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旅する音楽 4:サディスティック・ミカ・バンド『黒船』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年1月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

海外の友人たちに聴かせたニッポンのロック

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サディスティック・ミカ・バンド『黒船』

 僕はあまり社交的な性格ではないのだけれど、旅先で簡単に仲良くなるツールがある。それは音楽だ。旅の道中に知り合うのは、なぜかいつも各国の音楽好き。ボリビアの絶景スポットであるウユニ塩湖では、フランス人とリャマのステーキにかぶりつきながら音楽論を交わしたし、マレーシアのペナン島にある安宿の中庭でビールを飲んでいたときは、イスラエル人から彼の国のクラブ・シーンについてちょっとした講義を受けた。そして、熱い会話で盛り上がったあとは、たいてい「日本のナイスな音楽を教えてほしい」と頼まれる。そんなとき、僕は黙って『黒船』を聴かせることにしている。

 サディスティック・ミカ・バンドは、もはやロック・ファンには説明不要だろう。70年代を代表するロック・バンドであり、加藤和彦、高中正義、高橋幸宏、小原礼といった一流ミュージシャンの集合体でもあった。1974年に発表したセカンド・アルバム『黒船』は、その名のとおりペリー来航をテーマにしたコンセプト・アルバムで、オリエンタルなテイストと当時のブリティッシュ・サウンドが融合されている。ポップな「タイムマシンにおねがい」が収録されていることで知られているが、ほかの楽曲も素晴らしい。神秘的で美しい「墨絵の国へ」の導入部から一気に引き込まれ、組曲形式のインスト・ナンバー「黒船」の展開に感嘆し、和風テイストが楽しい「どんたく」でつい笑顔になり、ファンキーな「塀までひとっとび」では踊りたくなってしまう。本作は当時英米でも発売されているので、外国人受けがいいのも納得の名盤なのだ。

 新年を迎えると、これまでの旅に思いを馳せることが多い。そして、『黒船』を聴かせた友人たちは、今頃どうしているのだろう、とよく思う。もしかしたら、遠い空の下でまた誰かと音楽談議をしているのかもしれない。日本の音楽の話になったら、僕のことも思い出してくれるだろうか。僕が『黒船』を聴くたびに、彼らと過ごした記憶が蘇よみがえるように。

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