青森で、祈祷師をしています。 祈祷師暮らしのエッセイ、神様や精霊、幽霊から聞いた話を物…

青森で、祈祷師をしています。 祈祷師暮らしのエッセイ、神様や精霊、幽霊から聞いた話を物語にしています。 『今日もいち日、かみさま日和』https://ameblo.jp/roxizy/には、書ききれなかったお話ばかりです。 祈祷師の日常や、不思議な話をお楽しみください!

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神様好きのいわれ少々と処女作

私はずいぶん、疑り深い。 石橋を叩いて、叩いて、叩き壊したあげく、 「橋が壊れちゃ仕方あるまい。」 壊れた橋の袂で、次の橋を探す。 間違っても、 「橋がなければ作るか!」 こんな熱いパッションは持っていない。 道無き道を作ろうなんて、思ったこともない。 その私が、祈祷師になった。 齢三十と幾年。 他は知らないけれど、青森では若いほう。 つまり、三十路の祈祷師は道無き道だ。 祈祷師になる前は、至極現実的な仕事をしていた。 学歴もそこそこで、黙って働いていれば食いはぐれるこ

    • 疫病神-肆-

      「誰も私を助けてくれない! 皆、自分勝手に私を使って面白がって、自分勝手に私から離れて行く。 私の人生、こんな事ばっかり。 いつも自分勝手な人間に、私ばっかり振り回される。 どうして誰も私を助けてくれないの? どうして私を分かって、傍にいてくれないのよ!」 『言ったろう? お前さんの周りに集まってくる人間は、ぜぇんぶお前さんの鏡だって。』 老夫は優しく、香織を諭しました。 『お前さん、ここが正念場だよ。 ここで自分を顧みなけりゃ、一線を超えちまうよ。』

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      • 疫病神-その参-

        『例えば、お前さんが三日前に批判した龍神使い。 あの男は、お前さんのブログのせいで、家から出られなくなっている。 このまま鬱々とし続けりゃ、病院のご厄介になる事もあるだろう。 お前さんが、ひと月前に責めた占い師はもっと酷い。 あの占い師は、ブログでお客を集め生計を立てていた。 コロナで失業。 自宅には、介護が必要な年寄りと、病気がちの幼い子どもがいる。 再就職先はなかなか見つからず、自宅で出来る占い家業で何とか暮らしていたわけだ。 それなのに、お前さんのせいで

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        • 疫病神-その弐-

          でもそんな香織に対し、「あなたそれ、間違ってますよ?」と教えてくれる人はいない。 そればかりか、意見を同じくする人も沢山集まってきて、香織には友達まで出来た。 こうなると、もう死ぬなんて思わない。 毎日が楽しくてしょうがない。 【スピリチュアルブームの中、多くの人が何の考えもなしに霊能者やスピリチュアーの言うことを妄信しています。 でも、香織さんのように勇気を持って異を唱えてくれる人がいて本当に良かった。 ブログを書いてくれてありがとう! 私も、スピリチュアルを

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        神様好きのいわれ少々と処女作

          🌸疫病神-その壱-

          「あぁもう,つまらない。生きてる気がしない。私の空しさなんて、誰も分かってくれやしない。いっそのこと、死んじゃおうかな。」 首吊りが良いか。 いつも飲んでいる薬を、一度にたくさん飲んだら楽に死ねるか。 あれやこれやと算段していると、ふとパソコンが目に入った。 この香織という女、暇さえあればネットばかり見ている。 「死ぬ前に、もう一回だけブログをやってみようかな。」 ブログと言うのは、インターネット上で書く日記のようなもの。 自分のブログには、基本的に何を書いても

          🌸疫病神-その壱-

          🌸疫病神-まくら-

          えー…誹謗中傷と言う言葉がございます。 昔は面と向かって「おい、そこの馬鹿!」「とんま!」と罵ろうもんなら、「やいやい!お前さん、それは誹謗中傷でぃ!」という事になったものではございますが。 今は時代がとんと違う。 インターネット―とりわけSNSの世界は、とにかく複雑で分かりづらいものでございます。 うっかり特定の誰かをネガティブな言葉で表現しようものなら、どこからともなく警告が入る。 今時はAIを導入し、オートでマティックに誹謗中傷を検索するシステムもあるらしい。

          🌸疫病神-まくら-

          山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

          岩木山には、多くの神々が住まう。 そればかりか、仏様方も沢山お住まいである。 岩木山お山参詣で、山登る者達が口ずさむ祝詞を紹介しよう。 サイギ サイギ(懺悔 懺悔) ドッコイ サイギ(六根清浄) オヤマハツダイ(お山八代) コンゴウドウサ(金剛行者) イーツニナノハイ(一々礼拝) ナンキンミョウチョウライ(南無帰命頂礼) ( )内が訛った言葉を、登拝する行者達は口ずさむ。 余談だが、県外の人にはカタカナ部分が( )の言葉に聞こえないらしい。 言われてみれ

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          山に坐すもの-続・岩木山回顧録-

          🌸岩木山 回顧録-序文-

          岩木山は、真っ白な霧に覆われていた。 スカイラインで山の8合目まで登り、そこからリフトで9合目を目指す。 「明日、暇だが?」 師匠に聞かれたのは、昨夜だった。別段急ぎの用もなかったため、頷く。 「せば、明日迎えに行く。」 大きく頷き、師匠は目じりに皺を寄せて笑った。  師匠一家は、どこか浮世離れしたところがある。 本人たちはいたって真面目なのだが、ちょっとしたところで常識からズレるのだ。  例えば、こんなことがあった。 他県で離職し、青森に戻ってきた私はニー

          🌸岩木山 回顧録-序文-

          🌸『走れ、白狐。』

           どちらかと言えば、体が弱い。 医師からも、激しい運動は控えるよう言われている。 それなのに、走らねばならない。そんなこともある。  数年前。私がまだ、祈祷師ではなかった頃の話。見える(だけ)子ちゃんだった時分のことだ。 旧青森駅の改札を抜け、連絡通路へ向かうエスカレーターに乗った。 ぴちぴちギャルだった私は、ハイヒールのロングブーツ。 ちらつき始めた雪をも恐れぬ格好で、ヒールの音高らかに闊歩していた。 青森から、他県にある自宅に帰る途中だった。 スマホをい

          🌸『走れ、白狐。』

          さらば、愛しき人よ-4500年越しの離婚-

          前世というものがある。 この人生すら難儀しているというのに、私は懲りずに何度も生まれ変わっているらしい。 袖振り合うも他生の縁と言うが、人生の中ですれ違う人はたいてい前世でも出会っている。 彼と私もそうだった。 一番古い前世は、古代バビロニア。 私は琴弾きの男性で、彼は勝気な女性だった。 私は自然の中で四六時中琴を奏で、彼は人間に興味のない私に苛立っていた。 その次は古代の韓国。 彼は賢君とも暴君とも言われた皇帝で、私は後宮仕えの侍女だった。 ラ

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          さらば、愛しき人よ-4500年越しの離婚-

          いつかの海辺にてー湊村 奇譚ー

           物寂しい、漁村だった。 ひっくり返った船の脇に、千切れた網や割れた木の板が転がっている。 ここはどこだろう。 辺りを見渡すと、湊村と看板があった。 知らない村だ。なぜ私はここにいる? 縁もゆかりもない村にぽつねんと立っている理由を考え、私は「あっ」と声をあげた。  夜、父がお客を連れて帰ってきた。 ざっとみて、百人前後。当然、生きている人間ではない。 お客は総じてボロを纏い、裸足の者までいる。 垢じみた足や手は、古木の枝のように細かった。  父は、よくこ

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          いつかの海辺にてー湊村 奇譚ー

          或る先導たち―三輪山 登拝記―

           旅に先導があるのは、心安まるものだ。 数年前、奈良へ行った。修行のためだ。 春日大社を詣で、神様やご神木と会話を交わし、 「明日、三輪山を登拝させていただきます。」 登拝の無事をお願いした。 地図はあるものの、初めての三輪山である。 加えて、御年六十うん歳の母も共に登る。 登拝の途中、母がくたびれやしないか。怪我はないか。 山中で迷い、遭難したらどうしよう。 不安要素はたくさんあったが、その晩は三輪駅近くのゲストハウスに宿をとった。  焼き鳥屋のカウンタ

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          或る先導たち―三輪山 登拝記―

          不思議な家に生まれつきまして候

          思い返せば、不思議な家だった。 割烹料理屋を営む祖母の家には、神様がたくさんいた。 お稲荷様。龍神様。だるま様。弘法大師様。 天照大御神様と氏神様に加え、神棚はたいそう混雑だったろう。 収まり切れなかった神様が、床の間にまで進出する始末である。  床の間には、龍神様の掛け軸が掛けてあった。 この龍神様と私には、ひとかたならぬ縁がある。  産後、母が私と床についていると、 ぴちゃ、ぴちゃ  ぴちゃ、ぴちゃ 頭上から音がする。 犬や猫が舌で水をすくい飲む音に

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          不思議な家に生まれつきまして候

          幻燈会の夜

          私は祈祷師 橘。 これは、大ちゃんから聞いた話。 消防団の屯所につく頃、辺りはすっかり暗くなっていた。 息を整え、脱ぎ散らかされたゴム靴や下駄の隙間に何とか靴をねじ込む。  今日は、幻燈会の夜だ。 うたた寝を過ごしたことを後悔していると、 「おぉい。」 二階から、青白い腕が手招きしていた。  襖の外された部屋から、幻燈の青白い光が漏れている。 四畳半ほどの小部屋は、チビやのっぽの人影でみっしり埋まっていた。人影たちは身じろぎもせず、幻燈に見入っている。  

          幻燈会の夜