見出し画像

愉快な沈没船「グラサンズ号」に乗って


「元気なき乾杯」


2023年7月28日、金曜の夜。
グラサンズの久しぶりのスタジオに向かうべく、僕はエレキギターと一週間分の疲労を連れて週末のアメリカ村を歩いていた。
大阪の若者たちの最新のファッションやカルチャーが集う街。この街に紛れて歩くだけで、くたびれた中年の自分さえ現在の音楽シーンやカルチャーの一旦を担えているような気分になり、スタジオに向かう自分の背筋が伸び、肩で少しだけ風を切っているのがわかる。
コンビニで酎ハイを買い、スタジオに向かう。この日は、群馬に移住したこうちゃんはいないし、ヨシケンはスケボーに乗ったまま姿を消したけど、8月から始まるグラサンズ東名阪ツアー告知配信の名の元に、ぞろぞろと久しぶりの面々が揃った。

スタジオの使用可能時間になるとセッティングでなく、まずは一服と乾杯が始まる。花金に似つかわしくない元気のない乾杯。みな過労で老化が進んでいるのか、会うたびにメンバーから漏れてくるのは覇気ではなくため息。すっかり老け込んでいる。
年齢を重ねるごとに苦労と疲労は蓄積され、暮らしに追われ、気がつけば楽器に触れることさえ非日常のような日常をおくっているメンバーたち。酒が入るとようやく会話が弾みだす。心弾むような話題はない。健康や不況の話、それぞれの近況など。会話を掘りすすめても明るい話は出てこない。でもなぜか笑いは絶えない。みんな馬鹿でよかった。
死んだ魚の目をしたメンバーたちは、2杯目あたりでようやく生気を取り戻し始める。

いつまでたっても機材慣れしないメンバーと牛歩でセッティグを済ませ、もう一服してから配信開始。
呑みが足りないというより、疲労がたまっていたせいか、酔っ払い加減が微妙で、電波状況も演奏内容もそれに引っ張られたような配信内容だった。
1・2・3・4で揃わない楽器。イントロを聞いても思い出せない曲名。楽曲の核となる歌詞をとばすボーカル。ミスをネタにする余裕もない素人感丸出しのステージ。唯一よかったのは、じゅんじゅんのMC「東京には素敵な店があります」だった。
グラサンズのライブにはたまにあるヌルっとした敗北感。この敗北感は、ツアーを控えたグラサンズにとって、いい夏の宿題になるではないかと感じた。



「漂流準備」

配信後、これから始まるツアーに向けて、みんなで真剣に話し合う。、、、って、そんなわけがないのがグラサンズ。
ツアー先々でのお楽しみの検索に夢中。
名古屋、東京でええ感じの呑み屋に行きたい!(みんな教えてね)
屋根のあるところで寝たい!( APAホテル、VR付きの試写室、人んちで雑魚寝、満喫などそれぞれ検討中)などなど。
とにかくツアーは旅行気分。しかし計画性のないグラサンズ。段取りは悪い。
移動手段も迷走気味で「特急アーバンライナーが好き」という理由で車に乗らないやつ。「車種は10人乗りのグランドキャビンじゃないと車移動は無理」というわがままなやつ。結局、名古屋移動は車チームと、電車チームに分かれる。東京移動は、スケジュールの都合で全員新幹線になる可能性が浮上しており、バンド貯金の底が見えかけている。

スタジオを後にして、安居酒屋で終電まで呑み直す。変わり映えのない日々を過ごすおっさんたちの会話はすぐに底をつく。注文した島らっきょに実がついてないだの、マグロが冷凍だの、スーパー玉出の弁当が美味くて安いだの、合コンではとてもお披露目できないしょぼくれた会話をアテに呑み続ける。最終的には塩をアテに酎ハイをおかわりする男たち。会計を済ませ、帰路につく。


「この居心地にいつまで身を任せられるだろうか」
一人きりになり、近頃感じていることが頭をぐるぐるする。


グラサンズという愉快な沈没船に乗り込んで、もう15年以上経つだろうか。ポンコツクルーたちといくつもの航海を経て、たくさんの後悔を重ねてきた。どの方角へ舵をきっても、振り出しに戻り、どこにも辿り着かない船。グラサンズ号は、ツアータイトル通り「漂流」する船だった。もはや沈まないだけで立派だと褒めたくなるほど、グラサンズのハードルは低くなりつつある。
だが、このグダグダがいつまでも続けられるほど我々は若くない。精神も肉体もいつ病んでもおかしくない。そんな年齢になった。
こうちゃんが大阪を離れ、グラサンズの核でもあったヨシケンが演奏に来なくなり、バンドの終焉が脳裏をよぎる回数も増えた。
このまま我々は、初期衝動で得た血流に頼り切って、クリエイティブ脳が萎縮していることにも気づかず、辞めるタイミングを失ったありきたりのオヤジバンドとして延命を続けるのだろうか。それとも港にイカリを下ろし、いさぎよく船を降りるのだろうか。
ステージや控え室で殴り合いの喧嘩をするほど個性をぶつけ合うことのできたバンド。メンバー内に生まれた酒くさい情に流され、バンドを続けたいと願うことは必然ではある。だけどそれは芸術のあるべき姿だろうか。妥協や馴れ合いで続ける音楽表現が個々の感性を豊かにするだろうか。
問われてもない問いに追われる夜。グラサンズらしくない。

きっと呑みが足りなかったせいだろう。



「いざ!沈没!」

ツアーに際しての予算管理やスケジュール調整を行いながら、その費用対効果でも色々とモヤモヤしていた。果たして、このバンド活動がポンコツクルーの生活の一部を削ってまで行う意味はあるのか。多忙で会う機会が少なくなるほど、他人の事情を勝手に想像してしまう。
ツアーに関する連絡の時、グループLINEで夏のツアーをどんなものにしたいかメンバーたちに尋ねた。その返答の一つが僕の心の底に引っかかっていたイカリを引きあげてくれた。

「赤字でも楽しいけりゃいいやん。」

妙にスッキリしたドラム家本の返答を受けて、勝手に他人の人生を背負い込もうとした自分を馬鹿らしく思うことができて有り難かった。我々が積み上げてきたバンドの歴史なんて、語り継ぐ価値がないくらい薄っぺらい。得たものより失ったものの方が多い借金バンドが、いまさら綺麗に終わろうなんて虫が良すぎる。
そもそも我々が乗ってる船は愉快な沈没船「グラサンズ号」だ。

ーー『この船はいずれ沈没する設計になっております。楽しさはお約束いたしますが、未来は保証いたしかねます。』ーー

思えば、そんな架空の誓約書に暗黙の了解を得て、我々は集まったように思う。ならば、海底に沈むまでグダグダの航海を続け、奏でながら呑み続けるだけだ。
今現在グラサンズ号が、どのあたりまで沈没しているかはわからない。もしかしたらもう腰あたりくらいまで浸水していて、あと何年かしたら身動きできなくなるかもしれない。そしたら、今回の思いつきのようなツアーだって組めなくなるだろう。バンドはいつだって危機にある。だからメンバーが揃ってライブできることはいつだって奇跡なんだと思う。
かつて映画タイタニックで、座礁した船が沈むその瞬間まで奏でていた音楽家がいたように、我々も人生が沈没するその日まで、無様でも滑稽でも音楽を奏で続けられたら、それは最高の喜劇だ。
バンドの命が終わるその瞬間に「ああ、くだらなかったなぁ」と笑いながら成仏することができたら、グラサンズをやってきて本当に良かったと思えるかもしれない。

考えの風向きが変わり、近頃のモヤモヤが少しだけ晴れた気がした。億劫なツアー準備は、楽しみな作業となった。

8月のほろ酔いの中、出航の合図を出す。

いざ!沈没!!!


「グラサンズのこと」



約4年ぶりとなる東名阪ライブツアー。この4年でメンバーたちにも色々な変化や紆余曲折があった。

ボーカル田渕は脱サラ。ベースよしけんはスケボーの方が楽しいと演奏拒否。近年は、イカレ古着マニアのアッキーがベースを担う。フィドルの社長の個人預金は時には50円に。クラリネットけいごは自暴自棄から子煩悩へ。マンドリンこうちゃんはギター職人から木こりに。ピアニカさえつは泣きながらPayPayで納税。ウォッシュボードじゅんじゅんは難波呑みから西成呑みに。ドラム家本は家でゆっくり過ごすことに徹するために遂にスタジオ練習に来なくなった。物販売りのキム兄は彼女であるバイクをカスタマイズする資金を稼ぐため、フィドルの社長の会社のガチ社員となった。

グラサンズという馬鹿騒ぎの前後には、呑まなきゃやってられない厳しい現実があったりする。それでもメンバーたちはグラサンズの場では愚痴をこぼさず、酒をこぼすほどの馬鹿騒ぎに徹する。
これから始まるツアー。ノンアルコールでも酔っ払ってしまうようなグデングデンの演奏をお届けに行くので、是非遊びにきてほしい。
そして、相席居酒屋のようなグラサンズのライブ空間で、泣いたり、笑ったり、怒ったり、転んだり、恋したり、喧嘩したり、たくさんの感情と乾杯をしてほしい。そのためにグラサンズは血だらけの予算を握り締め、酒の席をご用意します。

『開けたボトルの数だけ今日は夢心地で、酔っ払って目が回って石につまづく。(グラサンズ名曲「再会」より)』

皆様のお越しを心よりお待ちしております。




〜グラサンズ東名阪ツアー「漂流」詳細〜


ライブ情報


物販情報

◼︎ 8/6(日)@名古屋Tokuzo

グラサンズ東名阪ツアー2023
「漂流〜名古屋編〜」

Live
グラサンズ
タペタムズ
良元優作

17:00open/18:00start
予約3000円/当日3500円
(+1オーダー)

【ご予約】
✉︎ mail@tokuzo.com
☎︎ 052-733-3709
https://www.tokuzo.com/2023Aug/20230806


◼︎8/13(日)@代官山晴れたら空に豆まいて

グラサンズ東名阪ツアー2023
「漂流〜東京編〜」

Live
グラサンズ
チャッキーズ

12:00open/12:30start
前売3000円/当日3500円(ともに+1drink代要)

◼︎ご予約
晴れたら空に豆まいて専用Peatix
https://peatix.com/event/3643264


◼︎8/26(土)グラサンズ東名阪ツアーファイナルln大阪

ムジカジャポニカ17th後の祭りスペシャル!
『ムジカで同じ穴の狢〜グラサンズ×ヨダカノホシ』

18:00open/19:00start
前売3000円/当日3500円(共にドリンク代要)

ご予約
https://musicaja.info/9385



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?