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『追憶』

時が経てば忘れてしまうもの、といいますが。時が経たなくても覚えていないもの、だらけ。

昔の人って、虫は植物から生まれると思っていたんだって。蝦夷地の黎明を刻む揚羽蝶を見つけたら、あっと叫んで、追いかけて。結局ソレは空気に融けてしまう。
裏山の残雪が季節のパラメーター。短い春は冬の残り香。追い出されて、夏が始まった日付を、1個たりとも僕は挙げて見せられない。

僕は忘れないよ、と言った。君は覚えていたくない、と言った。忘れるとか覚えるとか、意のままなんて傲慢な!どっちみち手元のバイナリデータ次第なのでしょう。何年何月何日何時何分、何秒地球が何回回ったときに、君は改札機をぞんざいに扱ったっけ?

田舎のおばあさんは生まれた日を70年間ずっと間違えていたんだって、羨ましい。本当の自由を持ち寄って、記念日だって曖昧にできたら。揚羽蝶が植物から生まれて、空気に融けてしまったように。
叶わないから、僕らは金輪際会えません。キラキラの写真だって消さなくちゃいけない。大事な大事な過去だから、自由にしてやらないとね。

眠っている時間の高貴さは、何も不思議じゃありません。

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