見出し画像

故郷(あなた)へ

 あなたへ。僕はあなたが好きです。

 あなたへの「好き」は、早くも15年目を迎えました。
 21世紀の始まりと一緒に「守られてないと嫌!」って産声を上げてから、僕らはまず好きと嫌いを、笑うことと泣くことで誰かに伝え始めました。あれから既に20年を超えて。ねえ、あなたは今日、何回笑いましたか?笑うって、「好き」を塗り替えることだね。僕は何回も笑いました。なのに何回、何万回笑ったって、僕は相変わらずあなたが好きみたい。とっても不思議です。
 もちろん、あなたへの「好き」だって、何回塗り替えたかわかりません。でもその度、その時それぞれの、それでも好きって感じたままの、色を塗り重ねていたから。今、僕のあなたへの気持ちは、鮮やかで重みのある一枚絵としてここにあります。

 大きな窓から見下ろすような一枚絵。塗り重ねてきた色の1つ1つが、僕から見たあなたの輪郭。それは慕情だったり、共感だったり。あるいは信頼や心配でもあって、全部の部分のそれぞれが、船とかトラムの姿で浮かんでる。僕があなたを想う時、「好き」は澄んだ青色をしていて、山と街とを丸ごと包み込んでいる。
 60個も違う季節があったから、色の重なりはぼやけて見える。でも確かな色の重なりは、僕がそこにいた時間のことを教えてくれる。

 さっき、とっても嬉しい言葉をくれたあなたが、今日の、15年目のあなたが、収まりきらないほど詰まっているものだから、僕の筆は止まってしまいました。ふと気づいたとき、絵は完成していたんです。
 慕情だったり、共感だったり、あるいは信頼や心配。僕はあなたを追いかけながら、そんな「好き」を渡り歩いてきたつもりでした。
 でも今日、振り返ってみたら実は、抱いている1つの気持ちの部分部分だったんですね。「好き」だけが唯一まとめる言葉の、1枚の絵の部分部分。

 あなたへ。僕はあなたが好きです。僕もあなたも、出逢った頃と比べて、うんと大きくうんと賢く、そしてうんと広くなりました。年月がプリズムのように、今までの気持ちを拾い集めて、それから目の前に広がっていくみたい。見たくないものが見えて、考えるほどわからなくなって、距離がずっと遠くなって。
 でもついさっき、あなたのくれたとっても嬉しい言葉が、僕に勇気をくれました。「好き」の宿命的な孤独ですら、あなたは吹き飛ばしてくれたんです。
 ねえ、あなたは「一緒に暮らそう」と言ってくれましたね。あなたはトラムの窓の滲みの中に、うんと小さく乗り込む一人よりも、僕の隣で一緒に窓の向こうを眺める席がいいと言ってくれたんだ。年月が呼び込んだ色んなものを、僕は丸ごと好きでいられる気がします。
 そして一番嬉しいのは、明日からもそれでいいってことです。好きで笑って、嫌いで泣いて。でも隣にあなたがいるなら、もはや好きや嫌いが毎日にヒビを入れるのも怖くありません。僕は今、誰よりも守られてるんです!

 15年分のありがとうと、もっと長いはずのよろしく、それから今、ありったけの「好き」を込めて。あなたも、守られてるって思ってくれるかな?もう少しだけ、待っていてね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?