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旅する音楽 13:マーク・アンソニー『3.0』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年10月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

サルサ・ダンスはラテン美女と

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Marc Anthony『3.0』

 ラテンの男になってやろう。そう思ったわけでもないのだけれど、10年ほど前に中南米への長旅に出た。しかし、なかなかそう簡単に変身はできない。日焼けもしたし、多少のスペイン語もしゃべれるようになった。でも、やっぱり何かが足りない。そして、美女とサルサの国・コロンビアへ流れ着いたときに気づいたのが、「ダンスを踊れるようにならなきゃ!」ということだった。たまたま同じ宿にいた日本人旅行者を誘い、一緒にプロのダンサーからプライベート・レッスンを受けることになった。これで僕も、数週間後にはコロンビアーナをくるくると回らせながらセクシーに踊っていることだろう。

 そのときに頭に思い浮かべていたのは、シンガーのマーク・アンソニーだ。プエルトリコ系アメリカ人の彼は、サルサというよりもラテンミュージックの世界におけるトップスターである。サルサのミュージシャンというと、強面でワイルドなイメージが強いが、彼はちょっと違う。もちろんマッチョでワルな雰囲気ももち合わせている。だがその一方で、母性本能をくすぐられるような繊細な歌声とルックスによって人気を得た。ごく最近のヒット作であるアルバム『3.0』を聴いてもわかるが、楽曲もポップでわかりやすいし、何よりも声の色気や情感が豊かで、女性なら間違いなく惚れてしまうといってもいいほどかっこいい。さすがは絶世の美人女優ジェニファー・ロペスと婚姻関係だっただけのことはある。まさにラテン男の成功者の鑑と言ってもいいだろう。

 さて、肝心の僕のサルサ・ダンスはというと、皆さんのご想像どおり。先生の華麗な身のこなしにはまったくついて行けず、ペアで踊るどころか延々とステップの練習に明け暮れ、筋肉痛に悩まされたまま、あえなく挫折。ニヤニヤしながら妄想していたマーク・アンソニー化計画は、残念ながら大失敗に終わる。そんなこともあって、今も彼の歌声を聴くと、美声に酔いながらもほろ苦い気分に浸ってしまうのが、ちょっと悔しい。

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