結婚したわたしの友達(本人はスラバヤ出身)は、会うたびにソロ料理がいかに美味しいかを力説します。また行きたいな、ソロ。

次回、4番手のエッセイストは、在アメリカのがぅちゃんさんです。前回は、ちょっと考えられないぐらい大変な状況での国際引っ越し体験を書かれています。

引っ越しは、何度経験しても楽なものではありませんが、国境をまたぐ引っ越しを、このウイルス禍でというのは、ほとんど想像を絶する難事業だったはず(さらに大変になったご事情あり)。大胆かつ細心でないと、八方から押し寄せるナンセンスをこうも華麗にはクリアできません。
次は、どんなセンスのよい食べものを教えてくださるのでしょうか? 
どうぞお楽しみに。

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このリレーエッセイ企画、これまでこんなテーマで寄稿しています。
 1巡目 お題 「はじめての」
 2巡目 お題 「忘れられない人」
 3巡目 お題 「思い出の一品」

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