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疫病神-その弐-

でもそんな香織に対し、「あなたそれ、間違ってますよ?」と教えてくれる人はいない。

そればかりか、意見を同じくする人も沢山集まってきて、香織には友達まで出来た。

こうなると、もう死ぬなんて思わない。

毎日が楽しくてしょうがない。

【スピリチュアルブームの中、多くの人が何の考えもなしに霊能者やスピリチュアーの言うことを妄信しています。

でも、香織さんのように勇気を持って異を唱えてくれる人がいて本当に良かった。

ブログを書いてくれてありがとう!

私も、スピリチュアルを卒業して、身近な人や生活を大事にすることに集中します。】

こんなコメントなんて貰った日には、心は錦の有頂天。

鼻は高々、天井まで突き破るほどの充実感を味わった。


「ねぇ私、あんたのこと誤解してた。

初めて会った時は、なんて気味の悪いじじぃだと思ったけれど、あんたは本当に私が自殺するのを止めに来てくれたんだね。」


『お前さん、まだ死にてぇかい?』


「まさか!死にたいなんてちっとも思わない!

最初は、霊能者やスピリチュアルを仕事にしている人間で、鬱憤を晴らしてやろうと思って始めたブログだったんだ。

だってこいつら、お金も人気も何もかも手に入れてるじゃない。

私がどんなに欲しくても、手に入れられなかったものをこいつらは持っている。

私がどんなに頑張ったって誰も感謝もしないのに、スピリチュアー連中は大勢の人からありがとうって言われている。

私、それがどうしても悔しくて。

でも、今じゃどう?

こんなに沢山の読者やファンが、私のブログを見に来てくれる。

私の気持ちに共感してくれたり、「いいね」と言ってくれる。

感謝までされちゃった。

私、自分は何のために生きているんだろうって、ずっと分からなかった。

でも、もしかしたらこれかもしれない。

霊能者やスピリチュアーを批判して、スピリチュアルに疲れたり傷ついてきた人たちを助けるの。

それが、私の役割なんじゃないかって今は思ってる。

だとすれば、ここまで導いてくれたあんたに感謝しないとね。

あんたの汚いナリを見て、初めはすわ貧乏神か、疫病神かと思ったけれど…。

あんたは、福の神だった。

ありがとう、私を助けてくれて。」


『俺ぁ、お前さんが生きようとしてくれればそれでいい。

死にてぇ気持ちのままもたついていれば、うっかり死神が来ちまうからなぁ。』


「死神?死神なんて本当にいるの?」

老夫はくくくと笑う。

『いるよ。死神は、人を死へ招く。貧乏神は、人を貧乏のどん底に落す。疫病神は…』

「厄や病気を振りまく神様なんでしょう?」

『いや、違う。

疫病神てのはなぁ、大勢を巻き込んで、どん底まで落そうとするモノのことよ。

疫病神に触れてみろ。

あっという間に飲み込まれ、取り込まれ…

まっとうな所まで自力で戻れる人間は、一体どれほどいるんだろうなぁ。』


「怖い。疫病神って、よほど邪悪な顔をしているんでしょうね。」


『いんやぁ。疫病神は、いっつも清々している。

清々した笑顔で、人をどん底まで導いていくのさ。』


「余計に怖いわ!私、そういうヤツ絶対に無理なんですけど。」


『良く分かってるじゃねぇか。いいか、絶対に疫病神に引き込まれるなよ?』


「はーい、わかりましたー。」


おやおや、香織と老夫、いつの間にかいいコンビになっております。

さて。

良い相方が出来、同好の士も増えてきた。

人気者になってからも毎日のブログ更新、コメントやメッセージへの応答、仲間との意見交換に加え、香織は新たな読者の開拓にも余念がない。

今の日本で、最もスピリチュアルに疲れたり、傷つきやすいのは、スピリチュアルを信じる人々だろうと狙いを定め、スピ好き達のブログを覗いては、記事を二つ三つばかり読み、「いいね」ボタンを押して自分の足跡を残す。

しばらくすると案の定、スピリチュアル好きのブロガーから、

【香織さんのブログ、共感します】

【私も、過去に霊能者さんとのやり取りで傷ついた事がありました。】

【私を傷つけたスピリチュアーさんを、たまたま香織さんがブログで批判してくれて、なんだか溜飲が下がりました。これからも、ブログを楽しみに読ませていただきます。】

こんなコメント届きだした。

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