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本当は怖くない催眠術

エ〇漫画以外で、ほとんど聞かなくなった「催眠」という言葉。

怪しい道具や話術で人を騙し、思いのままにあやつる……

まごうことなきスピリチュアルであり、関わらないほうが良いものであるというイメージを持っている人が大半だろう。

しかしこの本は、そうした催眠に対する間違ったイメージを、みごとに払拭してくれる。それだけでなく、トラウマの克服や、学習の効率化など、今までの催眠のイメージからは見えてこなかった、新たな神秘性にも気づかせてくれるのだ。

今回はそんな催眠術について書かれた、ちょっぴり怪しい、けど興味深い『催眠のすべて』という本を紹介していこうと思う。


催眠に向けられる偏見と間違い

最大の誤解

催眠における最大の誤解、それは「どんな命令でも実行させることができる」というものである。

おそらくR-18漫画の影響だろうが、催眠はそんなに万能なものではない。

いくら深い催眠に入ったとしても、その人が望まない行動を実行させることはできない。極端な例だが、催眠状態の人をあやつって、殺人や盗みをさせることはできないのだ。そもそも、催眠によって何か具体的な行動をとらせること自体、非常に難しい。

催眠ショーのトリック

催眠にこのようなイメージが付与されているのは、舞台上で行う催眠ショーの影響もあるだろう。催眠という言葉を聞いて人々が思い浮かべるのは、だいたい催眠ショーの場面だからだ。

催眠ショーは、完全なインチキではない。しかし、いくつかのトリックが仕込まれていることには注意するべきだ。

まず彼らは、催眠をかける人を無作為に選んでいるように見えて、実際は催眠にかかりやすい人をしっかりと選んでいる。具体的な方法としては、やってみたい人はいないかと呼びかけ、何人かを舞台に上げたあと、こんなに大勢は扱えないからと言って、催眠のかかりやすい人だけを舞台に残すのだ。

自ら舞台に上がるような人たちは、前向きな気持ちで臨んでいるので、積極的に催眠家の言われたことに従う。もちろん不愉快な暗示は行わないので、催眠を受けつけないといったこともない。

疑ってかかっている人は、最初の段階で舞台から降ろしてしまうので、催眠の成功率はかなり高くなる。これらのトリックが、舞台上であっと驚くパフォーマンスを成功させる、催眠家のからくりだ。

彼らの催眠に誘導する能力が高いことは間違いないが、あくまでも舞台向きの能力であって、本来の目的とはかけ離れたものである。催眠について理解するためには、こうした催眠ショーと、一般的な催眠術を分けて考えるべきだ。

催眠の本来の用途とは?

催眠の目的について説明する前に、催眠と暗示の違いについて話しておく必要がある。

そもそも催眠の目的は、暗示をかけやすくすることである。

催眠がデバフで、暗示が攻撃と考えてもらうとわかりやすい。そのままでは暗示という攻撃が通りにくい相手も、催眠というデバフをかけることで、攻撃が通りやすくなる。

ただ、これら一連の行為を催眠と呼ぶこともあるので、催眠というグループの中に、暗示があるとイメージするのが正しい。厳密には、暗示も催眠の一種なのだ。

ではここから、催眠の本来の用途について話していこう。催眠の用途は、ざっくりいうと医療行為である。病気を治したり、トラウマを克服するのを、催眠は助けるのだ。それ以外にも、学習能力の改善や、減量や禁煙などにも応用することができる。

催眠による医療行為

催眠が麻酔薬の代わりに?

この本ではまず、催眠が麻酔薬の代わりになると述べられている。

驚くべきことだが、麻酔薬の代わりに催眠を用いることで、治療時の痛みを無くすことができた事例がいくつもあるのだ。こうした医療行為は、催眠麻酔と呼ばれる。

麻酔薬の代わりに催眠麻酔を使う目的は、主に2つある。

1つ目は、麻酔薬が手元に無いときだ。麻酔薬が開発される前の時代や、災害時で薬が無いときなどは、麻酔薬を使うことができない。そうした場合において、催眠麻酔は大いに役立つ。

2つ目は、催眠薬を使うことで体に悪影響が出てしまう場合だ。体質的に麻酔薬を受けつけない人には、麻酔を使うことができない。また、出産時に麻酔薬を使用することで、胎児の健康を害するのではないか、と考える人もいる。このような人たちにとっても、催眠麻酔は有効な手段である。

嘘か本当か、癌に侵された片目を摘出する大手術で、催眠麻酔を用いたところ、その患者のもう1つの目は、手術の間まばたきもせずに見開かれたままであった、という証言がある。

それほどまでに、催眠麻酔の効果は絶大なのだ。

隠れたトラウマの克服

催眠の効果として、過去のトラウマを克服できるというものがある。

私たちは、小さい頃の出来事や、昔に体験したことなどは、ほとんど忘れてしまっている。しかし、私たちの下意識(無意識)は、そのすべてを鮮明に記憶しているのだ。

催眠によって、それらの記憶を思い出させることができる。さらに、トラウマの原因となっている記憶を明らかにすることで、トラウマを克服することも可能となる。

具体的な方法としては、振り子を持たせ、揺れる方向によって「イエス」「ノー」という回答を割り振る。左右に動かすと「イエス」、前後に動かすと「ノー」のように決め、振り子を自由に持たせる。

そうすると、振り子を動かそうと思わなくても、必ずといってよいほど振り子がゆれだす。

この状態で、イエス・ノーで答えられる質問をし、トラウマの原因を明らかにしていくのだ。そして、トラウマの影響は今の自分には関係ないと言い聞かせ、そこからの解放を目指す。

催眠を使わないほうがいい場合

良かれと思って行った催眠が、望まぬ効果を引き起こしてしまった事例がある。

ひどく太り過ぎた婦人に、医師が「正常な体重になるまで、余分なぜい肉はぐんぐん落ちていく」という暗示を与えた。催眠のおかげで、婦人はたしかに痩せることができたが、体重が80ポンド(約36kg)減った時点で自殺してしまった。

自殺した婦人は、太ることに何らかの心理的必要性があったのだろう。痩せてしまったことでその安定性を失い、現状に耐えきれなくなってしまったのだ。

ここまで極端な例でなくとも、神経衰弱の人や精神病になる危険がある人に対して、催眠は行わないほうが良いとされている。

自己催眠

自己催眠のやり方

ここまで、催眠に医療効果があることを簡単に述べてきた。しかし、医師から催眠治療を受けたり、催眠家のもとに行くことはそうそうない。そこで、1人でもできる自己催眠のやり方について話そう。

自己催眠で一番大事なのは、リラックスすることだ。邪魔が入らない場所で、窮屈でない恰好をし、座る・寝転ぶなどの楽な姿勢をとることが望ましい。

そして、2~3回深呼吸をして、壁のシミやドアの取っ手など、特定のものを凝視する。それが済んだら目を閉じて、目を閉じて、もう一度深呼吸する。

その後、心の中で「力が抜けた。ほーら」などの言葉を3回唱える。

最後に、足の指から少しずつ上の部分へと、順番に力を抜いていく。最初に筋肉を緊張させてから力を抜くと、より効果的となる。

催眠から覚めるときは「さあ今覚めようとしているのだ」と思いながら、ゆっくりと数を3つまで数える。そうすると、目が覚めた時にはすっかりリラックスし、心は晴れ晴れ、頭もすっきりする。

自己催眠には、ある程度の練習が必要である。初めの3, 4回は結果を度外視して、軽い催眠に入っていると考えればよい。

過去の出来事を思い出すには

自己催眠によっても、過去の記憶を思い出すことができる。しかし、すぐに昔の記憶を思い出すのは難しいので、まずは最近の出来事を思い出す練習から始めるべきだ。

たとえば、最近外食した体験を思い出してみよう。ここで大事なのは、あたかも自分が、その出来事を再体験しているかのように考えることだ。

「私はこれから昨晩、ディナーの席に着いた時に戻っていく。ゆっくりその時に戻っていく。さあ昨晩になった。私はディナーの席に着いている。その時の情景がだんだんはっきりしてくる。私の目にははっきり、ありありと見える。」

『催眠のすべて』p109

このような暗示をかけ、目の前のテーブル、皿の上の食物などを思い浮かべる。コーヒーの香りや、指で感じたカップの感触、温かさなど、詳しいところまで思い出すのがよい。

そして、隣や向かいに座っている人の服装や、話している内容などを思い出す。このようにして、五感をフルに活用した想起を行うのが、思い出す力を高めるコツになる。

それができれば、今度は4~5歳ぐらいの印象的な出来事に戻る練習をする。具体的な時期を思い出すよりも、情景を鮮明にすることに意識を傾けるとよい。

これを繰り返せば、咲に述べたトラウマの克服にも応用できるようになる。

学習と催眠

速読を可能にする催眠

本を読むスピードは、読書体験を重ねるごとにあがっていくが、どうしても限界がある。そこで、催眠を使った読書法の出番だ。心の中で次のように唱えることで、読書のスピードを上げることができる。

「催眠中に勉強し、本を読むといつもより速く読める。リラックスし、集中力が増すからだ。リラックスしながら頭は非常にはたらく。勉強していて無気力になっていくということが全然なくなる。読んでいるうちに私の目の動きは速く、ページをめくる私の手や腕の動きは速い。ノートを取る時も速くはっきりと書く。私の下意識が、私の勉強しているものの中から、いちばん肝心なことを選び出してくれるから、私の書くことは本当に役に立つことばかりだ。催眠中の学習と読書中、私の頭は最高によくはたらく。」

『催眠のすべて』p142

いささかおまじないに近い気もするが、試す価値は十分にある。そもそもおまじないも、言ってみれば自己催眠の一種なのだ。

「イメージ・リハーサル」で効果的な復習を

授業を受けた後などに「イメージ・リハーサル」を行うと、記憶の定着を促すことができる。

イメージ・リハーサルというのは、教室にいるとか、試験を受けている情景を、催眠中に心の中に描く手法だ。

この方法で記憶力が向上することは、実験でも示されている。実際にこのイメージ・リハーサルを行った学生は、授業中以外に復習をしなくても、最終のゴールに達することができた。対照群では、数人しか達成できなかったにも関わらずだ。

催眠状態で講義を受ける

自己催眠を習うと、なんと催眠状態で講義を受けることができるようになる。

講義を聞きながら頭が機敏にはたらき、耳にすることがよく吸収できると暗示する。ノートを取る時には、下意識が大事なことを選び出してくれるから、完璧なノートがとれると暗示する。

こうすることで、学習効果を大きく高めることができる。催眠に入るため、あなたが目を閉じていたとしても、見ている人はちょっとの間精神を集中しているだけだと思うだろう。

試験前に一夜漬けするよりも、催眠状態を上手く活用して、授業中にちゃんと勉強することができれば、少ない努力でよい成績をあげることができる。

催眠とうまく付き合っていくために

催眠は瞑想と似ている?

最近、といっても少し前だが、仏教の「瞑想」が、日常生活や仕事の場で取り入れられるようになってきた。リラックスしたり集中力を高めるといった瞑想の効果が、広く知られるようになってきたからだ。

催眠も、これと同じようなものだと思う。催眠について深く理解しようとするのではなく、いいとこ取りをすることで、催眠の効果を日常生活に活かすことができるようになる。

偏見を取り払う

今まで紹介してきたように、催眠というのは、体に害が及ぶものでもなければ、危険なものでもない。催眠は立派な治療で、催眠家はあなたの味方だ。

催眠への偏見を適切に取り払うことで、催眠が持つ効果を活用することができる。

自己催眠は、今日からでも試せる安全で効果的な催眠術だ。ぜひ試してみて、QOL(生活の質)をあげてみてはどうだろうか。

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