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杏里80年代名作アナログ盤リイシュー - 未発表原稿

この原稿は2023年6月に某社より依頼を受けて執筆しましたが、諸事情により使用しないことになりました。そこで依頼元に許可を取り、個人の原稿としてこちらに掲載することにしました。杏里が80年代に残した素晴らしい作品群のガイドに、お読みいただけると幸いです。

杏里のエバーグリーンなサマー・ポップ

ここ10年くらいの間で、国内だけでなく世界中から注目を浴びている日本のシティポップ。主に70年代後半から80年代にかけてのきらびやかで都会的なポップスは、時空を超えて音楽シーンを輝かせている。その中で、一際強い光を放っているのが、杏里が80年代初頭に発表した作品群だと言ってもいいだろう。この度、再評価の高まりを受けて、『Heaven Beach』、『Bi・Ki・Ni』、『Timely!!』、『COOOL』の4タイトルがアナログレコードでリイシューされる。

杏里『Heaven Beach』

1982年11月21日に発表された『Heaven Beach』は、この4作に通じるクリエイター、角松敏生とのコラボレーションが始まった記念碑的な作品である。3曲のみの提供だが、なかでも究極のメロウ・チューン「Last Summer Whisper」は海外アーティストにサンプリングされるなど再評価が高まっている。他にも小林武史やブレッド&バターなどが楽曲提供し、杏里本人の詞曲もフィーチャー。瀬尾一三が手掛けたアレンジもバランスのいい傑作だ。

杏里『Bi・Ki・Ni』

1983年6月5日に発表された『Bi・Ki・Ni』は、前作の夏路線をさらに推し進めた一作。そしてA面すべてを角松敏生が詞曲とアレンジを手掛け、B面には小林武史と佐藤準が全面サポートという豪華なプロダクツに魅了される。「Good Bye Boogie Dance」や「Lady Sunshine」などダンサブルな楽曲が目立ち、スポーティーで健康的な杏里のイメージは本作から始まったと言ってもいいだろう。


杏里『Timely!!』

1983年12月5日発表の『Timely!!』は、「CAT'S EYE」と「悲しみがとまらない」という杏里の代名詞といえる2大ヒットを収めた誰もが認める代表作である。高揚感に満ちた「WINDY SUMMER」や林哲司によるバラードの名曲「YOU ARE NOT ALONE」といった人気曲も多数収録。角松敏生が全面的にサポートを務め、サウンド面においても杏里の存在感を知らしめた。一枚選ぶならまずは本作をお薦めしたい。


杏里『COOOL』

1984年6月21日発表の『COOOL』は、前作に引き続き角松敏生がトータルプロデュースを担当しLAで録音された。冒頭のファンキーな「BRING ME TO THE DANCENIGHT」と「GONE WITH THE SADNESS」」がノンストップでつながっており、当時のディスコ・カルチャーが背景に見える。シングルヒットした「気ままにリフレクション」が収められているが、全体的にブラック・コンテンポラリー色が濃厚な意欲作だ。

杏里の長きに渡るキャリアにおいて、「オリビアを聴きながら」に代表される70年代末の初期作品や、90年前後の「SUMMER CANDLES」や「スノーフレイクの街角」、「ドルフィン・リング」といったタイアップ・ヒットなど、何度も大きなピークを迎えている。しかし、現在のシティポップ・リバイバルの流れにおいては、やはり今回リイシューされる80年代初頭の4作こそ今聴くに値する名作群といっていいだろう。しかも半年に1枚ペースでこれほど質の高いアルバムを生み出していたことに、今さらながら驚愕させられる。この機会に、真夏の陽光や波間のきらめきを思い起こす、杏里の輝かしくもエバーグリーンなサマー・ポップに触れていただきたい。

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後記

杏里に関しては、下記のような関連記事もありますので、ぜひ合わせてお読みください。

<コラム>シティポップ・ブームを紐解く重要な存在、杏里のデビューからブレイクまでの足取り|Billboard JAPAN

https://www.billboard-japan.com/special/detail/3501

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